ソロモン・R・グッゲンハイム美術館:近・現代美術の「精神の神殿」の美術館

ソロモン・R・グッゲンハイム美術館はニューヨーク、マンハッタンのアッパー・イースト・サイドに位置する近・現代美術専門の美術館です。鉱山王のソロモン・R・グッゲンハイムが自らのコレクションを展示する“非客観的”芸術の美術館として1939年に開館しました。近代建築の巨匠フランク・ロイド・ライトが設計し、1959年に美術館として建設されました。建物は世界遺産にも登録され、ニューヨークのランドマークとして際立った存在感を放ち続けています。

■ソロモン・R・グッゲンハイム美術館とは

美術館はニューヨーク、マンハッタンの高級住宅地アッパー・イースト・サイドに位置し、グッゲンハイム財団が運営する近・現代美術専門の美術館です。

美術館の創立者、ソロモン・R・グッゲンハイムは鉱山王で大富豪であり、近・現代アートの熱心な収集家でした。彼の“非客観的”芸術、前衛アートのコレクションを展示する美術館を実現する為、1937年にグッゲンハイム財団を設立します。そして1939年にニューヨーク東54番街に美術館を開館しました。

初代館長はグッゲンハイムの友人であり、美術品収集の指南役であったドイツ人の美術収集家ヒラ・フォン・レベイでした。レベイはグッゲンハイムの膨大なコレクションを恒久的に収容する建物の必要性を感じ、1943年にフランク・ロイド・ライトに新しい美術館の設計を依頼します。

1959年にライトが設計した建物が完成し、新たにソロモン・R・グッゲンハイム美術館が開館しました。1949年にグッゲンハイムはすでに死去しており、1952年に美術館に彼の名前が付けられ「ソロモン・R・グッゲンハイム美術館」となっています。

現在、グッゲンハイム財団はニューヨークの他ベネツィア、ビルバオ、ベルリン、アブダビと世界的に美術館を展開する巨大な芸術機関となっています。

■ソロモン・R・グッゲンハイム美術館のコレクション

美術館のコレクションは近・現代芸術の膨大な作品群のコレクションとなっています。中核となっているのはグッゲンハイムの創立コレクションとタンハウザー氏の寄贈コレクションです。

創立コレクションは6000点に及ぶ初期の近・現代芸術です。抽象絵画の創始者といわれるワシリー・カンディンスキーやピート・モンドリアンの作品、またマルク・シャガールやパウル・クレー、フェルナン・レジェ、フランツ・マルク、アンリ・ルソー等、近・現代芸術を代表する画家達の作品となっています。

グッゲンハイムと意気投合した美術商のジャスティン・K・タンハウザーは、自らの絵画コレクションの全てを美術館に寄贈しました。タンハウザーのコレクションは印象派や後期印象派を主としています。
ゴッホ、ゴーギャン、セザンヌ、ドガ、マネ、ルノワール、ピサロ、モネやピカソなど巨匠達の素晴らしいコレクションとなっています。

また、近代建築の巨匠フランク・ロイド・ライトが設計した美術館の建物は世界遺産に登録されており、美術館を象徴する作品の1つとなっています。

そんなソロモン・R・グッゲンハイム美術館のコレクションには、どのような作品が含まれているのでしょうか。主要な作品をご紹介します。

《グッゲンハイム美術館》1959年フランク・ロイド・ライト

ソロモン・R・グッゲンハイム美術館の建物は、近代建築の巨匠フランク・ロイド・ライトによって設計され、1959年に建設された建物で、美術館を象徴する作品の1つとなっています。

※落水荘

フランク・ロイド・ライトは近代建築の巨匠とされる建築家で、グッゲンハイム美術館や落水荘(カウフマン邸)を含む合計8件が「フランク・ロイド・ライトの20世紀の建築作品群」として世界遺産に登録されています。また、日本の帝国ホテルの旧本館「ライト館」も彼の建築として知られています。

今日では一般的になっている簡易駐車場「カーポート」の発想や、屋根を低くし、水平で広々とした空間設計のプレイリースタイル(草原様式)など、数々の新しい建築スタイルを打ち出し、近代建築の礎を築きました。

1943年、ライトは美術館長のヒラ・フォン・レベイから新美術館の設計を依頼する手紙を受け取ります。この手紙においてレベイはライトに美術館のデザインの重要性を訴えました。

美術館は白い巻貝を逆さにしたような円筒形の外観で、内部は緩やかな螺旋状の通路ですべての階がつながっています。訪問者はエレベーターで上に上がり、通路の傾斜に沿って下っていくと自然に作品群を観賞していける仕組みになっています。近代的で幾何学的でありながら、まるで貝殻の中の小宇宙のように感じる造りとなっています。

前例にない奇抜なデザインだった為、美術館の建設は難航を極めていきました。1949年にパトロンのグッゲンハイムが亡くなります。依頼から16年後の1959年10月にようやく建物が完成しましたが、ライトは同年4月、美術館の完成を見ずにこの世を去っています。その後1992年に大幅な改装が行われ、現在の美術館となりました。

ライトの遺作的なこの建物は「白いカタツムリ」と愛称がつき、美術館を観るために世界中から人々が訪れています。美術館はレベイの言葉通り、近・現代芸術の「精神の神殿」となり、「巨大な記念碑」的な美術館となっています。また、そのインパクトがある外観からSF映画「メン・イン・ブラック」をはじめ数々の映画やメディアに取り上げられ、ニューヨークのランドマークとして際立った存在感を放ち続けています。

《コンポジション8》1923年ワシリー・カンディンスキー

本作品は1923年に制作された作品で、ロシアの抽象主義の先駆者の画家、ワシリー・カンディンスキーによって描かれた作品です。

ワシリー・カンディンスキーは抽象絵画理論の創始者とされています。抽象絵画とは実際に見える具体的なものを描かず、対象物を構成する要素を抽出し、単純化や分解をして再構成する絵画をいいます。

“色”と“形”によって、精神的な部分や、内面を表現することを追求しました。外形を描く代わりに、色がもたらすリズムや形が与える影響によって内面を表現しようと試みています。その代表的な精神表現の作品が「コンポジション」シリーズです。

1922年に、最も先進的なモダンアートの教育機関であったバウハウスの教官を務め、自身の芸術理論に適合した研究環境を得ることが出来ました。バウハウス在籍時に、色や形が心理的、精神的に与える効果についての探求を更に深め、「コンポジション8」を描きました。

本作品はカラフルな幾何学形態によって表現される精神世界です。円と円、半円が呼応するように点在し、三角形や四角形が黒い直線によって、動と静を織り交ぜたリズムで結ばれています。複数の円によって調和のイメージが表現されており、彼の作品において円は重要な役割を果たしています。

「芸術の第一目的は画家の奥にある感覚を表現することだ。」と述べています。本作品において色と図形が表現しているのは内なる感覚であり、現実世界には存在しない彼の精神宇宙の空間であるといえます。

《窓から見たパリ》1913年マルク・シャガール

本作品は1913年に制作された作品で、ロシア出身の「色彩の魔術師」の画家、マルク・シャガールによって描かれた作品です。

マルク・シャガールは主にロシアのベラルーシ、フランスで活躍した画家です。絵画の他、イラストレーション、ステンドグラス、舞台デザイン、陶芸、版画など多様な分野において活躍し、70代で有名なパリのオペラ座の天井画を制作しています。その幻想的で豊かな色の表現から「色彩の魔術師」と呼ばれました。

※パリのオペラ座の天井画

シャガールの故郷では東欧系ユダヤ人が多く、様々な言語が混在し、独特なユダヤ文化を形成していました。幼い頃に見た美しい故郷に息づくハシディズム(ユダヤの敬虔な思想)は、生涯を通して彼の作品に影響を与えています。

現実そのままを描くことはせず、彼の内面の目でとらえた画面、心象風景を描きました。その作品の多くは彼の精神世界を通してみたものであり、故郷の記憶と重ねられノスタルジックに、幻想的に描かれています。

1910年、23歳の時にロシアから芸術の中心地パリに移住しました。当時、前衛的なキュビスムがフランス芸術の主流となっており、シャガールも影響を受けています。

この「窓から見たパリ」は心で見たパリの風景が描かれています。作品に描かれているのは、虹色の窓枠、エッフェル塔とパリの街並み、窓枠に座る猫、そして前後両方に顔がある人物が描かれています。

パリの空はトリコロールの旗が空に溶け込んだような、また、都市の明かりが映りこんだように様々な色となっています。窓際に座る猫は黄色い体に尾の先端が緑、そして顔は青白く、人の顔のように描かれています。2つ顔の人物は赤いスーツを着て、表の顔は青色の沈んだ表情、裏側の顔は肌色の微笑む顔です。

この作品にはパリと故郷の比較を描いていると解釈されています。人物の表側はパリを見つめ、裏側の顔はロシアの故郷を見つめているのです。また、猫がスフィンクスのように顔を持ち、人物はヤヌス神のように2つの顔を持っていることから、シャガールにとって大都市パリが神話のように幻想めいて見えたとも解釈されています。

■おわりに

グッゲンハイム美術館はグッゲンハイムが心酔した近・現代絵画の傑作が集まっています。またフランク・ロイド・ライトの設計した美術館は心に残る強いインパクトと感動を与えてくれるでしょう。ニューヨークを訪れる機会があれば、ぜひ足を延ばしてみてはいかがでしょうか。

公式ホームページ

※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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