ワヤン博物館:インドネシアの伝統芸能「ワヤン」に関する資料が所蔵される博物館

ワヤン博物館は、インドネシアのジャカルタにある影絵人形の博物館です。インドネシアに伝わる伝統的な影絵人形芝居に使用する道具、人形、楽器など約5000点の資料が展示されています。そんなワヤン博物館の歴史と所蔵品について、詳しく解説していきます。

ワヤン博物館とは

ワヤン博物館は、インドネシアのジャカルタにある影絵人形の博物館で、1975年に開館しました。

ジャカルタのコタ地区にあるファタヒラ広場に面した場所に建てられています。ジャカルタは、ジャワ島に位置するインドネシアの首都です。都市圏に住む人々は3000万人ほどで、高層ビルやショッピングモールなどは常に賑わいを見せています。

歴史的には16世紀頃から様々な国の占領下に置かれていました。インドネシアが独立を果たし、ジャカルタが首都となったのは1949年です。その後は人口も増加し、急速に発展してきました。そんなジャカルタの中でも、ワヤン博物館があるエリアは観光スポットが多く、近辺にはジャカルタ歴史博物館や絵画陶磁器博物館もあります。

もともとこの場所には1640年に建てられた旧オランダの教会の建物がありました。その後、何度か改装を繰り返し、現在は博物館として使用されています。

ワヤン博物館のコレクション

ワヤン博物館は、インドネシアの伝統的な影絵人形芝居であるワヤンに関するコレクションを約5000点所蔵しています。主に影絵人形芝居に使用される道具や人形が展示されており、イスラム教やキリスト教などの宗教的な話の芝居で使用されるもの、民話で使用されるものなど、芝居の種類によって異なる人形を見ることができます。また、定期的に上演される影絵人形芝居も人気を集めています。

そんなワヤン博物館のコレクションには、どのような作品が含まれているのでしょうか。主要な展示をご紹介します。

《ワヤン・クリットの人形》

本展示は、ワヤン・クリットで使用される人形の展示です。

ワヤン・クリットとは、ジャワ島やバリ島で10世紀頃から上演されている伝統的な影絵芝居のことで、「ワヤン」は影、「クリット」は皮を意味します。影絵芝居で使用される平面的な人形は水牛の皮で作られており、ダランと呼ばれる人形遣いによって上演されます。人形は1本の棒で支えられ、関節の部分が動かせるようになっています。手作りで非常に細かく作られているこの人形を、ダランが動かしながら芝居を進めていきます。この時ダランは1人で多くの人形を使い分け、複数の登場人物を演じます。多い時には、100体の人形を操ることもあるそうです。

影絵芝居は、白いスクリーンの裏にワヤン・クリットの人形を置き、後ろからランプで光を当てることで、人形の影がスクリーンに映し出される仕組みです。この人形には細かい穴が開けられている部分があり、輪郭の影だけではなく手足の境界が分かるようになっています。通常は、観客はスクリーンの前に座って鑑賞しますが、スクリーンの裏を鑑賞することもできるので、ダランが人形を操る様子も見ることができます。

ワヤン・クリットの演目は、長い間ダランや人形の製作者などの間で、口頭で伝承されてきました。光と影を巧みに操る芸術として高い評価を受けており、2009年にはユネスコの世界無形文化遺産として登録されています。

《ワヤン・ベベルの絵巻物》

本作品は、ワヤン・ベベルで使用される絵巻物です。

ワヤン・ベベルは、歴史としてはワヤン・クリットより古く、ワヤン絵画である絵巻物を使用して物語を語る伝統芸能です。13世紀頃からインドネシアで演じられており、もともとは雨乞いや病気の治癒を祈願する際などに演じられるものでした。使用される絵巻物にはマハーバーラタやラーマーヤナという古代インドの叙事詩が描かれ、絵巻物を操りながら物語を演じる手法がとられます。10世紀頃にヒンドゥー教がインドネシアに伝わり、同時期にこれらの叙事詩も伝わったと言われています。

マハーバーラタは世界3大叙事詩の1つで、紀元前4世紀から紀元後4世紀頃までに成立したと言われています。サンスクリット語で書かれたこの叙事詩は、聖書の4倍の長さと言われています。ストーリーはパーンダヴァ五王子とカウラヴァ百王子の王位継承争いが中心です。基本的にはパーンダヴァが正義、カウラヴァが悪として描かれていますが、正義とされるパーンダヴァが不法を働いたり、その事に対して思い悩んだりする人間の生き様が細かく表現されています。

ラーマーヤナは、マハーバーラタと並んでインド2大叙事詩とされます。自国を追放されたラーマ王子を主軸としたストーリーで、ラーマ王子の旅の様子やヒンドゥー教の神話が語られるものとなっています。途中、妻のシーターがさらわれる場面があり、その妻を助ける過程はラーマーヤナの重要なポイントとされます。また、マハーバーラタと同様に、教訓や道徳的観念を説く物語です。

《ガムランの楽器》

本展示は、ガムランというインドネシアの民族音楽で使用される楽器です。

ガムランは銅鑼や太鼓、鍵盤打楽器を中心とする合奏で、ワヤン・ベベルやワヤン・クリットの伴奏でも使用されます。「ガムラン」という言葉は、古代ジャワ語の叩く、打つなどの言葉に由来しているため、打楽器がメインの音楽です。また、同時に行われる古代詩の朗詠も重要な役目を担っています。

ガムランで使用される楽器は、青銅製のものがほとんどです。鉄琴に似た鍵盤打楽器や銅鑼は、青銅製のものにすると音が良いと言われますが、まれに鉄製のものも見られます。また、竹も楽器の制作によく用いられており、鍵盤を共鳴させる筒の材料とされたり、合奏に加わる竹笛が制作されたりしています。1つの旋律を何度も演奏しながら、強弱やテンポを変化させていくのがガムランの特徴です。各楽器の音色を重ね合わせることで、インドネシア独特の音とリズムが意識されることとなります。

おわりに

ワヤン博物館は、インドネシアが長い時間をかけて発展させてきた伝統芸能についての資料が展示されているだけではなく、世界無形文化遺産に登録された芸術を鑑賞することができる、貴重な博物館です。

※本記事はコロナウイルス感染拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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