国立アフリカ美術館:アフリカのエネルギーを体感することができる美術館

アメリカ合衆国首都ワシントンD.C.にある国立アフリカ美術館は、アフリカの伝統的な芸術品から現代作品までの幅広い作品を展示する、世界屈指のアフリカンアート美術館です。今回はそんな国立アフリカ美術館の歴史と所蔵品について、詳しく解説していきます。

■国立アフリカ美術館とは

国立アフリカ美術館は、アメリカ合衆国の首都ワシントンD.C.の中心部にあるナショナル・モールに位置しています。アーサー・M・サックラー・ギャラリーの向かい側、芸術産業館、スミソニアン協会本部の南側入口の近くです。

美術館は1964年、異文化コミュニケーションを促すため、私立の教育機関として元米国外交官のウォーレン・M・ロビンズによって設立されました。1979年8月には、スミソニアン協会の一部となります。スミソニアン協会とは、1846年にイギリスの化学者スミソンが遺贈した基金によってワシントンに設立された、アメリカの国立学術文化研究機関です。その後、美術館は1981年に正式に国立アフリカ美術館と改名され、1987年に一般公開されました。およそ13世紀から19世紀のアフリカの伝統芸術に焦点を当てており、過去と現在の両方のアフリカ芸術を楽しむことができると注目を集めています。

設立者のウォーレン・M・ロビンズは、芸術品を見て知ることは異文化間コミュニケーションを促すと考えていました。この考えは、今日の国立アフリカ美術館の使命でもあります。他のスミソニアン協会の博物館群と同様、入場は無料です。開館している時間は、午前10時から午後5時30分まで。クリスマスの12月25日を除き、年中無休です。手話通訳者のサポートがあり、車椅子での来館もスムーズで、バリアフリーに力を入れています。館内にはミュージアムショップがありお土産を購入することができますが、カフェやレストランは併設されていません。また、近くに駐車場が無いため、ツアーバスや地下鉄でのアクセスが推奨されます。

また、1971年に設立された、ウォーレン・M・ロビンズ図書館も併設されています。アフリカ芸術の幅広い分野における記録を収録した書物を3万冊以上収容する、アメリカ国内でも有数の資料館です。美術館は、エリオット・エリソフォンという写真家の作品の保管所という役割も担っています。エリオット・エリソフォンが1973年に逝去して以降、徐々に彼の作品が美術館へ寄贈されていきました。現在の収容品は、総数にして実に30万点を超えるそう。アフリカンアートだけではなく、近代写真家の作品も同時に楽しむことができます。

■国立アフリカ美術館の所蔵品

人類の発祥地であり、長い歴史を持つアフリカ。その歴史が文字にされ、記録として残っているものは希少です。そんなアフリカの文献やアートが集結し、展示されているのが国立アフリカ美術館です。13世紀から19世紀の彫刻や武具、装飾品、オブジェなど、生活の中で使用されていた貴重な品を見ることができます。一つ一つの展示品は小ぶりながらも、品々が集結し展示されている様は独特の雰囲気を醸し出しており、エネルギーを感じさせます。

そんな国立アフリカ美術館には、どのような作品が含まれているのでしょうか。主要な作品をご紹介します。

・《プウォ》20世紀前半中部アフリカアンゴラチョクウェ族

本作品は、若く美しい女性の仮面です。しかし、被るのは女性ではなく男性なのだそう。チョクウェ族は主にアンゴラ、コンゴ民主共和国南西部、ザンビア北西部に住んでいる民族で、この仮面を被ることが許されるのはムガンダという儀礼を経験した男性だけです。その儀礼の踊り手は、ムキシといいます。ムキシの中でもこのプウォと呼ばれる仮面はよく知られていて、女性の祖先霊を表す特別なものです。何が特別かというと、男性たちがこのマスクを手に入れるということは、一人の女性と夫婦になることと同じ意味を持っているからです。そのため、彫刻師にプウォの仮面を依頼するには、結婚の意味を持つ真鍮製の腕輪を渡さなければなりません。ムシキの中でもプウォを被った踊り手は、子宝繁栄を祈る者となります。ムキシが亡くなると、仮面は遺体と共に葬られます。

仮面の始まりは地域によって様々であるため、いつからと断定するのは難しいですが、ヒトが狩猟から農耕に移行した頃から始まったと考えられています。農耕の成功はおおよそ天候や自然現象に支配されていたため、豊作と子孫繁栄を祈って、自然崇拝、先祖崇拝、精霊崇拝などの抽象的思考が発展していきました。それと並行して、そのような目に見えない畏怖の対象を「見える化」したのが仮面です。アフリカ民族の仮面はそもそも鑑賞のための芸術品として造られてはいないため、素朴な色合いや装飾のものが多いです。その分、人々の想いや祈りが具象化された仮面からは、言葉では表すことができない未知なるエネルギーを感じます。

・《シエラレオネの象牙の角笛》15世紀後半西アフリカシエラレオネブロム族またはテムネ族

本作品は、象牙でつくられた角笛です。ポルトガルのマヌエル1世がアラゴン王のフェルナンド2世(カスティーリャ王としてはフェルナンド5世)に献上した、との銘があり、王家の紋章に加え王族が狩りをたしなむさまが精緻に刻まれています。

象牙とは牙状にのびたゾウの門歯で、古くから装飾品の材料として珍重されてきました。アフリカは古くから象牙の供給地として知られ、西アフリカの象牙は15世紀後半以降のヨーロッパで非常に注目されたことから、王族や貴族の憧れの的となりました。特にシエラレオネの職人による象牙細工は最高のものとされ、ヨーロッパ人の交易者が争うように求めました。

1989年のワシントン条約によって、象牙の国際取引は原則禁止とされることになりました。この条約により、少し前まで西アフリカの街中で見ることができた象牙細工物屋も、ほとんど引き上げてしまったようです。今では象牙細工の伝統を生かし、イボイノシシの牙、大型哺乳類の骨・偶蹄類・奇蹄類の角などを代わりに用いた彫刻が盛んです。

・《ヨルバ族の王冠》20世紀前半西アフリカナイジェリアヨルバ族

本作品は、ナイジェリアに住むヨルバ族の王のためのadeと呼ばれるビーズの冠です。褐色を地に、赤・緑・青などの原色で彩られています。ヨルバ族にとってビーズを身に付けるということは神聖な意味を持ち、それが許されるのは特権階級の人々のみ。初代ヨルバ帝国の王が死の直前、息子たちにビーズの冠を与えた神話がその価値を高めているそうです。

王冠と言っても、被ると王の顔はビーズで作られたベールで覆われます。冠に装飾されているのは、人と鳥とカメレオン。ヨルバ族の神話では、鳥は大地を作り、カメレオンは天から降り立ち見守ったとされる、神聖な存在なのです。

■おわりに

国立アフリカ美術館では、異なる土壌で異なる独自の文化を守ってきた民族たちの貴重な品々から、異文化を体感することができます。

※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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