ジェフ・ベック:孤高のギタリスト

伝説的スーパーバンド、ヤードバーズから飛び立ったスーパーギタリストが3人います。のちにレッド・ツェッペリンを率いてアメリカを席巻したジミー・ペイジ、Mr.スローハンドとして世界で最も偉大な100人のギタリストの2位にランキングされるエリック・クラプトン。そして、もう一人が常に世の中の数歩先を歩いてきた天才ギタリスト・ジェフ・ベックです。

ジェフ・ベック

ジェフ・ベックの本格的な活動は、ロンドンでジミー・ペイジと出会うことからスタートしました。エリック・クラプトンが脱退したあとの人気バンド、ヤードバーズのギタリストとしてジミー・ペイジから紹介され、その後はペイジとともにツインリードを担当します。
当時のヤードバーズは、音楽だけでなく映画に出演するなど多忙を極めており、健康上の理由を理由に加入からわずか1年でグループを脱退してしまいます。

元祖天才ギタリスト

ヤードバーズを脱退後のジェフ・ベックは、全て本人が主体となったバンドです。翌年結成されたジェフ・ベック・グループではボーカルに後にアメリカを代表する歌手に成長するロッド・スチュアート、ベースに国民的ロックンロールバンド、ローリング・ストーンズのギターを担当することになるロニー・ウッド、ドラムにはレインボー、マイケル・シェンカー・グループで活躍することになるコージパウエルなどそうそうたるメンバーが在籍しています。

当時は、まだ無名だった彼らの才能を見抜いたジェフ・ベックの眼力の高さが伺えるメンバー構成と言えます。
その後、メンバーチェンジを繰り返し、ジェフ・ベック・グループは通算4枚のアルバムを発表しますが空中分解。ベースにティム・ボガード、ドラムスにカーマイン・アピスを加え、ベッグ・ボガード&アピスを結成します。

ヴァニラ・ファッジの強力なビートを担当するティムとカーマインが加わることで、バンドとしては最小編成であるトリオにもかかわらず、重厚で緊張感のある演奏は世界中のミュージシャンからも評価されました。
しかし、あまりにも才能に溢れ個性的な3人であることがバンドの寿命を早めてしまいます。ベック・ボガード&アピスはたった1枚のスタジオ・アルバム(1989年にライブ盤がCD化)を発表しただけで、わずか2年で解散してしまうのです。

その後は特定のメンバーでバンドを結成することはなく、ジェフ・ベック名義で活動を続けることになります。1970年台後期、「Blow by Blow」「Wired」といわゆるフュージョン・ムーブの魁とも言えるような名盤を次々と発表し、その人気を確かなものにしていきます。

さまざまなギターを使いこなすギタリスト

ジェフ・ベックは、時代によってさまざまなギターを使いこなしてきました。ヤードバーズ時代はフェンダーのエクスワイヤーを多く使用していましたが、ジェフ・ベック・グループでは主にギブソンレスポールのスタンダードがメインとなっています。

ソロとして活動してからもっとも多く目にするギターは、フェンダー・ストラトキャスター。中でもホワイトカラーのストラトは、ジェフ・ベックのトレードギターと言えるくらい多くのシーンで目にすることができます。
「Wired」製作時にキーボードを担当していた、世界的なピアニストであるヤン・ハマーのプレイに影響を受け、一時期ローランド製のギター・シンセサイザーを使用することもありました。

当時のジェフ・ベックはキーボードに強い関心を示していて、自分はギターではなくキーボードをやるべきだったといった発言がインタビューで見られたほどです。

ジェフ・ベックのプレイスタイル

ジェフ・ベック奏法で注目されるのは、ピッキングスタイルです。ソロに転向してから4枚目のアルバム「There and Back」が発表された1980年くらいまでは通常のセルロイド・ピックを使用していたのですが、それ以降は、スタジオでもライブでもピックを使用せず、指で弦を弾くスタイルを取っています。

9/8拍子という変速リズムに乗った高速フレーズが印象的な「Scatterbrain」でこそピックで弾いている映像がありますが、それ以外はほとんどフィンガーピッキングを用いています。
ロックミュージシャンがフィンガーピッキングを行うこと自体珍しいのですが、あれだけのテクニカルな演奏を指で行えるというのは、まさに天才ジェフ・ベックだからできる芸当と言えるでしょう。

フレーズ自体はよく聞いてみると、ペンタトニック・スケールを中心としたオーソドックスなプレイであることがわかりますが、リズムの取り方、独創的なバッキング、絶妙なビブラードなど随所に素晴らしいテクニックが散りばめられています。

とくに、ボリュームをコントロールするヴァイオリン奏法には定評があり、ギターのコントロールだけでさまざまな表情を持つ音色を奏でています。

ジェフ・ベックのおすすめアルバム

時代時代でおすすめアルバムも変わってきますが、まずはベック・ボガード&アピスから「Beck Bogert & Appice Live」をおすすめします。当初、ジェフ・ベックの意向で廃盤になっていたものですが1989年にCD化されています。

口に加えたチューブでトーンを変化させるトーキングモジュレーターが印象的な「Superstition」で始まるこのアルバムは、超絶テクニックを持つ3人のハイレベルな音のぶつかり合いが堪能できます。
その他にも、コミカルな中にもセンスの良さと卓越したギターテクニックを感じるインストゥルメンタル・ナンバー「Jeff’s Boogie」やジェフ・ベック・グループ時代の名曲「Going Down」など聴き応えのある曲がたくさん詰まっています。

ソロ名義になってからは、やはり1枚目の「Blow by Blow」、2枚目の「Wired」は外せません。
「Blow by Blow」では、泣きのギターが冴え渡る「She’s a Women」今でもライブの定番曲でボリューム奏法が印象的な「Cause We’ve Ended as Lovers」、ファンキーなベースとギターのカッティングが絶妙に絡み合う「Air Brower」などジェフ・ベックの無限の可能性を感じさせる1枚になっています。

また、「Wired」をベックのフェイバリット・アルバムに挙げるファンも多いようです。
こちらも複雑なベースとドラムのコンビネーションの上にベックのギターが被さるように展開される「Led Boots」、ギターとシンセの掛け合いが絶妙な「Blue Wind」、ポップでキャッチーなメロディが不思議とマッチしている「Sophie」など珠玉の名曲が散りばめられています。

第一期ジェフ・ベック・グループのボーカルを務めたロッド・スチュアートが参加して話題になった「People Get Ready」が収録された「Flash」は、それまでのインストゥルメンタル中心ではなく、ボーカルを中心とした楽曲で構成され特徴のある作品となっています。
ヤン・ハマーが作曲した「Escape」ではグラミー賞のベスト・ロック・インストゥルメンタル・パフォーマンス賞を受賞していて一つの転換期を迎えたアルバムと言えます。

現在のジェフ・ベック

ジェフ・ベックが16歳で本格的に音楽活動を始めたのが1960年、2018年現在74歳になったわけですからキャリア的にはすでに58年にも及ぶわけです。

60年近いキャリアの中で、浮き沈みすること無くコンスタントに活動を続けられてきたのは、ジェフ・ベックの持つ類まれな才能もさることながら音楽にかける情熱のなせる業なのかも知れません。
オーストラリア出身の女性ベーシスト、タル・ウィルケンフェルドやロンドン出身の女性ギタリスト、カーメン・ヴァンデンバーグ、同じくロンドン出身の女性ボーカリスト、ロージー・ボーンズを採用するなど若手ミュージシャンの才能を見抜く目は現在でも衰えることはありません。

年齢や性別にとらわれず、常に自分の音楽に新しいものを取り入れようとするスタンスこそ、ジェフ・ベックが時代を越えて評価される一番の要因なのかも知れません。

※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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