ハンガリー国立美術館:19世紀から20世紀のハンガリー芸術作品を多く所蔵する美術館

ハンガリー国立美術館はハンガリーの首都ブダペストにある美術館で、1957年に設立されました。ハンガリー国立美術館はブダ城という歴史的建造物の一部であり、19世紀から20世紀のハンガリー芸術家たちの作品など、あらゆる分野のハンガリー芸術作品を所蔵しています。そんなハンガリー国立美術館の歴史と所蔵品について詳しく解説していきます。

■ハンガリー国立美術館とは

ハンガリー国立美術館のあるブダペストは1873年にドナウ川の西のブダとオーブダ、そして東側のペストが合併してできた都市であり、ハンガリーの政治や文化、商業、産業などの中心地となっています。古くは1世紀頃、ケルト人により築かれた集落が始まりだといわれており、タタールやオスマンの侵略を受けることも多く、不遇の時を過ごしました。その後1918年にオーストリア=ハンガリー帝国が戦争によって解体されると、ハンガリー王国として独立し、1949年には共産主義の人民共和国として独立を宣言することになります。

そんなブダペストにあるハンガリー国立美術館は、ブダペストの世界遺産であるブダ城の内部にあります。ブダ城は歴代ハンガリー王家の王宮として用いられてきた城でしたが、1241年にモンゴル軍の攻撃で破壊、その後再建されるも17世紀にはオスマン帝国の攻撃で崩壊するなど破壊と再生の歴史をたどっていきました。18世紀になるとハプスブルク家の支配のもと再建され、バロック様式の城として改造されたものの、第一次世界大戦や第二次世界大戦で大規模な被害を受けてしまいます。しかし1987年に「ブダペスト、ドナウ河岸とブダ城」として世界遺産に登録されることとなり、現在では世界中から観光客が訪れています。

ハンガリー国立美術館はそんなブダ城の内部にあり、ブダペスト歴史博物館や軍事歴史博物館など、ブダペストの歴史を学ぶ上で欠かせない博物館も置かれています。

■ハンガリー国立美術館のコレクション

ハンガリー国立美術館のコレクションは中世からルネサンス、ゴシック、バロックのハンガリー美術の作品が所蔵されています。絵画の他にも彫刻や装飾美術などさまざまなジャンルの芸術品が所蔵されており、こうしたコレクションは国内最大級となっています。

そんなハンガリー国立美術館のコレクションには、どのような作品が含まれているのでしょうか。主要なものをご紹介します。

(Public Domain /‘Christ in front of Pilate’ by Mihály Munkácsy. ImageviaWIKIMEDIA COMMONS)

・《ピラトの前のキリスト》1881年ムンカーチ・ミハーイ

本作品は1881年に制作され、宗教画で評判を得たハンガリーの画家ムンカーチ・ミハーイによって描かれました。

ムンカーチ・ミハーイは1844年、現在のウクライナにあたるハンガリー王国のムカチェヴォに生まれました。地元の画家のもとで修業したのちペストに向かい、そこで後援者を得ることに成功したミハーイはウィーンで学ぶことになります。その後はミュンヘンのアカデミー、デュッセルドルフのアカデミーなどで学び、1867年に万国博覧会を見るためにパリを旅したことをきっかけとして、より明るいスタイルの作品を描くようになりました。

(Public Domain /‘Apotheose der Renaissance’ by Mihály Munkácsy. Image viaWIKIMEDIA COMMONS)※ムンカーチ・ミハーイによる美術史美術館の天井画

その後、ミハーイは主に宗教画を制作するようになり、ウィーンにある美術史美術館の天井画を描くなど、公共建築の大規模な作品も手がけるようになっていました。しかし1890年代になると若いころに発症した梅毒が悪化し、うつ病を患うようになっていきます。そうして心身ともに衰弱していったミハーイは1900年5月1日にその生涯を閉じることとなります。

本作品はキリストの受難の一つであるピラトの裁判を描いたものであり、ミハーイの代表作の一つです。ゲッセマネで逮捕されたイエスは、大祭司の官邸に連行され様々な尋問を受けたのち、ローマ帝国の総督であったピラトの元に引き出されます。大祭司たちはイエスに死刑を望んでいたものの、ピラトはイエスにユダヤ人の王であるか、ユダヤ人がイエスを告発した本当の理由はなんなのか、といった質問をしているうちにイエスを処刑にするべき要素を見いだせなくなってしまいます。

右側には総督の椅子に座るピラトが描かれており、非常に悩ましげな顔を見せています。その周りにいるユダヤの長老たちはそれぞれ色彩豊かな衣を身にまとっており、大仰な身振り手振りでピラトにイエスの死刑を迫っています。そうした情景に反するようにイエスは背筋を伸ばし、厳しい視線をピラトに向けており、これから磔刑に処せられるのにもかかわらず整然とした雰囲気を漂わせているのです。登場人物の表情や身振り手振りは真に迫ったものであり、ミハーイはドラマチックに描き出しています。

(Public Domain /‘Woman Dressed in Polka Dot Dress’ byJózsef Rippl-Rónai. Image viaWIKIMEDIA COMMONS)

・《斑紋様のポルカのローブを着る女性》1889年リップル・ローナイ・ヨージェフ

本作品は1889年に制作され、ハンガリー近代美術を代表する画家リップル・ローナイ・ヨージェフによって描かれました。

ヨージェフは1861年ハンガリー西部のカポシュヴァールに生まれました。もともとは薬学を学んでいたものの、絵画を学ぶためにドイツのミュンヘンに渡り、2年後に助成金を得てフランスに渡ることとなります。同じくハンガリーを代表する画家であるムンカーチ・ミハーイのもとで学んだ後、1888年にナビ派のメンバーに加わり、数々の作品を残しました。

ハンガリーに帰国した後はデザインや装飾の仕事に携わり、アンドラーシ宮殿の家具やエルンスト美術館の窓といったハンガリーを代表する公共建築をプロデュースすることになります。こうした仕事が高く評価されるようになり、1911年から1913年にかけて、フランクフルトやミュンヘン、ウィーンなどで大規模な展覧会が行われることとなったのです。そして1927年11月25日、自宅のあるカポシュヴァールで66歳の生涯を閉じました。

本作品はそんなヨージェフの初期にあたる作品で、斑模様のドレスを着たモダンな女性が描かれています。女性は視線を左に送っており、バッグを持つ腕と腰をひねる姿がとても優美に見えます。また女性が被っている帽子もこの時期ならではのファッションであり、非常にユニークな形をしています。

本作品を制作した時期はヨージェフがナビ派に加わった頃にあたります。ナビ派はヘブライ語で預言者を意味するグループで、19世紀を支配していた写実主義を否定し、芸術の装飾性を主張するものでした。この作品に目を向けてみるとドレスの柄は大変モダンなものでありながら、どこかナビ派の装飾的な要素も感じさせるものとなっています。

■おわりに

ハンガリー国立美術館は中世からゴシック、バロックなどのハンガリー芸術の作品を所蔵する世界有数の美術館です。ブダペストの歴史を見届けてきたブダ城にあることから、ドナウ川の流れる風光明媚な景色を眺めながらハンガリー芸術を楽しめるというのは、ハンガリー国立美術館ならではといえるでしょう。

公式HP:https://en.mng.hu

※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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