バーゼル市立美術館:世界最古の公共美術館のひとつ

バーゼル市立美術館は1671年に設立された、スイスのバーゼルにある美術館です。世界最古の公共美術館の一つであり、ハンス・ホルバインのコレクションのほか、ダダイスムやシュルレアリスムといった近代美術のコレクションに定評があります。そんなバーゼル市立美術館の歴史とコレクションについて詳しく解説していきます。

■バーゼル市立美術館とは

バーゼル市立美術館は、スイスの北西部に位置するバーゼルに設立されました。バーゼルはスイスの中で三番目に人口の多い都市であり、古くは1世紀以前からケルト人の集落が存在していたといわれています。5世紀初頭にフランク王国の司教座が設置されたのち、中世には帝国直属の司教領となりましたが、1356年に起きたバーゼル地震で壊滅的被害を受けてしまいます。1501年にはスイス原初同盟に加入し、プロテスタント勢力に属するようになります。歴史的にはバーゼル公会議や1499年のバーゼル条約、1897年の世界シオニスト会議などが行われるなど、重要な役割も果たしてきました。

この美術館はスイスの中でも豊富なコレクションが揃っており、国家遺産に登録されています。印刷業などで財を成したアマーバッハ家が蒐集した美術品をバーゼル市が購入し、公開した展示会がもととなっています。アマーバッハ家は実業家であるとともに、芸術家たちの支援も行っており、その中にはドイツ・ルネサンスを代表する画家ハンス・ホルバインも含まれていました。バーゼル市立美術館は公共美術館としてはかなり早くに開館した美術館のひとつで、バーゼル市の芸術政策が非常に先んじていたことを示しています。

■バーゼル市立美術館のコレクション

バーゼル市立美術館のコレクションはルネサンスから現代にいたるまでの作品から構成されており、特に15世紀から16世紀のルネサンス、加えて19世紀から20世紀にかけて活躍した印象派やキュビスム、ダダイスム、シュルレアリスムといった画家たちの作品が充実しています。

そんなバーゼル市立美術館のコレクションには、どのような作品が含まれているのでしょうか。主要な作品をご紹介します。

・《墓の中の死せるキリスト》 1520年 ハンス・ホルバイン

本作品は1520から1522年頃に制作された作品で、ドイツ・ルネサンスを代表する画家ハンス・ホルバインによって描かれた作品です。

ホルバインは1497年あるいは1498年の初頭に神聖ローマ帝国のアウクスブルクに生まれました。1515年ごろからスイスのバーゼルやルツェルンなどで画家として活動しており、1516年にはバーゼル市長夫妻の肖像画である《バーゼル市長ヤーコプ・マイヤー夫妻の肖像》を描いていることから、若いころからその才能が認められていたことが分かっています。

1526年になるとホルバインはエラスムスの紹介でロンドンへ渡ります。いったん帰国するものの、1532年には再びロンドンに渡り、1536年にはイングランド王ヘンリー8世の宮廷画家となり、王族や貴族たちの肖像画を多数制作することになります。当時の宮廷において肖像画は外交上非常に重要な道具であり、一種のお見合い写真としても使用されていました。

(Public Domain /‘ Portrait of Henry VIII’ by Hans Holbein. Image via WIKIMEDIA COMMONS)
(Public Domain /‘AnneCleves’ by Hans Holbein. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

ホルバインはヘンリー8世の妃の候補者の肖像画も描いており、《アンナ・フォン・クレーフェの肖像》や《デンマーク王女クリスティーナの肖像》が現存しています。しかしヘンリー8世の2番目の妃となったアンナ・フォン・クレーフェの肖像画を描いた数ヶ月後に彼らは離婚してしまいます。そのとても巧妙に描かれたアンナの肖像画を見てヘンリー8世は落胆してしまったと言われていますが、その事実は定かではありません。ホルバインは晩年1543年に感染症にかかり、ロンドンにてその生涯を閉じることとなります。

本作品はそんなホルバインによって描かれた作品です。腐敗したキリストがお墓に横たわっており、それは普通の人間の末路のようです。痩せこけた身体と半開きになった目や口、手足にある傷はとてもリアルに描かれています。彼は本作品を描く際、自ら死体を川から引き上げそれをモデルにしたといわれています。

現在のところ何のために制作されたのかは明らかになっていませんが、祭壇の飾りまたは棺の蓋として作成されたのではないかと考えられています。

・《ドービニーの庭》 1890年 フィンセント・ファン・ゴッホ

(Public Domain /‘Daubigny’s garden’ by Vincent van Gogh. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

本作品は1890年に制作された作品で、ポスト印象派の画家フィンセント・ファン・ゴッホによって描かれた作品です。

フィンセント・ファン・ゴッホは1853年オランダ南部の北ブラバント州、ズンデルトに生まれました。1860年に村の学校に入学し、1864年にはゼーフェンベルゲンの寄宿学校に入学するもホームシックにかかってしまい、1866年にはティブルフの中学校に進学することになります。1869年16歳の時には叔父に紹介してもらい美術商であるグーピル商会で働くようになります。

1873年にはグーピル商会のロンドン支部に移りますが、下宿先の娘への恋に破れたことをきっかけとして宗教に関心を抱くようになっていきます。1877年にはアムステルダムの著名な神学者であったヨハネス・ストリッケルのもとに身を寄せたものの、宣教師学校での勉強に挫折し、1881年には両親のもとに戻ることとなってしまいます。このころから恋に破れ、いとこと仲たがいしてしまうなどゴッホの人生は加速度的に破綻していきました。

その後ゴッホは絵を描くことに救いを見出すようになり、パリで目にした新印象派たちの作品を制作に取り入れるようになっていきました。パリからアルルに居を移すと意欲的に制作活動をはじめ、ゴーギャンと共に共同制作をはじめますが、その生活は喜ばしいものではありませんでした。1888年12月23日に起こった、ゴッホが自らの耳を切断した事件はそれを物語っています。その2年後である1890年7月、持病もあってか彼は37歳という若さで亡くなることとなります。

そんなゴッホによって描かれた本作品は、ゴッホが生涯を通して尊敬していた画家シャルル・フランソワ・ドービニーの庭を描写したものです。ゴッホは最初庭の一部分を描き、それから庭全体を描いた2点の作品を制作しています。

遠景には館や協会と思われる建物が描かれ、緑を基調とした豊かな植物が広がっています。強く流れるようなタッチはゴッホならではの作風であり、春から夏にかけて豊かな自然が繁茂する様子が描かれています。

■おわりに

バーゼル市立美術館は世界最古の公共美術館のひとつであり、ルネサンスから19世紀、20世紀にかけての活躍した画家たちの作品を所蔵しています。美術館のコレクションは非常に膨大なものであり、展示されている作品をじっくり鑑賞すると1日ではとても足りないかもしれません。ぜひゆっくりと時間を取って、バーゼル市立美術館のコレクションを鑑賞してみてはいかがでしょうか。

出典サイト:

ウィキペディア 【バーゼル】:2021.01.21

ウィキペディア 【バーゼル市立美術館】:2021.01.21

ウィキペディア 【ハンス・ホルバイン】:2021.01.21

コトバンク 【バーゼル】2021.01.22

ウィキペディア 【The Body of the Dead Christ in the Tomb】2021.01.26

公式サイト

※本記事はコロナウイルス感染拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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