ゲオルク・フォン・ベーケーシ:蝸牛の研究に尽くしたハンガリー出身の生物物理学者

ゲオルク・フォン・ベーケーシは、周波数の音波に対する神経伝達について研究をした生物物理学者です。彼の研究成果は、発表当時には多くの議論を巻き起こしましたが、結果的にノーベル医学賞を受賞。そんなゲオルクについて詳しく紹介していきます。

※画像はイメージです。

<生物物理学者ゲオルク・フォン・ベーケーシとはどんな人物だったのか>

ゲオルク・フォン・ベーケーシは、1899年にハンガリーのブダペストにて誕生。彼の父親は外交官だったこともあり、とても教育熱心な家庭で育ちました。スイスにあるベルン大学に入学し、化学を学ぶと24歳という若さで博士号を取得します。その後、ハンガリーのブダペスト大学に移り物理学を専攻しますが、研究者になることは考えていなかったようで、卒業後はハンガリーにある郵便局へ就職。彼は郵便局内の研究部署において情報通信関係の研究を行っていました。

そこで彼は仕事を通して耳の働きに興味を持つようになります。彼の好奇心は仕事中でも耳の研究をするほど熱心だったそうで、次第に「本格的に研究をしたい」と考えるようになりました。郵便局を退職後、スウェーデンのカロリンスカ研究所やストックホルムの技術研究所で聴覚に関する研究を行い、聴力計の開発にも携わりました。

<ノーベル賞を受賞した研究で身体の仕組みが解き明かされる>

ゲオルクは、1947年にアメリカのハーバード大学へ移ると心理音響研究所を拠点とし、哺乳類の聴覚器といえる蝸牛について研究を始めます。すでに、内耳に関する研究は少なからずされておりましたが、耳管や聴神経、そして蝸牛があることまでしか解明されておりませんでした。

そんな中、内耳の仕組みの解明に成功したのがゲオルクです。彼は、内耳から蝸牛のみ残したまま取り出す解剖方法を考案。それによって、蝸牛がどのような仕組みで神経に伝わっているのか実験することが可能になりました。蝸牛を実験した結果、音の刺激が来ると基底膜が表面波のように振動している光景を観察することに成功。それにより基底膜の構造が明らかとなり、拾った音の周波数が蝸牛の螺旋に沿いながら、別の基底膜上にて増幅されていることが実証されました。つまり、異なった周波数を持つ音波は、蝸牛から大脳に繋がる神経細胞の何処かで部分的に消え失せているところがあるのではないか、と突き止められたのです。

この研究結果でさらに「蝸牛の側に螺旋上に存在している聴覚細胞が、音の特定に役立つ機能を果たしている。」と考えたゲオルクは、これを「基底膜における周波数の分散」と称し、世間に広めていきます。

またその他の研究から、基底膜の周波数特性と共に内有毛細胞が行う周波数への生理的現象を「チューニング」と呼び、「音声認知の早い時点から機能している」ということもわかりました。どういった仕組みかというと、耳の入り口に近い方が高周波、奥にいくほど低周波を拾う構造となっており、周波数情報を神経細胞興奮により変換しているとゲオルクは説明しています。

この蝸牛に関する研究によって、1960年にノーベル生理学・医学賞が贈られました。ですが、蝸牛の仕組みについて多くのことを研究したゲオルクですが、未だに解明されていない部分も多く、彼のノーベル賞受賞時も賛否両論があったそうです。現在も研究者の中で議論が続いていますが、現段階ではゲオルクが説いた「基底膜による周波数分解」が有力説とされています。それ以外にも、耳鼻咽喉科においてこの研究は認められており、耳鼻科学会で表彰されメダルを授与されました。

<晩年もアメリカで研究を続けたゲオルク>

ゲオルクは、ノーベル生理学・医学賞を受賞後も、ハンガリーに戻ることはなくアメリカに残り、60歳と高齢ながらもハーバード大学で教鞭を執りました。ですが、1965年に彼の研究所が火事で全焼。過去にも、ゲオルクの研究室は戦争の影響などで2度も失われており、後に「私は人生で3回すべてを失いました」と語るほど深く落ち込んだそうです。それを知ったハワイの感覚科学研究所の所長から誘いを受け、翌年にホノルルへと移ると、感覚に関する研究に携わり73歳で生涯を閉じました。最後まで世帯を持たなかった彼の遺灰は、本人の希望により太平洋にまかれたそうです。

また生前は美術に大変関心があり、ホノルルで過ごしていたときにはアジアの美術品を蒐集していたそうです。その関係があってか、ハンガリーのブダペスト地区にある芸術エリアにゲオルクの記念碑プレートが飾られています。

<人類の進歩に大きく貢献した生物物理学者>

いかがだったでしょうか。今回はゲオルク・フォン・ベーケーシについて紹介しました。聴覚は人間にとって必要な機能でありながら、未だに解明されていない部分も多くあります。ですが、彼の研究で人類の身体の仕組みが解明しただけでなく、聴覚に関する病や障害に苦しめられていた人たちの治療や改善法に大きく貢献したといえるでしょう。

※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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