ベトナム美術博物館:ベトナムの文化や芸術を幅広く学べる美術館

ベトナム美術博物館は、1966年にベトナムのハノイに開館しました。ベトナムの伝統的な芸術建築であるこの博物館では、先史時代からベトナムの現代芸術にいたるまでの幅広いコレクションが紹介されています。9つの国宝を含む約20,000点の芸術作品が所蔵され、ベトナムの文化と芸術を幅広い視点から学ぶことができるため、ベトナムで最も重要な博物館の一つとされています。そんなベトナム美術博物館の歴史と所蔵品について詳しく解説していきます。

■ベトナム美術博物館とは

ベトナム美術博物館は、初期の先史時代から古典的な古代芸術、ベトナムの現代芸術にいたるまでの幅広いコレクションによって構成されています。ベトナム民族の文化的および芸術的な遺産が保存された最も重要な博物館の一つでもあります。

建物は1930年代のフランス植民地時代に建設されたもので、当初はフランス公務員の娘たちがハノイで勉強するための寄宿学校として使われていました。1962年にベトナム政府から、この建物で先史時代から現在までのベトナムの貴重な芸術作品を収集、保存することが命じられました。それにより、ベトナムの伝統的な建築形式の建物へと改装され、1966年に一般公開されたのです。

その後、博物館は1977年に別館を建設、1990年代には本館を拡張して展示スペースを増やしていきました。この本館と別館での展示により、考古学、宗教、戦争、芸術を学ぶための様々な視点から多くのコレクションを紹介しています。

■ベトナム美術博物館の所蔵品

ベトナム美術博物館には現在約20,000点のコレクションを所蔵し、そのうちの約2,000点が常設展示とされています。先史時代の芸術品、11~20世紀の陶芸品、ベトナム革命以前から現代にいたるまでの絵画や彫刻、民芸品、陶器など、ベトナムにおける芸術を様々な素材や種類によって紹介しています。ベトナムの有名な芸術家による作品も多数展示され、そのうち9点の作品が国宝として認められています。

そんなベトナム美術博物館のコレクションには、どのような作品が含まれているのでしょうか。主要な作品をご紹介します。

・《リトル・トゥイ》1943年チャン・ヴァン・カン

※本作品が印刷された切手

本作品は1943年に制作された油絵作品で、ベトナムの画家チャン・ヴァン・カンによって描かれています。

チャン・ヴァン・カンは1910年にベトナムのハイフォンで生まれました。郵便局員であった父親のもとで育ち、幼少期はクラフト職人の母親の影響でクラフト提灯の絵付けを学び、早くから絵の才能を発揮するようになります。小学校を卒業した後に彼はハノイへと移り、祖母と一緒に暮らしました。1925年に高校の工学部へ入学すると、レースや家具などのデザインサンプルを描く勉強をするようになりました。

その後、ニャチャンにある海洋学研究所で働き始めたチャン・ヴァン・カンは、そこでフランスの画家と知り合ったことが影響し、西洋の絵画技法に精通するようになります。最初は海や魚などをテーマに絵の制作をしていましたが、まもなく彼は研究所をやめ、絵画を追求するためにハノイへと戻ったのです。そして、1931年にインドシナ美術学校へと入学した彼は、グエン・ザー・チーらとともに絵画を学びました。フランスの植民地時代、彼はベトナム独立のために戦う革命家たちに共感し、ベトミンの国家救済運動にも参加しました。これを促進するためにも絵を描いていた彼は、その多大な貢献により、一流の労働勲章を含む多くの勲章を与えられています。

本作品は、チャン・ヴァン・カンの8歳の孫娘の肖像画であり、彼の作品のなかでも最高傑作の一つとされています。また、本作品は2013年にベトナム社会主義共和国の首相により国宝として認められました。

・《屏風絵》1939年

本作品は1939年に制作された漆絵作品で、ベトナムの画家および漆絵の第一人者であるグエン・ザー・チーによって描かれています。

グエン・ザー・チーは1908年にベトナムのハノイで生まれました。彼は1932年からハノイ美術へ第4期生として入学しましたが、途中で休学したため、第7期生の画家のチャン・ヴァン・カンとともに卒業しています。彼は風刺画やイラストなどを描く画家として活動していましたが、独特の技術によって漆絵を創作するようにもなり、1939年に初めて漆絵の個展を開きました。その作品が美術界や人々の間でたちまち旋風を巻き起こしたのです。

グエン・ザー・チーは洗練された筆遣いと漆絵に関する新しいアイデアにより、ベトナムの新しい芸術を生み出した最も有名な芸術家の一人となりました。彼の漆絵芸術に対する探求、発展により、「現代ベトナムの漆絵の父」とも呼ばれています。生涯を芸術活動に捧げた彼は、強烈な個性を持つ才能ある画家としてベトナム現代美術の威信に貢献し、ベトナム絵画界における巨匠の地位を得たのです。

2012年にグエン・ザー・チーの制作した5つの漆絵作品にホーチミン賞を与えられ、のちにホーチミン市にある通りに彼の名前が付けられました。

本作品は、2つの大きな絵を表す8枚の漆絵で構成された屏風絵で、2017年にベトナム社会主義共和国の首相によって国宝として認められた作品です。

・《授乳》1970年グエン・ファン・チャン

本作品は1970年に制作された絹絵作品で、ベトナムの画家および近代絹絵の創始者であるグエン・ファン・チャンによって描かれています。

グエン・ファン・チャンは1892年、ベトナムの農村部であるハティン(現在のゲティン)で生まれました。貧しい家庭に育ちましたが、幼少期の頃から絵の才能に恵まれ、書画を売りながら独学でフランス語の勉強をした後、小学校の教師になりました。しかし、画家になることを目指した彼は、1925年に創立されたばかりのインドシナ美術学校に第1期生として入学し、西洋絵画を学ぶようになります。その後、中国伝統絵画の技法も習得した彼はベトナムで最初の近代絹絵を発表し、その道の地位を確立していきました。

東洋の伝統と西洋の技法を融合させることにより新しく創出されたグエン・ファン・チャンの絹絵は、国民絵画として発展しました。戦況の悪化により1939年に一度故郷に帰りましたが、インドシナ戦争で勝利をとげた1955年にハノイへと戻り、高等美術学校の教師となります。生徒たちへの指導に当たりながらも、彼は農村に暮らす女性や子どもたちを中心とした風景を対象に絹絵を描き続けました。彼の絹絵は1931年にパリ国際植民地博覧会で展示され、その後、イタリア、アメリカ、日本、ポーランド、旧ソ連などでも展示されています。

本作品では、母親が赤ちゃんに授乳をするときの様子があたたかい印象で描かれています。グエン・ファン・チャンによるベトナムの農村の素朴な日常風景が描かれた絹絵作品は、他にもこの博物館に何点か保存されています。

■おわりに

ベトナム美術博物館には、そのコレクションの幅広さや質だけでなく、歴史的および芸術的建築の魅力によって、国内外から毎年多くの訪問者が訪れています。館内には子供向けのクリエイティブスペースやカフェもあり、充実した時間を過ごすことができます。

※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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