ブラッド・ギルス:ナイト・レンジャーを支えたギタリスト

ブラッド・ギルスは独特のギターサウンドとトレモロを手足のように使うテクニックを持つギタリストです。
結成30年を迎えるヘヴィメタルバンド、ナイト・レンジャーの実質的なリーダーを務め、その高い音楽センスとたしかなギターテクニックでバンドをワールドワイドな存在に押し上げてきました。

ナイト・レンジャー

1977年にサンフランシスコで結成されたナイト・レンジャーは、カリフォルニアのカラッとした気候と同じように明るくテンポのいいLAメタルを具現化したようなサウンドが特徴です。

速弾きとタッピングのジェフ・ワトソンとアーミングにすぐれたブラッド・ギルスのツインリードとアップテンポではベースボーカルのジャック・ブレイズが、バラードはドラムスのケリー・ケイギーが担当するといったツインボーカルを採用していて幅の広い音楽性がセールスポイントになっています。

デビューアルバム「Done Patrol」からの「Don’t Tell You Love Me」やセカンド・アルバム「MidNight Madness」からの「You Can Still Rock Your America」などLAメタルを代表するような名曲を発表し、一躍ハードロックバンドの新星として人気を集めます。

しかし、その後ヒットする曲がなぜかバラードばかり。ケリー・ケイギーの歌う「Sister Christian」や「Goodbye」はたしかに素晴らしい曲なのですが、ヒットするたびにハードロックバンド色が薄れてしまい、ナイト・レンジャー=ポップバンドという認識が強くなってしまったのです。

その結果、メンバーのバンドに対する評価に対するジレンマが大きくなり1988年に5枚目のアルバム「Man in Motion」を発表し、一旦解散してしまいます。

唯一無二のギタリスト!ブラッド・ギルス

ブラッド・ギルスのギターの魅力を一言で表すなら、変幻自在に奏でるトレモロ奏法に尽きるでしょう。
全く新しい発想のもと作られたトレモロユニット、フロイドローズのシリアルナンバー3を手にするブラッド・ギルスは、No1を持つエドワード・ヴァン・ヘイレン、No2を持つニール・ショーンと比べても、もっとも効果的にフロイドローズを使いこなしているギタリストと言えます。

フロイドローズのポテンシャルを100%発揮する「ベイビー」

時に激しく、時にせつなく、まるで管楽器のようなロングトーンを響かせるブラッド・ギルスのサウンドのほとんどはベイビーと呼ばれる改造ストラトキャスターから生み出されます。

今ではストラトキャスターの一つの主流になった、1+1+2のピックアップ(フロントとセンターにシングルコイル、リアにハムバッカー)の組み合わせは、ブラッド・ギルスのベイビーが最初だったと言われています。
真っ赤なボディに黒いピックガードといったカラーリングは、ブラッド・ギルスのイメージカラーでほとんどのギターに同じペイントが施されているのです。

ベイビーのトレモロはフローティングと言って、バネの強さを調節しチューニングされた状態でボディから浮いています。そのためアームダウン(音を下げる)アームアップ(音を上げる)の両方が可能になっているのです。
ただし、この調整ですと表情豊かなアーミングが可能になる反面、万が一弦が切れた時、チューニングが狂ってしまうというリスクがあります。

ナイト・レンジャーが常にツインギターというメンバー構成になっているのは、この辺を考慮しているからだと思われます。
その他にもブラッド・ギルスが使用しているギターには、ヘイマー社のScepterがあり、こちらもブラッド・ギルスのカラーである黒と赤が大胆にコントラストされています。

アンプはメサブギー。7弦ギターを駆使するドリームシアターのスーパーギタリスト、ジョン・ペトルーシーやアル・ディ・メオラも使用していてクリーンな音からハードなディストーションまで幅広いジャンルの音楽に対応できるアンプとして人気があります。もちろんブラッド・ギルスのメサブギーは赤と黒に塗られていますが…。

ブラッド・ギルスの特徴

ブラッド・ギルスの特徴を一言で言うなら、他の誰も真似できないパワフルで繊細なアームワークにあります。

0.09という細い弦をアームアップによる切断から守るためにも、弦とベイビーのコンディションは常に最良の状態に保たれていることはもちろんですが、卓越したセンスとバランス感が弦の耐えられるギリギリの負荷を感じ取って演奏に活かしています。

さらに、トロンボーンやシンセサイザーのような音を出すためによく利用しているのが、さまざまなハーモニクス奏法です。
ピックを深く持つことで発するピッキングハーモニクス、7フレットや12フレットで発生させるナチュラルハーモニクスといった定番のものから、フロイドローズによるボディの空洞を活かした独特のハーモニクスまで、曲によっていろいろな表情を見せています。

もちろん、基本的なテクニックも見逃せません。ブラッド・ギルスはナイト・レンジャーが軌道に乗るまで一時的にブリザード・オブ・オズに参加していたことがあります。当時、ブリザード・オブ・オズは不慮の事故で天才ギタリストランディ・ローズを失ったばかりで彼の後任としてギターパートを受け持つことはかなりのプレッシャーがあったはずです。

そんな中でもブラッド・ギルスはランディ・ローズらしさを残しつつも的確なソロを展開し、ロックファンを唸らせました。

ブラッド・ギルスのおすすめアルバム

ブラッド・ギルスのギターを聞くならやはりナイト・レンジャーのアルバムが一番いいでしょう。どの曲のソロも一発でブラッド・ギルスが弾いているとわかるものばかりなのですが、中でも3枚目のアルバム「7 Wishes」に収録されている「Sentimental Street」のソロは秀逸です。ピッキングハーモニクス、チョーキングの代わりの細やかなトレモロ操作、そして最後のハーモニックス+アーミングアップによるロングトーンとブラッド・ギルス節が全開です。

その他には、セカンド・アルバムの「Midnight Madness」もファンの間で人気が高いです。このアルバムに収録されている「You Can Still Rock In America」では、ナイト・レンジャーのもう一人の看板ギタリストであるジェフ・ワトソンの8フィンガー奏法を聞くことができます。

右手をネックの上から出し、4本の指を使ってタッピングすることで複雑な高速アルペジオを展開する独特な奏法は当時のギターキッズの度肝を抜いてくれました。

もっとロック色の強いブラッド・ギルスがお好みなら、ブリザード・オブ・オズ時代のプレイを聞いてみてはいかがでしょうか?
残念ながら、ブラッド・ギルスが参加したスタジオ・アルバムは無いのですが、ライブ盤が残されています。「Speak of the Devil」はブラック・サバス時代の名曲を集めたライブアルバムで、ベースにクワイエット・ライオットのルディ・サーゾ、ドラムスにホワイト・スネイクなどで活躍したトミー・アルドリッジ、そしてギターにブラッド・ギルスといった豪華ラインナップで構成されています。

現在のブラッド・ギルス

メロディック・バンドのイメージから脱却できなかったナイト・レンジャーは1989年解散することになります。
その後、ブラッド・ギルスはさまざまなセッションやスタジオ・ワークをこなしていましたが、1991年に再びナイト・レンジャーを結成しようとします。
この時は、オリジナル・メンバーが集まらずムーン・レンジャーという不完全な形の再結成となってしまいましたが、その後、1996年にオリジナル・メンバーが揃い、ナイト・レンジャーは復活、コンスタントに活動を続けています。

※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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