カーリエ博物館:ビザンティン美術の傑作として有名なモザイクとフレスコ画を有する博物館

カーリエ博物館は世界遺産(文化遺産)のイスタンブール歴史地域にある博物館です。天井と壁面に描かれた装飾絵画の数々はビザンティン美術末期の傑作と言われており、繊細ながらも確かな技術力が光ります。そんなカーリエ博物館の歴史と所蔵品について詳しく解説していきます。

カーリエ博物館とは

カーリエ博物館はトルコのイスタンブール歴史地域にある博物館で、1945年に設立されました。

もともとカーリエ博物館は、コーラ修道院の付属ソーテール(救世主)聖堂として11世紀に建設されました。現在の建物の母体は、12世紀初期にビザンティン様式で建設されたものです。外側はレンガでシンプルな作りであるのに対し、内部は高い技術力によって華やかで美しい装飾が施されているのが特徴です。

14世紀前後にはドーム・ナルテクス・墓廟礼拝堂・小礼拝堂などの改築・増築を繰り返していたことが判明しています。また、博物館の見どころでもある装飾絵画はこの時期に描かれたものです。

オスマン帝国の時代になるとイスラム教の礼拝堂(モスク)として改装され、名前もカーリエ・ジャーミイに変更されました。このとき、イスラム教が偶像崇拝を禁止していることから、キリスト教の教えを描いた装飾絵画は全て麻と漆喰で上塗りされ、近年まで忘れ去られることになります。

アメリカのビザンティン研究所の調査により再発見されたのは1948年で、研究所メンバーの除去作業によって豪華で美しい絵画が蘇りました。1958年には美術的価値を認めたトルコ政府により、カーリエ・ジャーミイから無宗教の博物館へと登録変更されています。

また、当博物館のあるイスタンブール歴史地域は、ユネスコの世界遺産(文化遺産)に登録されています。周辺には多くのモスクや宮殿が保存・修復されており、タイムスリップしたかのような街並みを楽しむこともできます。

カーリエ博物館の所蔵品

カーリエ博物館には、修道院の装飾として描かれた絵画が所蔵されています。ビザンティン美術末期(14世紀)の傑作揃いとの呼び声高く、モザイク画約180点・フレスコ画約80点のコレクションがあります。

そんなカーリエ博物館のコレクションには、どのような作品が含まれているのでしょうか。主要な3作品をご紹介します。

《キリストの生涯》14世紀作者不明

本作品は14世紀に描かれたモザイク画で、聖堂の玄関ホール・外ナルテクスの上部に描かれています。

モザイク画とは、石・タイル・貝殻・透明ガラス・カラーガラス・木片などの小片を埋め込んで絵柄を表現する美術技法の1つです。絵画や工芸品の装飾として、古代から世界各地で使用されていたことが分かっています。

そんなモザイク画の技法で描かれた本作品は、キリストの生涯がモチーフです。「父親であるヨセフがベツレヘムで見た夢」からはじまり、「キリストの誕生」「東方の三賢人」「幼児虐殺」「キリストの奇跡」など15の場面に分かれて描かれています。

また、外ナルテクスから1つ部屋を進むと内ナルテクスがあり、そこには聖母マリアの生涯を描いたモザイク画が描かれています。母と子のそれぞれの生涯を見比べながら鑑賞できる、貴重な空間だといえます。

《生神女就寝祭》14世紀作者不明

本作品は14世紀に制作されたモザイク画で、当博物館の聖堂に描かれています。

モチーフは「生神女就寝祭」で、生神女とは聖母マリアのことを指します。穏やかに生を終えて天国へ行くことを望んでいたマリアは、ある日自分の死期が近いことを悟ります。身辺を片付けて心の準備をしていましたが、彼女が我が子のように見守ってきた十二使徒(イエスの直弟子)に会えていないことだけが心残りでした。すると、驚くべきことに十二使徒がエルサレムのマリアのもとに現れ、喜びの中でマリアは眠りにつきます。3日後に十二使徒がマリアの墓へ行くと、そこにはキリストに抱かれた幼女姿のマリアがいいました。マリアは「自分の命は天の生命に遷された」と語り、それを聞いた十二使徒は歓喜の声を上げます。

このエピソードは聖書には記述が無く、伝承という形で今日まで伝わった話です。

本作品では、十二使徒がキリストと幼女マリアを取り囲んで賛美している様子が描かれています。キリストの衣服は輝く金色で装飾されており、神々しい姿が印象的です。対照的に横たわるマリアには落ち着いた青色の衣服が着せられており、穏やかな眠りを表現しています。

《アナスタシス(主の復活)》14世紀作者不明

本作品は14世紀に制作されたフレスコ画で、ビザンティン美術の名画として有名な作品です。埋葬・礼拝で使用されていたホール(パレクレシオン)の天井部分に描かれています。

モチーフとなっているのは「イエス・キリストの復活」です。キリストは宣教活動を行うなかで、エルサレム神殿を崇拝するユダヤ教への批判を繰り返していました。ユダヤ人指導者たちには死刑にする権限が無かったため、彼らはキリストをローマ帝国の反逆者として告発します。その結果、ローマ帝国の法のもとでキリストは公開処刑(十字架刑)され、墓地に埋葬されました。

しかし、キリストは3日後に肉体をもった姿で十二使徒をはじめとする弟子たちの前に現れ、見事な復活を遂げました。キリスト教の教えでは「復活はキリストだけのものではなく、全ての人間が復活する」とされており、復活祭(イースター)は一年を通して最も重要な祭と位置付けられています。

本作品は、キリストが死後に地下深くの死者の国へ行き、地獄からアダムとイヴの手を引いて救い出した情景を描いています。彼らの周囲にいる人々は、キリストの墓に集まっていた弟子たちです。正教会の教えではキリストが地獄を訪れたことにより、過去の死者たちにも再び生命が吹き込まれられたと考えられています。

おわりに

カーリエ博物館はビザンティン美術の傑作を所蔵する博物館です。また、キリスト教とイスラム教の間で揺れ動いた博物館の歴史についても、興味深く学ぶことができます。世界遺産であるイスタンブール歴史地域にある博物館なので、ゆったりと街全体を散策するのもおすすめです。

※本記事はコロナウイルス感染拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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