マカン美術館:インドネシア初の国際的現代美術館

マカン美術館はインドネシア、ジャカルタ西部に位置し、インドネシア初の現代美術、国際的美術を展示する美術館で2017年11月にオープンしました。世界的な実業家ハリヤント・アディコエソエモ氏が創始者であるこの美術館は、彼の所有する現代美術作品のコレクションで構成されています。マカン美術館のコレクションは絵画だけでなく、立体作品によるインスタレーションや空間アートなど多様な表現方法による国際的なアーティスト達の作品となっています。

■マカン美術館とは

マカン美術館はインドネシア、ジャカルタ西部に位置し、インドネシア初の現代美術、国際的美術の美術館として2017年11月にオープンしました。

世界的な実業家ハリヤント・アディコエソエモ氏が創始者であるこの美術館は、彼の所有するヨーロッパ、アメリカ、アジア、インドネシアの現代美術を主としたコレクションで構成されています。美術館は総敷地面積7107m2、展示面積4000m2を誇る広大な美術館となっています。“芸術家が世界に発信するための基地となる”ことをスローガンに掲げ、インドネシアをはじめとした芸術家育成に貢献する文化機関として今なお発展を続けている美術館です。

■マカン美術館のコレクション

マカン美術館のコレクションは絵画だけでなく、立体作品によるインスタレーションや空間アートなど多様な表現方法による、インドネシア、アジア、アメリカ、ヨーロッパ等、国際的なアーティスト達の現代美術の作品を800点コレクションとしています。

前衛アートの「女王」と呼ばれた草間彌生の作品はインスタレーションの「インフィニティ・ミラー・ルーム」や絵画「ツバメの巣」他、美術館の中で最も人気が高く有名なコレクションの1つとなっています。インドネシアの西洋絵画の先駆者、ラデン・サレーの端正で写実的な作品は画家の経歴も含め、歴史的にも興味深い作品です。
その他、宗教的なモチーフを描いて物議を醸したアラマイヤーニ・ファイサルの「リンガ・ヨニ」、エンタン・ウィハルソの印象的な三連祭壇画「メルト」や、ルディ・マントファニの地球儀の半分が床に沈むオブジェなど、斬新でエネルギッシュな芸術であふれています。

また、エンタン・ウィハルソがデザインした子供達用の教育スペース「フローティング・ガーデン」は、壁に美しい金属レリーフと鮮やかな色彩のアクリル円板が多数飾られ、部屋自体が完成されたインスタレーション作品となっており、来訪者を楽しませてくれるアートスペースとなっています。

そんなマカン美術館のコレクションには、どのような作品が含まれているのでしょうか。主要な作品をご紹介します。

《インフィニティ・ミラー・ルーム魂の輝き》2014年草間彌生

本作品は2014年に着想された作品で、世界的な前衛アーティスト草間彌生によって制作されたインスタレーションの作品です。

草間彌生は日本人の画家、デザイナー、彫刻家、小説家です。奇抜なパフォーマンスやインスタレーションから「前衛の女王」と称されたこともあり、世界的に人気がある女性アーティストです。

草間のシンボルともいえるドット・ペインティング(水玉で埋め尽くされた独特な作品やデザイン)は、美術界のみならずファッション界にも絶大な人気があり、ルイ・ヴィトンやフェラガモ、ユニクロなど一流ブランドとのコラボレーション商品が多数見受けられます。

1929年長野県松本市の裕福な家庭に生まれました。幼い頃から絵が好きで、水彩、パステル、油彩などで水玉や網模様などの幻想的な絵画を描いていました。しかし、それらの幻想的な感性は彼女の病との関連がありました。草間は幼少時より統合失調症と診断され、視界が水玉でいっぱいになることや、草花が話しかけてくるなどの恐ろしい症状に悩まされていました。
「耳なし芳一」の言い伝えにある、悪霊から身を守るために体中に写経したことと等しい感覚で、草間にとってのドット・ペインティングは幻聴や幻覚から身を守ってくれる護符であり、作品制作は恐怖から解放される儀式であったとされています。

1945年、京都市立美術工芸学校(現在の京都市立芸術大学)に入学して絵画を学び、卒業後には個展を開催するようになります。しかし閉塞的で旧体制の日本美術界に疑問を抱き、1957年ニューヨークへと渡ります。そしてニューヨークを拠点として、絵画やインスタレーション、また「ハプニング」と呼ばれた路上でのヌード、デモや性的に過激なパフォーマンスを次々に行い、物議を醸しながらも世界的な前衛アーティストとなっていきました。

「インフィニティ・ミラー・ルーム」は“無限の鏡の部屋”の意味で、合わせ鏡によるインスタレーション作品です。2018年にマカン美術館で開催された草間の展示会「人生は虹の心」の展示作品で、大絶賛と大反響の作品であったために再企画され、永久展示されることとなりました。

カラフルな水玉のLED ライトが合わせ鏡の効果で無限に煌めくインスタレーションとなっています。合わせ鏡のインスタレーションの「インフィニティ・ミラー・ルーム」は草間のシリーズ作品となっており、世界的にも大人気となっています。その為、十数か所の美術館において様々なバージョンの「インフィニティ・ミラー・ルーム」が展示されています。
“無限”は草間の重要な芸術概念のひとつであり、本作品は無限の魂の輝きが具現化され、その美しさを純粋に感じることができる作品です。

《槍を持って黒い馬に乗る騎手を攻撃するライオン》1849年ラデン・サレー

本作品は1849年に制作された作品で、インドネシアにおけるヨーロッパ式絵画の先駆者、ラデン・サレーによって描かれた作品です。

※ラデン・サレーの肖像画収蔵ラトヴィア外国美術館(Public Domain /‘Portrait ofRaden Saleh’by Johann Karl Bähr. Image viaWIKIMEDIA COMMONS)

1811年、ラデン・サレーは当時オランダ領であったジャワ島の貴族の家に生まれました。オランダ王から標本収集のためにインドネシアに派遣された画家アントワーヌ・パヤンと知り合い、彼から絵画を学んでいます。サレーは植民地政府から奨学金を与えられ、絵の勉強のためにオランダに留学することとなります。そしてオランダのデン・ハーグでスヘルハウトなどの画家達から肖像画や風景画を学び画家へと成長しました。

各国の王室を訪問すると、「東洋の王子」と称されて注文が集まるようになり、画家として成功していきます。成功を収めたサレーは1851年にインドネシアに戻り、植民地政府の学芸員として働きながら、肖像画や歴史画を描きました。

本作品はタイトルの通り、黒い馬に乗ったアラブ風装束の騎手がライオンに襲われそうになっている場面を描いています。砂埃をあげながら疾走する馬と、馬上から槍でライオンを攻撃しようとする騎手、襲いかかるライオンが緊張感あふれる描写で描かれており、サレーの優れた画力が感じられます。赤い夕陽がさす砂漠を背景に繰り広げられる死闘劇は、まるで映画のワンシーンを見ているかのようで、非常にドラマティックな作品となっています。

《リンガ・ヨニ》1994年アラマイヤーニ・ファイサル

本作品は1994年に制作された作品で、インドネシアの先駆的なパフォーマンスの女性アーティスト、アラマイヤーニ・ファイサルによって描かれた作品です。

アラマイヤーニ・ファイサルは1961年インドネシアのバンドンに生まれました。父はイスラム学者、母はヒンズー教徒であり、異なる宗教文化が融合された家庭で育ちました。インドネシア国内に自分の志願するような優れた美術学校は無いと感じ、海外へと渡ります。1983年にオランダのエンスヘーデの視覚芸術学院に、1985年にオーストラリアのパディントンアートスクルに通い、その後、故郷のバンドン工科大学で現代美術を学びました。

アラマイヤーニは路上のパフォーマンスアーティストとして成功していきますが、絵画、彫刻、ダンスや詩、インスタレーションなどの様々な方法でテーマを表現していきます。彼女は性差別や暴力への問題意識、社会、政治、宗教問題をテーマとした制作やパフォーマンスを行いました。しかし、その結果、弾圧や攻撃をうける事態にまで発展していきます。

この「リンガ・ヨニ」はヒンズー教の宗教的シンボルである男女の性器リンガとヨニを中央に、そしてその背景にアラビア語とインドの古代文字のパラワ文字が描かれています。1994年に展示されると、作品が宗教を侮辱しているとしてイスラム原理主義者から激しく敵対視されるようになります。そして彼らの脅迫に命の危険を感じたアラマイヤーニはオーストラリアに避難することにします。

マカン美術館の展示はこのオーストラリアへの逃避行後初めての展示となります。アラマイヤーニは美術館が自分のこの問題作を購入し、展示することについて非常に驚きました。宗教や文化が多様なインドネシアにおいて、芸術活動は制限や弾圧が避けられないこともあります。しかしそれらに負けず表現していく芸術家達に対して援助と貢献をする美術館は、芸術発展のための非常に重要な機関であり、更なる発展が期待されています。

■おわりに

マカン美術館はインドネシアをはじめ新しい感覚の芸術家達の挑戦的な試みの芸術作品を観賞することが出来ます。それらの斬新でエネルギッシュな作品はまるで冒険している時のように心をワクワクさせてくれます。インドネシアを訪れる機会があれば、ぜひ足を延ばしてみてはいかがでしょうか。

公式ホームページ

※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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