カンボジアの水祭り:白熱のボートレースに注目

カンボジアの水祭りは、11月の満月の頃に行われる年中行事で、雨季の終わりと乾季の訪れを祝い、豊かな収穫をもたらす水の恵みに感謝する祭典である。水祭りの一番の見どころは、最大70名程の選手が木製の手漕ぎボートに乗り込み、チーム一丸となって戦うボートレース。首都プノンペンとシェムリアップでは、地方予選を勝ち抜いてきたチームによる決戦が行われ、カンボジア中が熱気に包まれる。

元来明るくお祭り好きなカンボジアの人々が、1年のうちで1番盛り上がる時と言っても過言ではないのが、年中行事の水祭り。

「遺跡巡りや観光ツアーへの参加もよいけれど、せっかくカンボジアに行くのなら現地の人達が大事にしている風習に触れてみたい!」と思う方には、水祭りへの参加をおすすめします。

水にまつわる伝統行事としては、タイの水かけ祭り(ソンクラーン)が有名ですが、カンボジアの水祭りは、街中で水をかけ合うものとはまた一味違います。

水祭りとは一体どのような行事なのでしょうか?
楽しみ方と併せて、祭典の魅力をたっぷりご紹介します。


水の恵みと収穫に感謝するカンボジア最大のお祭り

写真:筆者提供

水祭りは、陰暦12月の満月の日に合わせ、3日間かけて行われるカンボジアの伝統行事です。

陰暦12月は、現代の陽暦では11月。
カンボジアでは、雨季から乾季への変わり目に当たるこの時期に、トンレサップ川の向きが逆転するという特異な現象が起こります。

トンレサップ川は、東南アジア最大の湖であるトンレサップ湖の水をプノンペン付近からメコン川へと流し込む川ですが、雨季にメコン川が増水すると逆流し、メコン川の水をトンレサップ湖に流し込むようになります。
一方、雨季から乾季への転換期には、メコン川の水が引いてくるので、再びトンレサップ湖の水をメコン川に送り込むようになるのです。

川の逆流に伴ってトンレサップ湖で育った魚が豊富に獲れるこの時期は、ちょうど米の収穫時期でもあるため、肥沃な大地と収穫をもたらしてくれる水に感謝するのが水祭りというわけです。

水祭り期間中に行われる伝統的な儀式には、豊穣のシンボルとされる満月を拝む「サンパス プレケア(Sampeas Preah Khe)」や、深夜に寺院に集まり、新米とバナナやココナツを混ぜて作ったアンボック(Ambok)という料理を食べる「オク アンボック(Auk Ambok)」などがありますが、祭典のハイライトは、何と言ってもボートレース。

首都プノンペンのトンレサップ川、シェムリアップのシェムリアップ川にカンボジア各地から選抜チームが集まり、木製の細長いボートの上で白熱のレースを繰り広げるのです。

ボートレースの起源は、12世紀のクメール王朝時代にまでさかのぼります。
一説によると、当時王であったジャヤバルマン7世が諸外国との水上戦に備えて軍に命じていた水上訓練が式典に発展したものであるとのこと。
また、その頃、クメール(カンボジア)軍がチャンパ軍との水上戦に勝利したことを称え、恒例行事になったとも伝えられています。

漕ぎ手の数が桁違い!ボートレースはダイナミックな団体競技

写真:筆者提供

辺り一帯を熱狂の渦に巻き込む迫力満点のボートレース。
ボートと一口に言っても、大きさや構造は様々ですが、カンボジアの水祭りで用いられるものは、数十名以上が乗り込める木製の手漕ぎボートです。

小さいものだと定員は20名程ですが、プノンペンで行われる決戦では、定員70名程の大型ボートが続々と登場します。

細長いボートに70名近くもの選手が2列にぎっしりと並び、掛け声とともに一糸乱れずオールを動かす様子は、まさに圧巻。
息をのむほどのパワフルな戦いが次々と繰り広げられます。

レースはトーナメント方式で行われるため、2艇ずつ並んで走っている様子が川のあちらこちらで見られます。

プノンペンに集まるのは、各地方での予選を勝ち抜いてきたチーム。
故郷の誇りと名誉をかけて戦いに挑む人々と、地元の仲間の勇姿を一目見ようと集まってきた人々が生み出す熱気からは、闘志だけでなく、地元への愛や団結心がひしひしと感じられます。

レースの出場者は、普段は地元の工場で働いていたり、農業に従事していたりと、仕事を持っている人々がほとんどですが、毎年水祭りの時期になると、仕事の合間を縫って練習を重ね、戦いに臨みます。

皆、出場するからには「勝利」の2文字を目指して全力を尽くしますが、勝敗以上に大事なのが、伝統行事である水祭りを盛大に祝うこと。
彼らにとっては、地元の人々や家族とともに、この場に参加すること自体がとても重要なことなのです。

ボートレースの前後にも見どころがたくさん

写真:筆者提供

国を挙げての一大行事である水祭りでは、初日に開会式、最終日に閉会式が盛大に行われます。
プノンペンでは、王宮前に特設式場が設けられ、荘厳な雰囲気の中、伝統衣装や楽器を身につけた人々による行進で幕が開けます。
そのほか、水上では、黄金のオールを動かす豪華絢爛なボートの一軍がお祭りを盛り上げる様子も見られます。
水祭りは、カンボジアの伝統的な式典の雰囲気を感じる絶好のチャンスとも言えるでしょう。

国王・首相が観戦席につくと、正式にボートレースが始まります。

次々と展開されるエネルギッシュなレースの様子は、チームの出自や詳細が分からなくても見応え十分。
また、色とりどりのユニフォームを着た選手達の様子は眺めているだけでも楽しく、写真に収めれば、旅の思い出にたくさんの彩りを添えてくれることでしょう。

戦いを終えたボートが、川岸に戻ってくる時がシャッターチャンス。
勝っても負けても、戦い抜いた後の選手達の顔は爽やかで、心温まるものがあります。

さらに、水祭りのお楽しみは、ボートレースが終わった後にも用意されています。
夜になると、きらびやかなイルミネーションが施された船が川に浮かび、目を楽しませてくれます。
また、華やかな花火が打ち上げられ、お祭りムードを一層盛り上げます。

トンレサップ川沿いには、ホテルやレストランもたくさん立ち並んでいるので、これらの場所を観光の拠点にすれば、朝から晩まで水祭りを満喫することができるでしょう。

なお、プノンペンのほかに、シェムリアップのシェムリアップ川でも同時開催される水祭り。
ボートレースは、プノンペンに比べるとややスケールが小さいものの、アンコールワットなどの遺跡観光のついでに立ち寄りたい方は、そちらでも十分楽しめます。

参加者数は首都人口の倍以上。熱視線を浴びた2018年の水祭り

写真:筆者提供

国の祭典運営委員会(National Committee for Organising National and International Festivals)によると、2018年11月21日〜23日に開催された首都プノンペンでの水祭りには、約450万人の人々が参加したとのこと。

プノンペンの人口が190万人程と言われていますので、3日間でその倍以上の人々が集まったことになります。

プノンペンの街中では、お祭りのために地方から出て来た人々の姿もたくさん見られ、ものすごい熱気を感じることができました。
普段は車やバイクでの移動が中心であり、歩行者の姿を見かけることがあまりないカンボジアですが、水祭り中は各所が歩行者天国になるため、大勢の人々が歩く姿を目にすることができる貴重な機会でもあるのです。

ボートレースに参加したのは、約300艇のボートと、約19,000人の選手達。

閉会式では、全出場チームの中で勝ち残った上位10チーム程に、賞状、賞金、トロフィーが国王から直接授与されました。

地方選を勝ち抜き、輝かしいカンボジア首位の座を獲得したチームは、地元の人々に大声援で迎えられたことでしょう。

事前準備と注意は抜かりなく、水祭りを最大限楽しもう

写真:筆者提供

陰暦12月の満月に合わせて決められる水祭りの日程。
現代の暦では、例年11月に行われていますが、具体的な日程は毎年異なります。

カンボジアでは、水祭り期間中は国民の祝日になるので、事前に祝日カレンダー等でチェックしておくとよいでしょう。

また、ボートレースについては水位不足や突発的な事情で開催されない年もあるため、直前まで情報収集はしっかりしておきましょう。

詳細な情報はインターネット上にあまり掲載されていないので、現地の知人や旅行会社に問い合わせることをおすすめします。

また、水祭りに参加する際には、以下の点に十分注意して楽しみましょう。

1. ホテルやバスの予約はお早めに

年に一度の大イベントであり、カンボジア中の人々がプノンペンやシェムリアップなどの都市部に集まります。
ホテルや国内の移動バスは予約が取りづらいことがあるので、なるべく早めに取るようにしましょう。

2. 人混みでの事故に巻き込まれないように

数百万人もの人々が集まるイベントでは、普段では起こりえないような事故が起こる可能性があります。2010年には、水祭りに合わせて行われたコンサート帰りの観客350名以上が橋の上で将棋倒しになって亡くなるという、痛ましい事故がありました。
以後、警備が強化されていますが、レース観戦を楽しみながらも、身の回りの状況には十分に注意を払って行動しましょう。

3. 人混みでのひったくりに気をつけて

事故にまで発展しなくとも、人混みの中では、財布やスマートフォンなどの貴重品のひったくりが絶えません。
ボートレース観戦中はもちろん、移動のために歩いている時にも要注意です。
肩掛け鞄は持たない、不用意にスマートフォンで写真を撮ったりしない、鞄やリュックサックは体の前で持つようにするなど、細心の注意を払いましょう。

水祭りは、カンボジアの伝統と活力を感じる絶好の機会

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何世紀にも渡って脈々と受け継がれ、カンボジアの人たちが皆楽しみにしている水祭り。

国民の中央年齢が25.7歳(CIA 「The World Factbook」 2018年より)と若く、経済も上向きのカンボジアでは、平常時でも活気がみなぎっていますが、街中がお祭りモードに変わるこの期間中に訪れれば、より一層熱いものを肌で感じることができるでしょう。

ぜひ、地元の人々と一体となってボートレースを観戦し、年に一度のお祭りを盛大に祝ってみてください。

遺跡巡りで感じられる荘厳なカンボジアとは対照的な、エネルギーに満ち溢れたカンボジアを体験できるはずです。

※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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