アルツハイマー病:記憶や思考能力が障害される難病

アルツハイマー病とは?

●アルツハイマー病は認知症の1つ

アルツハイマー病とは、記憶や思考能力が徐々に障害され、症状が進行すると日常生活を行う能力さえも失われてしまう、不可逆的な進行性の病気です。

認知症の原因としては、最も患者数が多い疾患とされています。

60歳以降に初めて症状が現れる人が大半を占める一方で、30歳から60歳の間に発症する若年性アルツハイマー病も、全体の5%未満ではありますが存在します。

アルツハイマー病を発症すると、大脳の側頭葉にある「海馬」が委縮し、記憶障害などの症状が現れます。また、画像診断で「老人斑」と呼ばれる変化が見られるのも特徴の1つです。

国際アルツハイマー病協会の報告によると、2050年にはアルツハイマー病の患者数は全世界で1億3150万人に達すると予測されています。

●アルツハイマー病以外の認知症

認知症というと、真っ先にアルツハイマー病を思い浮かべる人が多いですが、認知症の原因となる疾患には、アルツハイマー病以外のものも多数存在します。

主な原因疾患としては、レビー小体型認知症・前頭側頭型認知症・血管性認知症・甲状腺機能低下症などが挙げられます。

アルツハイマー病とよく似た症状を呈するものも多いため、しかるべき専門機関で、しっかりとした診断を受けることが大切と言えます。

アルツハイマー病の原因

アルツハイマー病の原因は、現代の医学をもってしても、まだ完全には解明されていません。現在考えられている主な原因としては、加齢・遺伝・環境因子や生活習慣因子などが挙げられます。

●加齢

先述の通り、アルツハイマー病の多くは60歳以降に発症します。そのため、加齢による脳の変化が、アルツハイマー病の原因の1つではないかと考えられています。

加齢によって脳が変化すると、神経細胞(ニューロン)に害が及ぼされます。そのことが、アルツハイマー病の発症とどう関係しているのか、世界中で研究が進められています。

●遺伝

遺伝(家族歴)もアルツハイマー病の発症リスクの1つです。特に、30歳から60歳の人に発症する若年性アルツハイマーの場合、多くの症例で家族歴が認められます。

アルツハイマー病の遺伝には複数の遺伝子が関わっていますが、そのなかでも、アポリポ蛋白E遺伝子の1つ「APOE ε4」は、アルツハイマー病の発症リスクを上昇させると考えられています。

ただし、APOE ε4を保有しているからといって、必ずしもアルツハイマー病を発症するわけではなく、その逆に、APOE ε4を保有していない人でもアルツハイマー病を発症するリスクはあります。

アルツハイマー病の原因となる遺伝子の研究は、全世界の研究者たちによって日進月歩の勢いで進められており、近年ではAPOE ε4以外にもアルツハイマー病の発症リスクを上昇させる可能性のある遺伝子が、複数特定されつつあります。

●環境因子や生活因子

アルツハイマー病の発症は、加齢や遺伝だけが原因ではなく、複数の因子が複雑に絡み合って起きると考えられています。

なかでも、心疾患・脳卒中・高血圧などの血管障害、糖尿病・肥満などの代謝障害と、認知機能の低下との関連性は注目を集めています。

環境因子や生活因子を改善することで、アルツハイマー病のリスクを低減させられる可能性もあるのです。

アルツハイマー病の症状

アルツハイマー病の症状は、大きくは「認知障害」と「非認知障害」の2つに分けられます。それぞれの症状について、詳しく見ていきましょう。

●認知障害

認知障害とは、記憶・学習・理解・問題の解決などに障害をきたした状態を言います。
アルツハイマー病で現れる主な認知障害は以下の通りです。

  • 古いことはよく覚えているのに、新しいことを覚えるのが苦手になる
  • 同じことを何度も言ったり、尋ねたりする
  • 約束を忘れたり、大切なものの置き場を忘れたりする
  • 時間感覚があいまいになり正確な日付が言えなくなる
  • 約束に間に合わないことが多くなる
  • 漢字が書けなくなる
  • 方向が分からなくなり道に迷う
  • 服が上手く着られなくなる

●非認知障害

非認知障害とは、周囲の人とのコミュニケーション能力や、感情をコントロールする能力、物事に対する意欲などに障害をきたした状態を言います。
アルツハイマー病で現れる主な非認知障害は以下の通りです。

  • 気分がふさぎこむ、イライラして怒りっぽくなるなどの気分や情動の障害
  • お金を盗られたなどの幻覚や妄想
  • 夜中に起きて騒ぐなどの夜間不眠
  • 徘徊などの行動障害
  • 認知障害はアルツハイマー病の患者に必ず見られるのに対して、非認知障害は人によっては見られなかったり、見られても一時的なものだったりすることも多い

認知障害がアルツハイマー病の患者に必ず現れるのに対して、非認知障害は人によっては現れなかったり、現れても一時的なものだったりすることが多いとされています。

アルツハイマー病の診断

アルツハイマー病の診断には、さまざまな検査が必要となります。アルツハイマー病が疑われる場合に行われる主な検査は以下の通りです。

  • 現在の健康状態や、過去の健康問題の確認
  • 日常生活を行う能力や、行動・人格の変化についての質問
  • 記憶能力・注意力・計算力・言語能力・問題解決能力の検査
  • 血液検査や尿検査など標準的な医学的検査
  • CTやMRIを用いた画像診断

アルツハイマー病では、症状の進行と共に健康状態や記憶能力などが変化していくため、上記の検査を繰り返し行うケースも少なくありません。

また、こうした検査によって、アルツハイマー病の前段階である軽度認知障害(MCI)や血管性認知障害などの疾患が早期に発見される場合もあります。

アルツハイマー病の治療

残念ながら、現代の医学では、アルツハイマー病を完治させることは難しいとされています。しかし、適切な治療を受けることで、病気の進行を遅らせたり、精神機能の維持を助けたりすることは可能です。

アルツハイマー病の治療は「薬物療法」と「非薬物療法」の2つに分けられます。それぞれの治療方法について、詳しく見ていきましょう。

●薬物治療

1.コリンエステラーゼ阻害薬
「コリンエステラーゼ阻害薬」は、認神経伝達物質が減少するのを抑えて、情報の伝達をスムーズにする薬です。

アルツハイマー病を発症すると、アセチルコリンという脳の神経伝達物質が少なくなります。

アセチルコリンは、アセチルコリンエステラーゼという分解酵素によって分解されてしまうのですが、コリンエステラーゼ阻害薬にはその働きを阻害してアセチルコリンが分解されるのを抑え、情報の伝達をスムーズにする作用があります。

2.NMDA受容体拮抗薬
NMDA受容体とは、神経伝達物質の1つ・グルタミン酸の受け手になる物質です。

アルツハイマー病の患者の場合、NMDA受容体が過度に活性化することで、カルシウムイオンが過剰に神経細胞に流入してしまいます。

その結果、記憶伝達が混乱したり、神経細胞が障害を受けたりといったトラブルが発生します。

「NMDA受容体拮抗薬」は、NMDA受容体に結合してカルシウムイオンの過剰な流入を妨げ、記憶伝達の混乱や神経細胞のダメージを防ぐ薬です。

上記の2つの薬以外にも、アルツハイマー病の治療薬の研究は全世界で進められており、さまざまな臨床試験が行われています。

●非薬物治療

1.回想法

先述の通り、アルツハイマー病は新しいことを覚えるのは苦手になる一方で、古いことは良く覚えているという特徴があります。この特徴を上手く活かした治療法が回想法です。

回想法は、1960年代にアメリカの精神科医ロバート・バトラー氏によって提唱された心理療法です。

昔の思い出話を語り合ったり、誰かに聞いてもらったりすることで脳が刺激され、精神状態が安定する効果が期待できます。

長く続けることによって認知機能の改善にも効果が認められ、アルツハイマー病のリハビリテーションにも広く利用されています。

2.運動療法

ウォーキングや体操、ストレッチなどの適度な運動は、アルツハイマー病の予防や改善に効果があります。

関節の動きの改善や拘縮の予防を図る「関節可動域訓練」、筋力が低下している部分の筋肉を動かして筋力増強を図る「筋力増強訓練」、短縮や委縮を起こしている筋肉を伸ばし柔軟性を促す「ストレッチ」など、目的に応じた運動を無理なく取り入れることが大切です。

アルツハイマー病が進行すると、徐々に身の回りの動作が出来なくなってきます。そのまま放置をしていると、筋力や心肺機能、関節可動域の低下などが起こり、さらに病状が進行する恐れがあります。

そうした事態を未然に防ぐためにも、運動療法はアルツハイマー病の重要な治療の1つと言えます。

3.リアリティオリエンテーション

リアリティオリエンテーション(現実見当識訓練)は、「自分は誰?」「ここはどこ?」など、自分と自分の周囲の環境を正しく理解する訓練を行い、見当識などの認知能力を高める治療方法です。

アルツハイマー病では、自分が今置かれている日時や場所が分からなくなる「見当識障害」が現れやすくなります。

リアリティオリエンテーションによって、そうした障害の予防・改善効果が期待できます。

上記の他にも、音楽療法・アニマルセラピー・作業療法など、アルツハイマー病に対してさまざまな非薬物療法が行われています。

まとめ

世界的に高齢化が進む現代において、アルツハイマー病は誰もが無関係ではない病気です。

だからこそ、正しい知識を身に付け、万が一自分自身や身の回りの人がアルツハイマー病にかかった時には、適切な対処が出来るよう備えておくことが大切です。

上記にご紹介したアルツハイマー病の症状や診断方法、治療法などを、ぜひ参考にしてみていただければと思います。

※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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