ウィリアム・ケリン:がんや貧血など病気に対して新たな治療法を確立させた医学者

ウィリアム・ケリンはアメリカの医学者です。『細胞による酸素量の感知とその適応機序の解明』で2019年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。彼の研究によってがんや貧血、その他の多くの病気と戦うための治療が確立されました。そんなウィリアム・ケリンの受賞までの道のりについて詳しく解説していきます。

◆幼少期、学生時代

ウィリアム・ケリンは、1957年11月23日にアメリカのニューヨークで生まれました。ケリンはデューク大学で数学と化学の学士号を取得後、同大学の医学博士号を得て1982年に卒業。その後ボルチモアのジョンズ・ホプキンズ大学で専門医学実習期間を過ごし、ボストンのダナ・ファーバー癌研究所(Dana-Farber Cancer Institute、略称:DFCI) で内科と腫瘍学の専門トレーニングを受けました。学生時代の彼は「自分は研究に向いていない」と思っていましたが、そんな思考とは裏腹にDFCIで行った網膜芽細胞腫の研究で見事成功を収めています。

◆受賞に至るまでの逸話など

1992年、ケリンはダナ・ファーバー癌研究所に自分の研究室を構えました。そこでフォンヒッペル・リンドウ病(von Hippel-Lindau)と呼ばれる遺伝性症候群に焦点を当て、がん抑制遺伝子の変異がどのようにがんにつながるかを探求しました。このフォンヒッペル・リンドウ病は腫瘍抑制遺伝子VHLの欠損によって引き起こされる疾患で、成人期初期に良性と悪性両方の腫瘍が複数の臓器で発生します。これらの腫瘍は、「酸素不足時に細胞から送られる化学的な信号(赤血球の産生、新たな血管の形成、細胞代謝の変化などを刺激する信号) 」を過剰に生成するのが原因だと彼は主張し、VHL遺伝子とその関連タンパク質を欠く細胞は酸素を感知できないことを示しました。その後ケリンは他の研究者と共にVHLの機能について調べ、VHLタンパク質を欠く細胞がHIF-1-αと呼ばれる細胞応答の調節因子タンパク質を分解できないということを発見したのです。
2001年になるとオックスフォード大学の教授ピーター・ラトクリフと一緒に、このメカニズムの詳細を調べました。その結果通常の酸素条件下で細胞が特定の化学タグをHIF-1-αに配置し、そこにVHLタンパク質が結合することで破壊が可能であると結論づけ、ケリンらは様々なレベルの酸素に応答して遺伝子の活動を調節する分子機構の特定に成功しました。これらの功績が認められ2019年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。ノーベル賞以外にもガードナー国際賞、ワイリー賞、アルバート・ラスカー基礎医学研究賞、マスリー賞なども受賞しました。
ケリンの研究により酸素レベルが細胞の代謝と生理機能にどのように影響するか解き明かす基礎が出来上がり、がんや貧血、その他の多くの病気と戦うための治療法が確立されました。また彼は『がんに立ち上がれ(Stand Up to Cancer)キャンペーン』の科学諮問委員会のメンバーとしても精力的に活動しています。

◆おわりに

細胞の酸素感知について探求し、医療の進化に大きく貢献したウィリアム・ケリン。彼の研究のおかげでC型肝炎ウイルスの原因が明らかになり、血液検査の精度が上がったことで安全な輸血が可能になっています。この成果がなければいま日常的に受けられている医療はまだ確立されていなかったかもしれませんね。

※本記事はコロナウイルス感染拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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