ホーチミン市博物館:古代から近代までのベトナムの歴史を紹介する博物館

ホーチミン市博物館は、ベトナム・ホーチミンにある美しい宮殿を利用した博物館です。ベトナムの考古学的資料・工芸品・民族衣装・ベトナム戦争の記録などをコレクションしており、ベトナムの歴史を知る上で欠かせない場所といえます。そんなホーチミン市博物館の歴史と所蔵品について、詳しく解説していきます。

ホーチミン市博物館とは

ホーチミン市博物館はベトナムのホーチミンにある博物館で、1978年に設立されました。

白く美しい建物は、フランス植民地時代であった1885年から1890年にかけて建てられました。フランス人建築家アルフレッド・フォーローが設計し、西洋と東洋のスタイルを融合した建築物としても有名です。

パリのルイ14世の宮殿のような古典的な建築法をベースとしながら、幾何学模様や動物・野菜のモチーフなどの彫刻を施すことによって、独自のスタイルに仕上げています。建物の南東には船の船首を装飾として取り入れ、ツル・ワニのモチーフはベトナム南部の沼地を想起させる造りとなっています。

もともとこの建物は、地元の産業をアピールするための商業博物館となる予定でした。しかし、インドシナ副総督の邸宅として使用されることになり、続けて計14人のフランス副知事が住んでいました。その後はコチンチナ知事の居住地として利用されたり、一時は日本に占拠されたりするなど、激動の時代と共に宮殿はその役割を変化させていきます。

ベトナム共和国へ移行する時期には、大統領が業務を行う大統領官邸として機能していました。その当時の名残として、現在も博物館地下には1392.3㎡にも及ぶ地下シェルターがあります。クーデター後には最高裁判所の本部として数年間使用され、その後博物館に生まれ変わることになりました。

ホーチミン市博物館の所蔵品

ホーチミン市博物館では、古代の地図や工芸品・農具・少数民族の民族衣装・フランスから解放されるまでの写真・ベトナム戦争時の記録・ベトナム紙幣など、ベトナムに関わる資料を多数コレクションしています。

常設展示では「自然と考古学」「サイゴンの地理」など9つのテーマが設定されており、そのスペースごとに全く違うベトナムの表情を知ることができます。また、博物館の敷地内では、ベトナム戦争で実際に使用された戦車・軍用ヘリコプター・戦闘機などが屋外展示されており、1つ1つを近くでじっくり鑑賞することができます。

そんなホーチミン市博物館のコレクションには、どのような作品が含まれているのでしょうか。主要な展示品をご紹介します。

《M41軽戦車》

本展示品は、1946年にアメリカ合衆国が開発した戦車で、アメリカ陸軍をはじめ主に西側諸国で使用されていました。ベトナム戦争の歴史を知る上でも貴重な資料の1つです。

初代のM41は、いくつかの試作機製作を経て朝鮮戦争で初めて実地運用されます。しかし、故障の多さ・機械の接触の悪さ・内部の狭さなど多くの不具合が指摘されたため、新たな発注は全て取りやめになってしまいました。そのため、大きさ・内部構造を含め根本から再開発され、「M41軽戦車」が生まれたのです。

軽戦車と名付けられていながら火力は申し分なく、従来の戦車より威力の点では勝っていました。また、操行装置も進化させたことにより、小回りのきく高い機動力を誇っていたといいます。本格的な運用は1951年から始まり、世界各地の戦場に投入されました。軽量で扱いやすい大きさであったことから、28カ国で使用されていたことが分かっています。

展示品は、ベトナム戦争時に南ベトナム軍に供給され、実戦で使用されたM4軽戦車です。南ベトナム軍はこの戦車で、北ベトナムの戦車PT-76・T-54に対抗しました。また、ヘリコプターや戦闘機とともに屋外展示されており、間近で鑑賞することができます。

《チャム族の婚礼衣装》制作年自明作者不明

本展示品は、ベトナムの少数民族チャム族で受け継がれてきた伝統的な婚礼衣装です。

チャム族は、カンボジアとベトナム中南部に居住しているマレー系・インドネシア系の民族です。2世紀~18世紀頃までは独立した国家でしたが、その後ベトナム阮朝に属するようになりました。チャム語と呼ばれる独自の言語とチャム文字を持っています。

母系制度であることもチャム族の特徴で、家・財産を守るのはもちろん、家督・氏族名も女性の子孫が引き継いできました。一部では漢字性の継承だけは父系となりましたが、相続上は母系制度であることに変わりはありません。

宗教としては、ヒンドゥー教シヴァ派が最初に広まったことが分かっています。しかし、13世紀頃からはチャム族の宗教はイスラム教が主流となり、ヒンドゥー教と仏教を信仰する人はわずかになりました。1999年には、チャム族に由来する人々はビンディン省・フーイエン省・ニントゥアン省・ビントゥアン省・タイニン省・アンザン省で併せて33万人が生活していたという調査結果があります。

そんなチャム族の民族衣装は、デザイン性が高く色鮮やかな配色が特徴です。女性の衣装には長い上着・スカート・スカーフの3点セットが欠かせません。本展示品は婚礼で使用される衣装で、男性衣装は落ち着いた色合いがベースなのに対して、女性衣装には鮮やかで光沢のある布が使用されています。

《北ベトナム時代の500ドン(紙幣)》1949年~1951年の期間に発行

(Public Domain /‘Vietnam Dongs’by National Bank of Vietnam / State Bank ofVietnam. Image viaWIKIMEDIA COMMONS)

本展示品はベトナム民主共和国・通称北ベトナムで実際に使用されていた紙幣です。

1946年から1978年の間に北ベトナムで使用されていた通貨単位は、「北ベトナム・ドン」と呼ばれています。その後、南北ベトナムが統一されたことにより、紙幣も現在のベトナム通貨「ドン」に統一される運びとなりました。

この展示品の中央に印刷されているのはホーチミン大統領の肖像画で、裏面には水牛の絵柄が印刷されています。この紙幣の珍しいところは、ベトナム国内で作られたものではなく、中国が依頼されて印刷していたという点です。このことから、当時の北ベトナムが中国政府と非常に近しい関係にあったことがよく分かります。

おわりに

ホーチミン市博物館は、ベトナムが歩んできた歴史を学ぶことのできる博物館です。また、西洋と東洋のスタイルを融合した美しい宮殿が使用されており、建築物としても見応えがあります。

※本記事はコロナウイルス感染拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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