フランス・ハルス美術館:オランダの天才肖像画家フランス・ハルスの美術館

フランス・ハルス美術館は16~17世紀黄金期のオランダで活躍した天才肖像画家フランス・ハルスにちなんで設立された美術館です。フランス・ハルスはレンブラント、フェルメールと並んでオランダを代表する絵画の巨匠です。美術館はハルスの作品12点の他、ハーレムを中心に革新的な絵画の発展を遂げたオランダの絵画をコレクションしています。

フランス・ハルス美術館とは

フランス・ハルス美術館はオランダのハーレムに位置し、16~17世紀黄金期オランダで活躍した天才肖像画家、フランス・ハルスにちなんで設立された美術館です。フランス・ハルスはレンブラント、フェルメールと並んでオランダを代表する巨匠とされており、その偉大な功績からオランダの10ギルダー紙幣に肖像画が使用されていたこともあります。

彼の生き生きとした大胆な表現技法は、写実主義のギュスターヴ・クールベや印象派のモネ、マネ、そしてゴッホにも多大な影響を与えました。19世紀にフェルメールを再評価したことで名高い、美術史家のテオフィルド・トレ=ビュルガーによってその価値を見出されました。

もともとの建物は、1609年頃に建築された老人ホームで、のちに孤児院にもなっていたそうです。これを利用し、美術館は1913年に現在の場所で開館しています。ハーレム市は市庁舎において美術品の収集と展示を400年ほど前より開始しており、フランス・ハルス美術館のコレクションはこの市庁舎コレクションを継承して設立されました。
このことから、キュレーターのアントン・エルフトメイヤーはフランス・ハルス美術館を400年前から存続するオランダ最古の美術館であると強く主張しています。

2018年3月にフランス・ハルス美術館は現代アートの美術館「デ・ハーレン・ハーレム」と合併しました。これにより、フランス・ハルス美術館“ホフ”(既存のフランス・ハルス美術館)と“ハル”(旧デ・ハーレン・ハーレム)の2か所において美術館が展開されるようになりました。2つの美術館の融合により、オランダ黄金期の芸術から現代アートまでを一つの流れとして鑑賞できるようになりました。この流れを通じて、オランダ芸術の更なる理解の拡張と発展が期待されています。

フランス・ハルス美術館のコレクション

(Public Domain /‘Portrait of Frans Hals’by Frans Hals. Image viaWIKIMEDIA COMMONS)※自画像の複製画

フランス・ハルス美術館はフランス・ハルスの作品を12点所蔵しており、これはオランダで最も多いハルスのコレクション数を誇っています。また、オランダ黄金期のハーレムの画家達の作品から現代アートまでの幅広いコレクション数は、12000点にも及びます。

フランス・ハルスの肖像画、特に集団肖像画は、絵の中の晩餐風景を再現したスペースに展示してあり、まるで宴の席に同席しているかのような臨場感ある観賞を楽しむことが出来ます。また、ハーレム出身の画家であるマールテン・ヘームスケルクやコルネリス・ハールレム、偉大な肖像画家ヨハネス・フェルスプロンク、ハルスの弟であり画家のディルク・ハルスの作品やチューリップ価格高騰を風刺した作品など、16~17世紀のハーレムを中心として革新的な発展を遂げたオランダの絵画を網羅しています。

そんなフランス・ハルス美術館のコレクションには、どのような作品が含まれているのでしょうか。主要な作品をご紹介します。

《聖ゲオルギウス警備隊の士官達の晩餐》1616年頃フランス・ハルス

(Public Domain /‘The Banquet of the Officers of the St George Militia Company in 1616’by Frans Hals. Image viaWIKIMEDIA COMMONS)

本作品は1616年頃に制作された作品で、オランダ黄金期の巨匠フランス・ハルスによって描かれた作品です。

フランス・ハルスは1582年ごろ、アントワープに生まれました。しかし、ハルスの両親はスペインの支配から逃れる為にハーレムで暮らすようになります。ハルスはカレル・ヴァン・マンデルに師事し、1610年頃に画家組合である聖ルカ組合に入会しています。

ハルスは貴族の肖像画だけでなく、町の人、兄弟や漁師の子供、フルート吹きの少年、酔っ払いなど一般の人々も多く描いています。“アラ・プリマ”と呼ばれる、下描き無しで描く軽いタッチの技法で、人々の自然な表情を生き生きと描いています。即興による奔放な筆で感動をそのまま表現することにより、動きが感じられるスナップ写真のような作品となるのです。アラ・プリマはその緩くて荒いタッチから簡易な技法のように見えますが、計算された精密さや高度な熟練度が必要とされ、経験を積んだ画家でないと駆使することができない技法です。ハルスは完成されたアラ・プリマで多くの傑作を制作し、天才と呼ばれるにふさわしい技量をみせています。

ハルスは1616年、34歳ほどで聖ゲオルギウス警備隊の集団肖像画を依頼されました。その後も1639年まで20年以上にわたってハーレムの2つの警備隊、聖ゲオルギウス団と聖ハドリアヌス団の為に5枚の集団肖像画を描いており、この「聖ゲオルギウス警備隊の晩餐」は、最初の依頼で描かれた集団肖像画の作品です。

警備隊の役員の任期は3年間であり、任期終了の際には宴会が開かれていました。この作品は、1612年から1615年が任期だった将校達の送別の宴を描いたもので、12人の人物が描かれています。それぞれが歓談し、楽しむ姿が描かれており、数名はまるで誰かに声をかけられた瞬間のようにこちら側に振り返っています。その中で手前中央に描かれているのは分隊長ニコラス・ファン・デル・メールという人物で、1631年にハルスは単独で彼とその妻の肖像画を描いています。

人物の豊かな表情、歓談しあう人々の手の動き、服の素材感、テーブルの上の豪華な料理や食器、グラスの中のワインの表面に浮かぶ気泡までが細やかに描かれており、まるでその場に居合わせているかのような錯覚に陥ります。
この聖ゲオルギウス警備隊の集団肖像画は、1627年と1639年にもハルスによって描かれています。

《聖ハドリアヌス警備隊の士官達の晩餐》1627年頃フランス・ハルス

(Public Domain /‘The Banquet of the Officers of the St Adrian Militia Company in 1627’by Frans Hals. Image viaWIKIMEDIA COMMONS)

本作品は1627年頃に制作された作品で、フランス・ハルスによって描かれました。ハーレムで組織された、聖ハドリアヌスを守護聖人とする火縄銃部隊“聖ハドリアヌス警備隊”の晩餐の様子を描いています。

この作品はハルスの集団肖像画としての目覚ましい発展がみられる作品で、計算された精巧な構図で描かれています。部隊が斜めの十字で区切られているように見えるこの対角線の構図は、同時に2分隊の境界線となっています。人物の配列によって組織図をも表す新しいアイデアは、この作品以前においては使用されていません。これは、ハルスの集団肖像の革新的な変化とみることが出来ます。

当時、市民警備隊は無給ながら名誉職であった為、役員に選出されるのは裕福な市民たちでした。その為、描かれている隊員は全員が富裕層の市民となっています。テーブル左にはオレンジ色のサッシュを身に着けたウィレム・ヴォーグ大佐、その隣には医師のヨハン・ダミウスが描かれています。当時、大きな醸造所の経営者は最も裕福で権力のある市民であり、ヴォーグ大佐もその一人でした。

左端に立っているのは製図工兼彫刻家のアドリアン・マサム少佐で、ハルスの娘スザンナの洗礼の証人でした。彼の足元には犬が描かれており、ハーレム警備団の肖像画の中では唯一犬が描かれた作品になっています。

《養老院の女理事達》1664年頃フランス・ハルス

(Public Domain /‘The Regentesses of the Old Men’s Almshouse Haarlem’by Frans Hals. Image viaWIKIMEDIA COMMONS)

本作品は1664年頃に制作された作品で、フランス・ハルスによって描かれました。

フランス・ハルス美術館の建物はかつて、60歳以上の男性が過ごすことが出来る養老院でした。1664年、建物が養老院であった時代にハルスが職員達を描いたのが「養老院の理事達」と、この「養老院の女理事達」でした。男性職員と女性職員は分けられた編成で描かれており、対をなす作品です。

暗い背景の中浮かびあがるように描かれた女性職員達は、それぞれの職務の個性がわかるように描かれています。
中央に描かれている、威厳がありつつも穏やかな眼差しを持つ女性が理事長で、その理事長にそっと手紙を手渡しているのが寮母、右隣にいる厳格な表情をしているのが理事補佐、左隣はにいるのは冷静な面持ちの秘書です。

背景には10数種類もの黒や褐色を使用し、描かれる人物に独特の重厚感を持たせています。この養老院の理事達は貿易都市ハーレムの富裕層の人々であり、その気品と厳格さが空気で感じられる作品となっています。

また、本作品はハルスの晩年の作品であり、彼の集大成の傑作の一つです。そのため、後の写実主義や印象派に多大な影響を与えたことで知られています。

おわりに

フランス・ハルス美術館には巨匠フランス・ハルスの作品の他、16~17世紀に活躍したオランダ黄金期の原点となった画家達の作品を観賞することが出来ます。また、2018年に合併した旧デ・ハーレンにおいては、現代の革新的な芸術を楽しむことができます。

※本記事はコロナウイルス感染拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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