ノーベル生理学・医学賞1956年ヴェルナー・フォルスマン:心臓カテーテルを自ら実践した医師

ヴェルナー・フォルスマンはドイツの医者です。心臓カテーテルは今日の心臓病治療に欠かせないものとなっていますが、世に浸透するまで多くの研究者たちはその有用性を分かっていながら実践に二の足を踏んでいました。そんな中自らの体にカテーテルを挿入し心臓への挿入が可能であることを証明し、それらの功績により1956年にアンドレ・フレデリック・クルナンとディキソン・W・リチャーズと共にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。そんなヴェルナー・フォルスマンの受賞までの道のりについて詳しく解説していきます。

◆彼の生年月日と生まれた町について

ヴェルナー・フォルスマンは1904年8月29日にドイツのベルリンで生まれました。

ベルリンはドイツの首都でドイツ最大の都市です。古来の王朝時代から首都機能を持っており古くから栄えていました。第二次世界大戦以後ドイツ分断の影響により西ドイツと東ドイツに分かれ、ベルリンは東ドイツの首都となり「ベルリンの壁」なる国境分断線は歴史上負の遺産となりました。のちにベルリンの壁は破壊されドイツは一国として統一されましたが未だにその名残があります。現在ではドイツの首都として交通の要所や産業都市としても発展しており、ヨーロッパ経済の中枢を担っています。

◆幼年期や学生時代

ベルリンの一般家庭で育ったフォルスマンはその地で中等教育まで受け、医学を学ぶためにベルリン大学へ進学します。そこで解剖学を学び、卒業後はベルリンの病院で臨床医として勤めたのをきっかけに心臓カテーテルに興味を持ち始めました。

◆受賞に至るまでの逸話など

フォルスマンは心臓カテーテルの有用性に早くから注目しており、これが成功すれば医療が格段に充実すると確信を持っていました。特に医療現場で働く彼にとって医療技術の革新は悲願でした。

何故、心臓カテーテルが有用であると考えていたかというと、カテーテルは2000年も前の古来ローマにおいて既に医療現場で使われていたからです。当時はまだ心臓の働きについては分かっておらず、膀胱や尿管結石の治療に使われていました。

後に心臓の働きや血液循環の流れが解明されると、人々はこのカテーテルが心臓の治療にも使えるのではないかと考え始め動物による実験が行われていました。18世紀頃には馬の頸動脈や心臓への挿入も成功しており、人間にも応用出来ることは誰もがわかっていたのです。

しかし多くの研究者たちは人間への実験をためらっていました。幾ら動物で成功しているとはいえ人間の体に異物を挿入するなど計り知れないリスクがあり、一歩間違えれば挿入者の命を落とす事となり誰もがこの実験を行うことに消極的でした。しかしフォルスマンはそれらを実践したいと言う強い思いがあり、当初は死体に対し実験を行っていました。

死体の腕の静脈に尿管カテーテルを挿入し心臓の右心房へと到達させ、さらに右腕左腕両方試しどちらが良いのかも考え、これにより事実上人間への挿入も可能であると証明しました。そこで人体への実験を試みようと考えますが当然引き受けてくれる人はおらず、手術器具の調達のため、知り合いの看護師に協力を依頼したのです。

自らの腕の静脈から尿管カテーテルを死体の時と同様に挿入させ、もう片方の腕で強く押し進めました。フォルスマンはその感触を得るとその尿管カテーテルを挿入し、看護師の手を借り放射線室へ移動し自分の体内をX線で写し出します。すると予想通り心臓の右心房に尿管カテーテルが無事挿入されており、彼の思惑通り心臓カテーテルの人体への使用も実証されたのでした。

しかしフォルスマンが画期的な結果を実証したにも関わらず周りの目はとても冷たく、自らの体にカテーテルを挿入するなど奇異的な行為とみなされ、同じ医者である上司たちからも「サーカスの曲芸」と揶揄されます。

フォルスマンのこの革新的な結果は残念ながら認められず、病院内で問題となり解雇されてしまいます。その後ドイツの辺境の村に移り住むと家族とともにのんびり暮らし、クリニックの開業医として地域医療に育んでいきました。

そんなフォルスマンのもとに20年以上経ってからノーベル賞を受賞したという通知が届きます。同時に受賞したアメリカのクルナンとリチャーズが心臓カテーテル検査の技術確立に務めたことやフォルスマンが心臓カテーテル検査の基礎を作り上げたという功績が認められ、1956年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。

◆終わりに

当初は、実験の成果を認められる事はありませんでしたが「サーカスの曲芸」とされたことが結果的に評価されることになりました。誰しも最初の実験には勇気がいりますが最初があるからこそ今があるということを証明してみせた医師でした。

※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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