ハーシュホーン博物館:至極の現代アートに出会える美術館

スミソニアン博物館群のうちのひとつであるハーシュホーン博物館は、現代的でモダンさを感じさせる、ドーナツ型のシンプルな作りとなっています。その装いからも、まるで現代アートの世界へと誘っているようです。ユニークで斬新な現代アートの世界が散りばめられた空間となっており、名称上は博物館を名乗っていますが、実質美術館としての側面が大きいです。今日はそんなハーシュホーン博物館について詳しく解説していきます。

ハーシュホーン博物館とは

アメリカの首都であるワシントンD.C.は、様々な民族が集まっていながら、各々の文化が入り混じり上手く共存している地です。その為、固有の文化と言えるものは少ないですが、あらゆる文化の良い所を取り入れています。また、計画都市でもあるワシントンD.C.は、国の建造物や公園、道路配置など、隅々に至るまで計算し尽くされた姿で作られています。それもあってか、アメリカのパリと称されるほど美しい町となっており、自然的な町と言うよりも国の威信を表す場として強調された都市となっています。

そんなワシントンD.C.のナショナルパークの一部にあるのが、この博物館。実質美術館であるハーシュホーン博物館には、モダンアートや近代アート作品が展示されており、前衛的な空間となっています。建物は、建築家ゴードン・バンシャフトによって建築されました。宇宙船を予感させるような外観は、近代世界への入り口的役割を担っています。展示品もまた、ドーナツ型の建物の構図を上手に生かした展示方法となっています。

ハーシュホーン博物館の収蔵品とは

(Public Domain /‘View of the sculpture garden at the Hirshhorn Museum in Washington, D.C.’by Gryffindor. Image viaWIKIMEDIA COMMONS)

三階建て+地下によって構成されているハーシュホーン博物館は、ドーナツ型の建物の中に入ると何処か不思議な空気感に包まれます。外からはモダンな空気を感じ、中からは太陽の光を感じる、自然的な作りとなっています。円形であることから、展示室は一つの空間で繋がっており、無限ループができるようになっています。その壁に張り巡らされた絵画達は、空間を無駄にする事無く飾られ、円形の道筋に辿れば迷う事無く順番に回れます。隅にある絵を見忘れると言う心配も要りません。一階には土産物屋とカフェもあり、多くの人が行き交う空間となっています。

ハーシュホーン博物館の入場料は無料です。各階でコンセプトは異なりますが、新進気鋭の現代アートを中心に飾られています。一見すると難解な作品も多く、古典的な作品が揃う美術館とは一風違います。
特に庭園には、即座に目に付く草間彌生作の大きな黄色い「カボチャ」が展示されています。この作品は撮影スポットとしても人気で、多くの人が記念撮影にカボチャを利用しています。また、常時特別展が催されており、その時々によって違うテーマを扱っています。

果たしてどのような収蔵品が有るのでしょうか?早速見て行きましょう!

〈ビッグマン〉ロン・ミュエク

こちらは、人間の正しくリアルな姿を写し出した作品です。元々児童向け作品のパペットなどを作っていたミュエクは、しだいにその視覚から得られる情報をより忠実に再現した作品を作っていきます。ミュエクは、亡くなって横たわっている父親の姿までも忠実に再現した作品を作りました。その忠実さは、人体模型さながらです。シワや筋肉の状態、骨格の感じなどは、まるで本物の人間が息をせずその場に存在しているかのような感じです。リアル過ぎて、若干の恐怖さえ覚えます。

ビッグマンというこの作品は、その名の通り大きい男性が全裸で人間のありのままの姿を隠す事無く、壁にもたれながら体育座りしています。不気味さとリアルさの狭間にある、不可思議な作品です。何も知らずにその場を通り掛かれば、驚く事は間違いありません。その姿は、臆する事なく自らの身体で心情を表現しています。血管なども細部まで表現されており、その突き出た腹はメタボの象徴とも言えます。

〈カレー市民〉オーギュスト・ロダン

カレーの包囲戦と言う、実際に起きた事件を基に作られた彫刻です。ロダンは、世界的にも知られた彫刻家で、現代ではその功績から近代彫刻の父と称される人物です。当初、装飾職人として働いていたロダンは、この仕事から繊細で緻密な技法を身に付け、独学で彫刻の世界へと突き進みました。その技法により、人間から型を取ったのでは無いかと疑われるほど緻密でリアルな姿を作り出しました。その表情からも、人間の心理描写を露にしています。特に代表作の「考える人」は、今や知らない人は居ないほどの作品です。

イギリス軍によって包囲されたフランスのカレー市は、交渉の証としてカレー市民の代表六名を処刑する事で、包囲を解くと言う条件をエドワード三世により出しました。この彫刻のモデルはその代表に選ばれた人々で、究極の自己犠牲の象徴となっています。その悩ましくも痛々しい姿は、代表と言えば聞こえが良いものの、人々の命を助ける為に選ばれた生け贄の、名誉であることの反面死を意味する極限の状態を実直に表しています。結果的に王妃の助言により処刑される事の無かった彼等ですが、彫刻からは、極限に追い込まれた姿をリアルに感じます。

〈カボチャ〉草間彌生

美術館の外に飾られており、気軽に鑑賞出来る作品です。草間彌生は、水玉模様を多くの作品のモチーフとして扱っています。幼少期から幻覚や幻聴という症状に悩まされ、その心理的苦痛から身を守る為、見えた物や感じた物を形として残し、それを作品化していきました。その独創的な世界観は、幻覚や幻聴といった非現実的なイメージでありながらも、彼女にとっては現実世界との狭間を表した世界となっています。なかなか感じる事の出来ない非日常に触れることができる作品とも言えます。

草間彌生は特に、水玉模様のカボチャを頻繁に制作しており、ハーシュホーン博物館のみに限らず、似た雰囲気のカボチャを日本国内でも数ヵ所で見る事が出来ます。カボチャからはポップで親しみのある気質を感じられ、何の変哲も無く突如として美術館の前に表れるのもあってか、幻覚と言う世界からはかけ離れた作品に見えます。また、明るい色調なので、気分を明るくしてくれます。

終わりに

現代アートと言われると、一瞬理解し難い世界が広がっていると感じられるかもしれません。しかし、そこには芸術と言う枠に縛られずに人々の心情を表した作品の数々が展示されています。それらの芸術の捉え方には、見る者それぞれに正解の形があります。ぜひ一度ハーシュホーン博物館に足を運んで、その世界観を感じてみてはいかがでしょうか。

※本記事はコロナウイルス感染拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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