イワン・パブロフ:パブロフの犬で知られる生理学者

イワン・ペトロ―ヴィチ・パブロフは、「古典的条件付け」と言う概念を犬への実験により確立させ、多くの専門用語を作り出したことで知られる生理学者です。パブロフの犬と呼ばれた何百頭もの実験用の犬を飼育して、特殊な手術を重ねて犬達を観察する事で反射条件を研究、観察しました。

※リャザンの景観

◆生年月日、生まれた町、生まれた町の概略

パブロフは1849年9月14日にロシア帝国のリャザンで生まれました。リャザンはかつてリャザン公国の首都であった事から、歴史と文化が融合しつつも自然に恵まれた美しい町です。オカ川の流域に位置している事から、比較的古来より川を利用した商売が行われ、繁栄していた町でもありました。現在では美しい景観を残しながらもリャザン州の州都と言う事もあり、工業地帯が作られ、工業都市として多くの労働人口を抱え発展し続けています。

◆幼少期、学生時代

牧師である父に勧められ、弟と共に神学校へ入学したパブロフですが、自然に囲まれた地で育ち、動植物へ強い関心を持っていた彼にとって神学校の教育は非常に物足りない物でした。カリキュラムが牧師を育成するものに特化しており、それ以外の学問に触れる機会が少なかったからです。しかし、リャザン神学校はそれなりに自由な気質を持っていたため、彼自身も自由に本を読み漁り、自然科学への関心を高めて行くことになります。そしてパブロフは自然科学を学ぶため、神学校を中退しサンクトペテルブルク大学へ進むことを決意しました。

大学卒業後、胃や小腸、食道などの神経の関係性に着目し、消化器官に関する生理学研究の為犬を用いた実験を開始しました。
複数の犬が、涎を計測する為頬に管を通し試験管を取り付けられました。ある時、パブロフは犬達が飼育係の足音を聞くだけで涎を垂らしている事に気づきます。そこでパブロフは異なるパターンの餌を犬に与え、その結果を観察することにしました。まず初めに酸汁を入れた餌を犬に与えてみたところ、犬は餌を見ただけで唾液を検出し、続いて餌を口に入れた際にも同じように唾液を検出しました。しかし、同じ条件で実験繰り返し行った結果、次第に犬は酸汁を入れた餌を見せられても唾液を検出しなくなりました。

さらに、パブロフは餌を与える前にメトロノームやベルを鳴らす実験をしました。餌を視覚的に認識したり、匂いに反応したりしないようベルを慣らしたあとに別の部屋で餌を準備し与えています。すると犬は、条件刺激(ベルの音)を与えただけで唾液を分泌するようになりました。

この結果からパブロフは、「条件反射」という、神経が環境に応じて特別な反射を発達させる現象を証明したのです。

その後は条件付けをした犬の中から実験を続けると唾液の分泌量が増える条件付けの「強化」。ベルを慣らしても餌を与えずにいるとやがて刺激に反応しなくなっていく条件の「消去」などを関連付けて証明していきました。

同時に、食べ物ではなくとも口に含めれば本能的に唾液を生成する反射を「無条件反射」と定義付けました。ボールが当たりそうになれば自然と回避行動をとる、熱いものにふれたときに瞬時に手を引っ込めるなどの動作がこれにあたります。

このような実験に用いられた犬たちが、かの有名な「パブロフの犬」と呼ばれます。

パブロフは一連の研究から高次元神経活動の生理学、循環器系の生理学、消化器系の生理学などに研究を深めノーベル生理学・医学賞を受賞するに至りましたが、その後内戦状態に陥ったロシアの政権がボリシェビキ党に握られてしまい、ボリシェビキ政権によって賞金を奪い取られるなど苦難の人生でもありました。レーニンからスターリンの統治下では彼の研究を利用した人間の行動を外部刺激で強制的に変容させるいわゆる「洗脳」と呼ばれるような手法にまで発展していったとされています。

82歳で彼が肺炎を患いこの世を去った時、全世界から追悼の意が表されソビエト連邦政府は国葬を執り行いました。現在ロシアではパブロフの研究を継承する大脳生理学の研究が今も尚続けられています。

※モスクワ自然史博物館のパブロフの犬に関する展示

○まとめ

「パブロフの犬」という言葉は世界中に慣用句として広まっており、既にご存知であった方も多いことでしょう。この研究成果は行動主義心理学で活用され、古典的条件付けや行動療法などに後進の発展に大きな影響を与えました。

モスクワの自然史博物館には当時の実験の様子が展示されています。最終的に「パブロフの犬」と呼ばれた実験体は数百頭にのぼり、現在動物実験は賛否両論が分たれるところであり、このように手術を施されて実験に利用される動物を見ると痛ましくも感じます。しかし、また彼らの犠牲なくして世の科学の発展がなかったこともまた間違いなく事実なのです。同時に、過去の偉大な研究者に敬意を表し、犠牲の上にある繁栄の中で常に感謝を忘れず未来を据えて行かなければならないでしょう。

※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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