プリ・ルキサン美術館:戦前から現代までの伝統的なバリ芸術を集めたバリ最古の美術館

プリ・ルキサン美術館は、インドネシア・バリ島にあるバリで最も古い美術館です。伝統的な絵画や木彫り作品・現代アーティストの彫刻など、バリで育まれた芸術にふれることができます。また、ワークショックも数多く開催しており、旅の大切な思い出作りにも最適な人気スポットです。そんなプリ・ルキサン美術館の歴史と所蔵品について詳しく解説していきます。

プリ・ルキサン美術館とは

プリ・ルキサン美術館はインドネシアのバリ島にある美術館で、1956年に開館しました。バリ島で最も古い博物館とされており、インドネシア語の「プリ・ルキサン」には絵画の王宮という意味があります。

バリ島で発展した独自の芸術は、18世紀頃から世界的に認められ始めました。しかし、その注目度と比例して、多くの芸術作品がインドネシアの他地域や諸外国に流出します。そのため、伝統的なバリ芸術をバリ島の地で受け継いでゆくために、保存・管理するプロジェクトがスタートしました。

オランダ人画家ルドルフ・ボネットとウブド王宮がプロジェクトの中心となり、1936年にアーティスト協同組合「ピタ・マハ」を設立しますが、第二次世界大戦で活動の中断を余儀無くされます。戦後の混乱が落ち着くと、「ウブドの画家グループ」と呼ばれる新しい組織が立ち上がりましたが、すぐに活動停止しました。

1953年になり「ピタ・マハ」の意思を継ぐラトナワルタ財団が設立されると、ルドルフ・ボネットが設計した博物館の建設準備が始まります。資金面での課題はありましたが、複数の支援を受けて予定通りに建設が行われました。

そして、1956年に博物館は開館を迎えます。その後1982年・2011年に展示スペースの拡大工事が行われ、現在は4つの建物で展示を行っています。ワークショップが豊富なことでも有名で、古典絵画・テキスタイル・マスクペインティング・かご細工をはじめ、ガムラン楽器・竹のフルート演奏・バリ舞踊などを体験可能です。また、見どころは美術館の外にもあり、自然豊かな庭園やカフェは休憩にぴったりです。

プリ・ルキサン美術館の所蔵品

プリ・ルキサン美術館のコレクションは、ルドルフ・ボネットが寄贈した絵画作品が基礎となっています。その後、インドネシアのアーティストや美術館協力者からの寄贈によってコレクション数を増やしてきました。

当美術館に所蔵されている伝統絵画・木彫り作品・現代彫刻の多くは、独立戦争前(1930年~1945)から独立戦争後(1945年~現在)に制作されました。サヌール・バトゥアン・ウブド・カマサンなどの様々な伝統技法が使用されており、バリ島で歴史を紡いできた人々の生活を感じることができます。また、常設展だけではなく特別展も定期的に行われており、地元で活躍するアーティストの作品を取り上げています。

そんなプリ・ルキサン美術館のコレクションには、どのような作品が含まれているのでしょうか。主要な作品をご紹介します。

《剣の舞》1940年グスティ・ニョマン・レンパッド

本作品は1940年に制作された作品で、「ルネサンスの男」として知られる芸術家グスティ・ニョマン・レンパッドによって描かれました。グスティ・ニョマン・レンパッドはバリの芸術復興に大きな影響を与えたとされており、国際的にも高く評価されています。

グスティ・ニョマン・レンパッドは1862年、インドネシア・ウブドに近い村で生まれました。レンパッドの父親も芸術家だったため、幼少期から絵画に親しんでいたそうです。成長後は、スカワティ王家に仕える彫刻家・建築家として活躍します。建築家として複数の宮殿・寺院を手掛けましたが、キャリアの中で最も有名なのはサラスワティ寺院の設計です。一方で、絵画を販売することには興味が無く、絵に興味を持った人には無料で提供したというエピソードがあります。

1936年頃には、オランダ人画家ルドルフ・ボネットとウブド王宮が設立したアーティスト協同組合「ピタ・マハ」に参加します。バリ芸術の発展・保存を強く願っていたレンパッドは、自身の作品でもバリの伝統・ルーツを表現し続け、1978年にその生涯を閉じました。

レンパッドは海外の芸術界でも有名な作家で、アムステルダム・東京・パリなどで個展を開きました。また、短編ドキュメンタリー映画「バリ島のレンパッド」でも彼の人生が紹介されています。

レンパッドの作品のモチーフとなっているのは、叙事詩ラーマヤナ・バリ民謡・ヒンドゥー教の神話・バリ島の歴史・バリ島に伝わる神話などです。これらの作品は、現代で活躍するバリの若手アーティストたちに影響を与え続けています。本作品は墨絵のような独特で緻密な筆使いと、今にも動き出しそうな人物の表現が特徴です。レンパッドは同じような線描画の作品を数多く残しており、当美術館でも複数展示されています。


《サル・ヘビ・トラを井戸から解放する司祭》1935年アイダ・バグース・ゲルゲル

本作品は1935年に制作された作品で、インドネシアの画家アイダ・バグース・ゲルゲルによって描かれました。

アイダ・バグース・ゲルゲルは、バリ島のカマサンで1900年に生まれました。カマサンは西洋文化の影響をあまり受けなかったため、ゲルゲルはバリ島の伝統的な絵画技法を習得することが出来ました。しかし、発想力・想像力に富んでいたゲルゲルは、次第に伝統技法の枠を超えた作品を制作するようになります。1937年にはパリで開催された国際植民地芸術展で銀メダルを受賞しました。

本作品は紙に天然絵の具を使用して描かれたバトゥアン・スタイルの作品で、当美術館の傑作の1つです。インドネシアに伝わる動物の寓話の一場面がモチーフで、井戸からサル・ヘビ・トラを助け出す司祭を描いています。

《女神デウィ・スリ》1960年ケトゥット・ジェデン

本作品は、1960年にケトゥット・ジェデンによって制作されました。

ケトゥット・ジェデンは、バリ島のギャニャール地区で生まれた木彫師です。1960年にジャカルタで開催された国際展示会では木彫り部門最優秀賞を受賞するなど、インドネシアを代表する彫刻家です。

彼の作品の特徴は、バリ島北部で栽培されるエキゾチックな木を使用して、細かな装飾をほどこしていることです。この特徴は本作品にも同様にみられ、頑丈な木の特性を生かしたしなやかなカーブに目を奪われます。モチーフとなっているのは女神デウィ・スリで、生命・富・繁栄を司る神として知られています。

おわりに

プリ・ルキサン美術館はバリ島にあり、過去数十年の伝統絵画・彫刻を鑑賞することができます。様々な技法で描かれた作品からは、バリ島の田舎の風景・村人たちの生活を想像することができます。

※本記事はコロナウイルス感染拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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