ノーベル生理学・医学賞 1989年 マイケル・ビショップ:ハロルド・ヴァーマスと共にレトロウイルスの研究で癌遺伝子を発見した研究者

マイケル・ビショップは、アメリカ出身の免疫学者・微生物学者です。1989年に『レトロウイルスのガン遺伝子が細胞起源である事の発見』でノーベル生理学・医学賞を受賞しました。この受賞はビショップとハロルド・ヴァーマスの共同研究によって成されたもので、今回はビショップの側から見た受賞までの道のりについて解説していきます。

◆マイケル・ビショップの生まれた町

マイケル・ビショップは、1936年2月22日にアメリカ合衆国 ペンシルベニア州のヨークで生まれました。
ヨークは1741年にフィラデルフィアから移住した入植者たちによって作られ、町の名前はイングランドにある同名の都市に由来しています。町の中の4つの地区が国家歴史登録財として登録されていて、どの建物も保存状態よく残されています。
長年に渡って農業を中心に栄えた町でしたが、近年は蒸気機関、鉄道線路の製造、製紙業などが発展しています。また、ボディビルや筋力トレーニングで使用するバーベルを販売している会社ヨーク・バーベルがあり、USA ウェイトリフティングの本拠地でもあります。

文化面ではストランド・キャピトルパフォーミング・アーツセンターという劇場の存在が、大きな役割を果たしています。音楽ライブだけでなく、コメディアンショーなどでも使用されています。
そして、この町で最も多くの観光客が集まるイベントと言えば「ヨーク祭り」です。ヨーク祭りは地域最古の祭りで、第一回が開催されたのは1765年頃だそうです。毎年の9月に10日間かけて行われ、ゲーム・コンテスト・乗馬・カントリーミュージックのコンサートなどを楽しめます。

◆幼少期、学生時代

※サスケハナ川の空撮

マイケル・ビショップは、サスケハナ川西岸の田舎町で幼少期を過ごしました。父が牧師であったため、教会のイベントに日常的に参加していました。教会でピアノやオルガンや歌を習い、子供時代の彼はとても音楽が好きでした。そのほかには歴史にも興味がありましたが、科学の授業はほとんど聞いていなかったようです。
成績は非常に優秀でしたが学校の勉強の中でピンとくるものはあまりなく、彼の進路選びのきっかけとなったのは、夏休みに医師のロバート・コフ博士と親交を深めたことでした。コフ博士はこの町で医師として働きながら生物学にも精通しており、少年の頃のビショップに大きな影響を与えました。
高校を卒業しゲティスバーグ大学へ入学、そこで化学を専攻します。そしてその後、ハーバード大学医学部へ入学し、多くの本や研究書を読み込み分子生物学の研究に興味を示します。3年生からは動物ウイルス学を中心に学び、1962年に博士号を取得して卒業しました。

◆受賞に至るまで

ハーバード大学医学部を卒業してからは、マサチューセッツ総合病院で研修医として働きました。そこで臨床経験を積み医学の知識はもちろん、彼なりの医学との向き合い方も学びます。

研修を終えてからは国立衛生研究所の国立アレルギー感染症研究所に所属し、本格的に研究をスタートさせます。ビショップの指導を行ったのは微生物学者のレオン・レビントウで、動物細胞の生化学を研究していた人物でした。レビントウに影響を受け、ビショップも動物ウイルス(特にポリオウイルス)の研究に没頭するようになります。
それからは分子生物学者ゲブハルト・コッホの勧めでドイツのハンブルクにあるハインリッヒ・ペッテ研究所へ移りました。そして、1968年にカリフォルニア大学サンフランシスコ校の教員に就任します。

サンフランシスコでも引き続きポリオウイルスの研究に携わりました。微生物学者のウォーレン・レビンソンとも共同で研究を行うようになり、この時期に注力したのがレトロウイルス(RNAウイルス類の中で逆転写酵素を持つウイルス)の複製実験でした。なかなか成果が出ませんでしたが、遺伝学者ハワード・テミンと分子生物学者デビッド・ボルティモア が逆転写酵素を発見したことで進展を見せます。助手や大学院生たちも加わり、ようやく「感染細胞のウイルスRNAの特性」「正常細胞と感染細胞は同じウイルスDNAである」という結論を出すに至りました。

大きな転機となったのは1970年頃、ハロルド・ヴァーマスがビショップの研究チームに参加したことです。ビショップとヴァーマスは、レトロウイルスが動物の体内でどのように癌を引き起こすのか、そのメカニズムの解明に取り組みました。

長い時間をかけたくさんの実験を行いますが、最も周知された研究成果は「人間の癌遺伝子であるv-Srcの発見」です。癌の原因となるウイルスは1911年にペイトン・ラウスが発見していましたが、ウイルス中の癌遺伝子を発見したのは世界初でした。さらにこの結果を用いることで、細胞の正常な遺伝子がどのように悪性腫瘍に変化するのかの解明にも繋がりました。ビショップとヴァーマスは、レトロウイルスの研究により1989年のノーベル生理学・医学賞を共同受賞しました。

◆終わりに

私生活では、キャサリン・イオネ・プットマンと結婚し2人の息子に恵まれました。また、もし生まれ変わるなら音楽家になってみたいと語っています。
マイケル・ビショップとハロルド・ヴァーマスは共にレトロウイルスのガン遺伝子を研究し、癌という病気の解明にまた少し希望をもたらしました。ビショップは幼い頃から音楽や歴史が好きで、化学以外の選択肢もたくさんありました。しかし彼が医学を選んでくれたことで、命を救われた人々がいることには間違いありません。

※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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