イングヴェイ・マルムスティーン:歴史を変えた速弾きギタリスト

クラシカルどころか、クラシックそのものとも言えるメロディを、信じられないような高速で弾き出されるイングヴェイのギター。
スウェーデンはストックホルムから彗星のように現れたギタリストは、後のロックギタリストに大きな影響を与えることになりました。

イングヴェイ・マルムスティーン

学生時代のイングヴェイはお世辞にも優等生とは言えませんでした。学校にはろくに行かず、たまに登校しても学校の廊下をバイクで走り回るような、どちらかと言えば不良少年だったようです。
ただ、音楽に対しては情熱的で、姉からもらったディープ・パープルのレコードをすり減るまで聞き込み、コピーしていました。

1983年に、アメリカのインディーズレーベルに送ったデモテープを評価され、単身アメリカに渡ります。スティーラーというバンドに加入するもすぐに脱退、オーディションを経てグラハム・ボネットが作ったアルカトラスへ参加します。

この時、グラハム・ボネットはちょうどマイケル・シェンカー・グループを脱退したあとで、レインボー時代のリッチー・ブラックモアを彷彿させるようなギタリストを探していたと言われています。イングヴェイのプレイはリッチーのようなクラシカルなフレーズを中心にしながら、さらに高度なテクニックまでも併せ持っていたため、グラハムの理想にかなり近かったものと思われます。

イングヴェイについては、この時、ちょうど再結成を噂されたUFOのギタリストとしても候補に上がっていました。
後のイングヴェイのインタビューによると、アルカトラスを選んだのはライブなどでレインボーやマイケル・シェンカー・グループの曲を演奏できることが理由の一つだったそうです。
事実、アルカトラスのライブで演奏されたレインボーの「Since You Been Gone」や「All Night Long」は、本家のリッチーのソロと比べても遜色ないほど素晴らしいものでした。

衝撃のデビュー

アルカトラスのデビューは、ちょうどLAメタルブームの真只中でした。ミュージックTVでは毎日のように多くのメタル・バンドのプロモーションが流れ、ドッケン、ラット、W.A.S.Pといったバンドが次々にデビューしていました。
そんな中、レインボーやマイケル・シェンカー・グループでボーカルを担当していたグラハムのバンドは大きな注目を集めていたのです。

デビュー曲「Island in the Sun」のビデオクリップは、当時LAメタルで流行っていた映画チックなコミカルなものでしたが、そこで展開されたイングヴェイのギターソロはファンだけでなく多くのギタリストにも衝撃を与えたのです。
デビューアルバム「No Parole from Rock’n’Roll」では、クラッシクを基盤としながらも激しいハードロックに昇華させた珠玉のギターソロが散りばめられていて、どの曲一つ取っても難解で信じられないような高速フレーズばかりでした。

アルカトラスからライジングフォース

アルカトラスのスーパーギタリストとして衝撃のデビューを飾ったものの、1年もせずにイングヴェイはグループを脱退してしまいます。

もともと、他のメンバーと年齢差もあり、コミュニケーションの部分でも上手く行っていなかったようで、すぐに自身がリーダーであるライジングフォースを結成することになるのです。
アルカトラスの脱退については、いろいろな噂がありましたが、2013年に発売されたイングヴェイの自伝によれば、決定的な出来事としてライブ中に突然ギターの音が出なくなったのでアンプを確認してみると、なんとグラハムがギターのシールドを引っこ抜いてしまったのだそうです。

グラハムは、自分が中心のバンドであるにもかかわらず、ステージ上で長々とソロを披露するイングヴェイに腹が立ち、シールドを引っこ抜いたのだそうですが、元不良少年のイングヴェイが黙っているわけもなく、グラハムを殴り飛ばし、ギターを置いてステージを降りてしまいました。

ライジングフォースは、より自分のやりたいスタイルを追求するために、スウェーデンからメンバーを呼び寄せます。ファースト・アルバム「Rising Force」では、イングヴェイはもとより、キーボードのイェンス・ヨハンセン、ドラムスのアンダース・ヨハンセンの超絶プレイが冴え渡り、世界にはまだまだ隠れた名プレイヤーが埋もれているのだということを認識させるような出来に仕上がっています。

ストラトキャスターとイングヴェイ・マルムスティーン

イングヴェイと言えば指板を削ったスキャロップのストラトキャスターが有名です。

ヴィンテージを中心にストラトばかり200本以上も持っているそうで、中には信じられない値段が付くほどの高価なものもあるということです。一時期日本のギターメーカーKAWAIとライセンス契約を結んでいた関係で、同社のフライングVタイプのものも使用していましたが、ピックアップはシングルコイルに、指板もスキャロップに加工されていました。

あと、アルカトラスのビデオクリップでも使われていましたが、左利き用のストラトに通常通り弦を張ったものも好んで使用していてライブなどでもよく見かけます。

イングヴェイ・マルムスティーンのギタープレイ

イングヴェイのギターは、単にメロディック・スケール、ハーモニック・マイナー・スケールといった音階上の特徴だけではなく、高速で正確に弾き出されるテクニックに裏打ちされたものです。分散和音と呼ばれる高速のアルペジオや低音域で5フレット以上にまたがるハンマリング・オン、プリング・オフは後出のギタリストに大きな影響を与えたと言われています。

弦は通常より細めの0.08ですが、4,5,6弦は重低音をきかすためにセットよりも太いものが使用されています。指板をスキャロップ加工し、ピックアップをセイモア・ダンカン(以前はディマジオ)に交換している以外は大きな改造はされておらず、トレモロシステムも流行りのフロイドローズではなくオリジナルのシンクロナイズド・トレモロ・ユニットがそのまま装備されています。

また、エレキギターだけでなく、アコースティックギターでも美しい旋律を奏でることができ、ライブのハイライトではたびたびアコースティックソロが演奏されます。

おすすめアルバム

イングヴェイを知る上でぜひ聞いてもらいたいのは、アルカトラス時代の唯一のライブアルバム「Live Sentence」です。全曲驚愕プレイの塊なのですが、中でもオープニングを飾る「Too Yang Too Die…」インストゥルメンタル曲である「Evil Eye」はライブとは思えないほど完璧なプレイを披露しています。

ライジングフォースになってからの名盤と言えば、アメリカでもっとも売れた「Odyssey」を挙げる人が多いですが、初期メンバーが参加している最後のアルバムである「Marching Out」もおすすめです。
イングヴェイのアルバムではないのですが、1985年に「LIVE AID」にならってリリースされた「Hear in Aid」でのソロも秀逸です。このプロジェクトにはディオのヴィヴィアン・キャンベル、ドッケンのジョージ・リンチを始め名だたるギタリストが総勢11名も参加し、それぞれ特色あるギターを披露しているのですが、中でもイングヴェイのギターパートは群を抜いています。

速弾きはもちろんなのですが、限られた小節の中でいかに自分らしさを表現するかという点でもイングヴェイの才能はすぐれているのです。

現在のイングヴェイ。マルムスティーン

ライジングフォースは、メンバーを変えつつもコンスタントにアルバムを発表し続けています。当初のスタイルどおり、ベースやコーラスまでもイングヴェイが担当するようなワンマンバンドではありますが相変わらず質の高いプレイを提供し続けています。

また、イングヴェイ個人でもあのディープ・パープルとジョイントコンサートを行ったり、元ディープ・パープルのベーシストであるグレン・ヒューズやアルカトラスの2代目ギタリスト、スティーブ・ヴァイとのセッションを行ったりと積極的に活動しています。

現在、もっとも早くギターを弾く男としてギネスに認定されているのは、バーニングインヘルのギタリスト、チアゴ・デル・ヴェガです。たしかにチアゴのプレイは素晴らしいのですが、クラシックをルーツとしたイングヴェイのメロディアスなプレイはまだまだ健在です。これからも素晴らしいギターを聴かせてくれることを期待したいですね。

※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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