アグン・ライ美術館:南国リゾートでバリの芸術に出会う

バリ島と言えば世界有数の南国リゾートで、一度は訪れてみたい場所として有名です。そんな観光地としてのイメージが強いバリ島ですが、特有の民族文化や芸術が発展しており、それを知ることができる美術館も豊富にあります。島国であるため、外にはなかなか漏れる事の無い貴重な芸術が花開いています。

○アグン・ライ美術館とは

バリ島の一部であるウブド。ウブド郡周辺の村の総称として使われている呼び名ですが、その中心にはウブド村があります。今なお美しい自然が残されており、都市部には無いようなゆったりとした時間が流れています。野生の猿も多く生息しており、自然保護に力を入れています。リゾート地でもあるこのバリ島に訪れる多くの観光客は、都会の喧騒からかけ離れた大自然の中で気持ちを和らげる事が出来ます。高級ホテルも多く、ホテル内だけでも充実した一日を過ごす事が出来ます。

そんなリゾート地に構えるアグン・ライ美術館は、アグン・ライの個人コレクションを揃えた美術館です。アグン・ライ夫妻がオーナーとして運営しているリゾートホテルココカンホテルに隣接しており、ホテルと美術館が一体化した外観は、一つの芸術となっています。1996年に芸術の複合施設としてオープンし、入館料には、カフェでの珈琲代も含まれています。オーナーであるアグン・ライ氏は、元々は地元ウブドの商人でした。バリ島特有の芸術品が海外へ流失仕掛けている事を懸念し、自らそれらの作品を買い戻します。そして、集めた選りすぐりのコレクションを多くの人に触れて貰いたいという願いから、美術館に展示することになりました。

○アグン・ライ美術館の収蔵品とは?

ウブドには、ウブド芸術ルネッサンスと呼ばれる西洋芸術に大変影響された時代がありました。美術館では、そんな西洋の気質とバリ島特有の芸術をミックスさせた、西洋風でもあり、東洋風でもある新しい芸術作品の数々に出会えます。また、新鋭的なウブド芸術ルネッサンスに対して、バリ島古典派の作品も豊富に展示されています。当時の行事や日常が描かれており、その鮮やかさからは、何十年何百年と言う時を全く感じられません。

また、伝統工芸品も多く展示され、バリ島の幅広い芸術を楽しめます。200年近く前に描かれたとされる絵画など、古典的な作品もありますよ。特にアグン・ライ氏は、ウブドの芸術を後進に伝えることに力を入れています。その為、多くの現代アーティストと親交を結んでおり、美術館にアーティスト本人が訪れている事も少なくないのだそう。ふとした瞬間にアーティスト本人と遭遇出来る可能性があります。

アグン・ライ美術館には、果たしてどのような収蔵品があるのでしょうか?早速見て行きましょう。

〈ジャワの貴族と妻の肖像〉ラデン・サレ

(Public Domain /‘Javanese Nobleman and his Wife’by Raden Saleh. Image viaWIKIMEDIA COMMONS)

こちらは200年程前の作品で、ラデン・サレによって描かれました。ラデン・サレは、インドネシアを代表する画家で、今やその評価は世界的にもうなぎ登りの人物です。19世紀にインドネシア人として初めてヨーロッパに渡ったとされるラデン・サレは、現地で西洋芸術を学ぶと、それらをバリ島の芸術にも取り入れました。近年のオークションでは代表作が12億円で落札されるなど、注目度の高い芸術家です。

本作品は夫婦の肖像ですが、お互い緊張しているのか大変強ばった面持ちです。当時の人の姿をリアルに描いており、こんな服装からも新鮮な印象を受けます。表情から姿かたちまでリアルに描かれている事から、本当にそこに人間が立っているかのようです。貴族の姿を描いているようですが、彼らの服装は西洋の貴族と違い豪華絢爛と言う姿では無く、同じ貴族でも場所によって気質が違う事が分かります。

〈チャロナラン〉ヴァルター・シュピース

こちらは、ドイツ人でありながらバリ芸術を語る上では欠かせない人物である、シュピースの作品です。元々アジアへの関心が高かったシュピースは、30歳を過ぎた頃からウブドに移住し、その大自然に触れながら創作活動に励みました。現代バリ芸術の父とも言われ、絵画に限らず舞踊や音楽にも多大な影響を与えました。考古学分野にもその才能を発揮し、バリの芸術文化をより促進させた功労者です。しかし、戦争と言う犠牲に巻き込まれたシュピースは、見殺しの上の溺死と言う最期に見舞われ亡くなりました。

本作品は、バリ島に伝わる神のような悪魔のような不思議な存在であるチャロナランを描いたものです。伝説上の生き物であるチャロナランは、その不気味な容姿からも存在自体が不可思議である事が分かります。チャロナランは悪魔や妖怪のような見た目で何かに襲いかかろうとしており、その姿を見た人々は、恐れ慄いています。元々バリ島の伝統芸能の一つとしてチャロナラン劇というものが存在していますが、大変宗教色の濃い作品であることから観光客にはなかなかお目に掛かれません。しかし、この絵画を見るだけでもチャロナランがどのような存在なのか分かる気がするでしょう。

〈飛天と夫婦神〉グスティ・ニョマン・レンパッド

レンパッドは、バリ島を代表する芸術家です。地元ウブド出身である彼は、幼少期から芸術に関心を持ち、生涯に渡って作品を描き続けました。特に、バリ島に伝わる民話や民族芸能からそのインスピレーションを得て、神秘性の強い作品を残しました。文盲であったと言われているレンパッドですが、彼の作品からは、奥ゆかしくも広い世界観を感じ取ることができ、元より芸術性及び感受性が強く、才能のあった人物である事が分かります。

本作品はバリ島に伝わる民話の一つ、ラーマーヤナ物語のワンシーンで、男女の神が親しげに会話している風景が描かれています。周囲を飛び交う取り巻き達も柔らかい表情で、その姿を微笑ましく見ている事が分かります。神々にとっても楽しい一時である事が分かり、見ているこちらも穏やかな気持ちになれる作品です。神々を描いている事から宗教色も色濃く感じますが、そのイラスト風のタッチからは、親しみも感じます。

○終わりに

アグン・ライ美術館はバリ島特有の芸術を感じ取れる美術館です。絵画のみならず広い庭園にも恵まれており、まるで映画の世界に入ったよう。リゾートホテルに泊まり、自然に囲まれながら都会の喧騒から離れる事が出来る美術館です。

※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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