古典美術館:フランドルの巨匠の画家達の美術館

古典美術館はベルギーの首都ブリュッセルに位置し、ベルギー王立美術館を構成する6つの美術館の1つで、15世紀から18世紀までのフランドルを中心とした数多くの名画をコレクションとした美術館です。古典美術館はベルギー王立美術館の中核をなす存在で、1801年、ナポレオンが設立した美術館を起源としています。

■古典美術館とは

古典美術館はベルギーの首都ブリュッセルに位置し、ベルギー王立美術館を構成する6つの美術館の1つで、15世紀から18世紀までのフランドルを中心とした芸術作品を展示する美術館となっています。

ベルギー王立美術館は、古典美術館、現代美術館、世紀末美術館、ウィエルツ美術館、ムニエ美術館、マグリット美術館の6つの美術館の総称であり、総数2万点のコレクションを誇っています。古典美術館はベルギー王立美術館の中核をなす存在で、1801年、フランス革命後にナポレオンがパリ中央美術館(現在のルーブル美術館)の分館として設立した美術館を起源としています。

1815年にナポレオンがワーテルローの戦いで失脚し、ルーベンスの祭壇画などがフランスから返却されました。1830年にはベルギーが独立、1880年にアルフォンス・バラが設計した新古典様式の建物で美術館が開館されます。更に1914年に16世紀から19世紀にかけての、レンブラントを含む巨匠の作品約4250点が寄付され、美術館のコレクションは飛躍的に発展を遂げました。

■古典美術館のコレクション

古典美術館は15世紀から18世紀までのフランドルを中心とした芸術の、数多くの傑作をコレクションとしています。
15世紀はヒエロニムス・ボスの「聖アントニウスの誘惑」、ファン・デル・ウェイデンの「ピエタ」、ハンス・メムリンク「聖セバスチャンの殉教」があり、16世紀はブリューゲルの「ベツレヘムの国勢調査」、17世紀から18世紀は巨匠ルーベンスの「東方三賢王の礼拝」「聖母被昇天」など多くのルーベンス作品や、弟子のヤーコブ・ヨルダーンス「豊穣の寓意」、ジャック・ルイ・ダヴィッドの「マラーの死」等もあり、傑作と呼べる多くの名画が集まっています。

そんな古典美術館のコレクションには、どのような作品が含まれているのでしょうか。主要な作品をご紹介します。

《聖アントニウスの誘惑》制作年不詳ヒエロニムス・ボス

本作品は北方ルネッサンスの鬼才の画家ヒエロニムス・ボスによって描かれた作品です。

ヒエロニムス・ボスは本名をイェルーン・ファン・アーケンといい、1450年頃、現在のベルギーのス・ヘルトーヘンボスに生まれたとされています。生涯をこのヘルトーヘンボス(ボスは森の意味)で過ごしており、ボスの名前は地名に由来しています。

正確な記録がない為、出生年、画家としての経歴のほとんどが不詳となっていますが、父のアントニス・ファン・アーケンをはじめアーケン家は親戚一同が画家一族であったことから、また、その独特な作風から親族から絵画を学んだことが推測されています。

彼の作品は人間の潜在意識的な欲望や悪意を、幻想的な風景や怪物などの寓意画で独特に描き、あたかもシュルレアリスムの絵画のような強烈な作風を確立しており、ピーテル・ブリューゲルをはじめ後世の画家達に多大な影響を与えました。極めて緻密に描きこまれているのが特徴で、その世界は観る者を圧倒する完成度で作りこまれています。

「聖アントニウスの誘惑」はキリスト教における聖人伝の1つで、修道院制度の創始者となった聖アントニウスのエピソードを描いた三連祭壇画となっています。エジプトの修道士アントニウスは裕福な家庭に生まれながらも、イエスの啓示に導かれ、財産のすべてを捨てて修業を貫く人生を選びます。「アントニウスの誘惑」はアントニウスが砂漠の修業生活の中で、恐ろしい幻想や悪魔の誘惑に耐えながら信仰に準じる姿を描いており、ボスはこれを奇怪な怪物達があふれる風景で描いています。

三連祭壇画の中央パネルの中心には、廃墟のような場所の壇上で、黒い法衣でひざまずいて祈るアントニウスと、その周りにエイのような魚やネズミに乗った悪魔など、奇妙な姿の悪魔達がいたるところにはびこる姿が描かれています。

左パネルは上部分にアントニウスが昆虫のような怪物に空へ連れ去られる姿、下部分には空から放り投げられた後の僧たちに担がれて運ばれる姿が描かれます。アントニウスを運ぶ3人の僧のうち、緑の頭巾をかぶっている人物はボスの自画像といわれています。右パネルは女悪魔に誘惑される場面です。中央に法衣をかぶり聖書を読むアントニウスの周りを裸の女性の悪魔達が誘いかけています。

悪魔や怪物達は非常に複雑に緻密に描きこまれ、まるで誰かの精神構造を垣間見てしまったかのような錯覚を感じる作品となっています。

(Public Domain /‘The Fall of the Rebel Angels’by Pieter Bruegel the Elder. Image viaWIKIMEDIA COMMONS)

《叛逆天使の墜落》1562年ピーテル・ブリューゲル(父)

本作品は1562年に制作された作品で16世紀の北方ルネッサンスのフランドルの巨匠、ピーテル・ブリューゲル(父)によって描かれた作品です。

16世紀、フランドルにおいて世俗画、宗教画、寓意画などを独特の世界観で描いた画家で、彼の同名の息子ピーテルも、次男のヤンも著名な画家であった為、区別する意味でピーテル・ブリューゲル(父)と表記されます。

ブリューゲルは農民をテーマとした作品を多く描いたため「農民画家」と呼ばれていますが、画家本人は農民ではなく人文学者らとも交友がある都市生活者で、教養ある文化人であったとしています。ブリューゲルの緻密に描きこまれた絵画は歴史資料、風俗的資料にもなりえるほど正確かつ精密であることが特徴です。北方ルネッサンスの異端の巨匠、ヒエロニムス・ボスに強く影響を受けた為、傾倒した作品が多く、“第2のボス”とも呼ばれていました。

1846年、王立美術館が本作品を所有した当初、息子のピーテル・ブリューゲル(2世)の作品と鑑定されていました。しかし描かれている怪物の作風からその後、ボスの作品と鑑定されましたが、19世紀末にブリューゲルのサインが見つかったことから、ピーテル・ブリューゲル(父)の作品であることが確定されました。

「堕天使の墜落」はキリスト教のエピソードである、堕天使ルシファーと大天使ミカエルの壮烈な戦いを描いています。ルシファーとは“光をもたらすもの”が語源であり、神に愛された大天使でしたが、傲慢さから神に反乱を起こし悪魔サタンへと堕落しました。

この作品は大天使ミカエル率いる天使の軍団とルシファー率いる地獄の怪物達との闘いが描かれています。通常、この天使と悪魔の大戦争は圧倒的な善(大天使)の勝利で描かれますが、本作品は上部が天使軍、下部が地獄軍と半々の戦況で描かれており、まさに善と悪のせめぎあいとなっています。

中央に描かれた大天使ミカエルは金の鎧と長マントを身にまとい、復活の象徴である赤いラテン十字の盾を持ち、長剣を振り上げた神々しい姿で戦っています。周りの大喧騒の戦いの中、大天使の壮麗な戦いぶりが際立って見えます。

背景に上空から無数の怪物や悪魔達が渦を巻いてもつれあいながら墜落し続け、混沌としている様が描かれています。それらは獣や昆虫、爬虫類、両生類、魚、植物、人間、楽器等が合成された、奇妙な幻想的な怪物達です。エキゾチックな柄の蝶と人の合成生物、頭に羽飾りをつけた悪魔やアルマジロのような甲冑の悪魔、日時計を身に着けた小鬼、フグに似た怪物など多種多様に描かれています。これらはアメリカ大陸発見に伴って新世界の動物達やインディアンの認識が広がり、また、ブリューゲル自身もそれらに強く関心を持ち、影響を受けていたことが推測されます。

※快楽の園(Public Domain /‘El jardín de las Delicias’by Hieronymus Bosch. Image viaWIKIMEDIA COMMONS)

また、この作品のインスピレーション源としてボスの「快楽の園」が指摘されており、ブリューゲルの作品においてのボスの多大な影響力がうかがえます。混沌と喧騒の中に描かれる天使と悪魔の戦争は壮絶な様子ではなく、むしろ、人間達が争い、もつれ争う様に共通し、どこかユーモラスさを感じる作品となっています。

(Public Domain /‘Landscape with the Fall of Icarus’by Pieter Bruegel the Elder. Image viaWIKIMEDIA COMMONS)

《イカロスの墜落の風景》1560年代頃ピーテル・ブリューゲル(父)

本作品は、1560年代頃にピーテル・ブリューゲル(父)の手によって描かれた作品です。ギリシア神話に基づいて描かれています。父ダイダロスはミノス王の不興をかうことなり島の牢獄に息子イカロスと共に捕らえられてしまいます。そこから脱出するには、空を飛ぶしかありません。そこで二人は作った翼をロウで背中に付け空高く飛び上がり、脱出することに成功します。しかし息子は空を飛んだあまりの気持ち良さに父の忠告を忘れ太陽に近づいてしまします。その結果、熱によってロウが溶け墜落しまう、そんな場面を描いています。海に落下したイカロスは右下の方に描かれており、注意して見ないと気付かないほどです。

■おわりに

古典美術館は後世に影響を与えた偉大な巨匠達の作品であふれています。ボス、ブリューゲル、ルーベンス他、多くの優れた先人の画家達の作品群に圧倒されます。ブリュッセルを訪れる機会があれば、ぜひ足を延ばしてみてはいかがでしょうか。

公式ホームページ

※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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