タイガー・ウッズ:引退を口にしたスーパースターの復活

世界中のゴルフを愛する人間で、知らない人はいないといっても過言ではないスーパースターだったタイガー・ウッズ。
先日行われた米国ツアー2017-2018シーズン最終戦「ツアー選手権」で5年ぶりの復活優勝をあげ、優勝回数を通算80勝にした。
一時は、引退を口にしたスーパースターの復活優勝は、「本物」なのだろうか?

復活優勝を果たしたタイガー・ウッズ

タイガー・ウッズにとって今回の優勝は5年ぶり、1876日ぶりの優勝となった。18番ホールでカップインを果たしたタイガー・ウッズの目には光るものがあり、世界中のゴルフファンが胸に熱いものを感じたのではないだろうか。
最終18番ホールは、タイガー・ウッズの復活の瞬間を自らの目に刻み込みたいというギャラリーがコースに乱入したが運営側もそれを制止することもなく、この歴史的な復活を見守った。テレビの資料率に関しては、前年の3倍の視聴率を叩き出した。
タイガー・ウッズが起こす奇跡的なプレーに心を奪われ続けたファンですら、1876日という時間はタイガー・ウッズの復活を信じきれないようになっていた、そういう中での劇的なカムバックに世界が酔いしれたのだった。

タイガー・ウッズとは何者か

世界中のゴルファーは1997年4月10日「タイガー・ウッズ」という夢を見始めた。プロとしての初出場となったマスターズ、出だしの9ホールを「40」でスタートした21歳のルーキーは、残りの63ホールを「230」でまわり、2位に12打差の圧勝。マスターズにおける、最小スコア、最年少優勝、2位との最大差など、記録的であったが、記録以上に記憶に残る勝ち方は、世界中の「ゴルフファン」を一気に世界中の「タイガー・ウッズファン」に変えた瞬間だった。

それは言い過ぎではなく、数字にも表れてくる。
タイガー・ウッズの出現前、日本のツアーとアメリカのツアーに賞金額の大きな差はなかった。1994年、日本ツアーではジャンボ尾崎が初めて2億円を突破したが、ニック・プライスの獲得賞金は約1億5000万円(1ドル100円)で、日本ツアーの方が盛り上がっていたと見ることができる。しかし、タイガー・ウッズの出現を機に、米ツアーは放映権の高騰を背景に急速に賞金額が上がり、2000年に賞金王としてタイガー・ウッズは約10億円の賞金を得るまでになり、プレーオフ制度が始まった2007年には、タイガー・ウッズは、一年間で20億円の賞金を手にするまでに規模が拡大した。そこには、ツアー運営の手腕もあるが、きっかけを作ったタイガー・ウッズが米ツアーに革命を起こし、経済として成長させたと言っても過言ではないのである。

タイガー・ウッズ激動の10年

そんな時代を築き上げてきたタイガー・ウッズだったが、この10年間は本当に激動の道のりだった。2006年に、タイガー・ウッズを精神的に支えてきた最愛の父アール・ウッズが亡くなったところから歯車が狂いだした。
現状タイガーのキャリアで、最後のメジャー優勝となっている2008年の全米オープンはタイガー・ウッズが天に両こぶしを突き上げ咆哮する映像とともにゴルフファンの記憶に焼き付いている。
この優勝は、72ホールを終え並んだロッコ・ミーディエートと18ホールのプレーオフでも決着がつかず、サドンデス方式の19ホール目に突入した末に下した劇的な勝利であった。それが、ベンホーガンを抜き歴代3位となるPGA65勝目であり、「トリプル・グランドスラム」を達成する記録的に大きな勝利であったが、しかし、試合前の以前から痛めいていた左ひざの復帰戦であり、この試合の影響で試合後膝を再手術するという大きな代償を払う勝利でもあった。
2009年には、PGA70勝を達成し、長男も誕生する一方で、交通事故と共に世界を驚かせた不倫の発覚とそれに伴う無期限の出場辞退。SEX依存症の治療。

2014年から腰痛に悩まされてきたが、ついに手術を受ける決断をした。この年の出場は7試合にとどまり、最高位25位タイ、2度の予選落ちと2度の途中棄権という結果に終わった。翌年ツアー復帰した2月の「ウェイストマネジメント フェニックスオープン」大会2日目は、タイガー・ウッズのゴルフ人生の中でも極めて低い、スコア「82」を出し、5月の「ザ・メモリアルトーナメント」大会3日目では、さらにスコア「85」まで成績を落とした。アプローチショットのミスが顕著になり、イップスと表現された。8月の全米プロゴルフ選手権のあと、腰痛が深刻化し、2015年―2016年シーズンにタイガー・ウッズの姿を見ることはなかった。
そして2017年に、自身4度目の腰の手術に踏み切った。手術後世界に届いたニュースは復帰へのポジティブな内容ではなく、フロリダ州の路上にて「飲酒運転と薬物使用の疑いで逮捕」という衝撃的な内容であった。警察の処分は1年間の保護観察となったものの、タイガー・ウッズの復活を信じる声は小さくなっていた。

「Tiger is back」

しかし、2018年に復活したタイガー・ウッズは、我々に元気な姿を見せてくれた。復帰初戦である1月の「ファーマーズインシュランスオープン」では23位と予想通り「まずまず」のスタート、しかし、試合を重ねるごとに調子を取り戻し、「ザ・ホンダクラシック」では12位まで成績を上げた。さらに復活を確信させたのは、3月の「バルスパー選手権」で首位と1打差につけ、2位の成績を収めたことである。

2018年はメジャー戦の復帰も果たし、4月の「マスターズ」では32位、6月の「全米オープン」では予選落ちの成績だったが、夏場のメジャー2試合では優勝争いに食い込んだ。
「全英オープン」では最終日を4打差の6位で迎え、前半を終えた時点で単独首位に立った。最終的な成績は6位に留まったが、メジャーで5年間遠ざかっていたトップ10に返り咲いた。3週後の「全米プロ」では最終ラウンドのベストスコア「64」をマークして単独2位に食い込んだ。
そして、シーズン初めには出場すること自体だれも予想しなかった「ツアー選手権」での優勝につながっていった。この試合で、タイガー・ウッズは年間王者に手が届くところまできていた。ジャスティン・ローズがあと「一打」スコアを落としていれば、タイガー・ウッズが大逆転での年間王者に輝くところだった。年間王者には手が届かなかったが、タイガー・ウッズの復活を世界に見せつけた試合であった。

復活したタイガー・ウッズと「記録」

今回の優勝は、過去の強かった時期のタイガー・ウッズが戻ってきたと考えて間違いがないのだろうか。
今シーズンのスタッツは、平均ストローク7位、平均飛距離は、303yardで全体の34位、一時イップスと言われたアプローチはリカバリー率64.6%で全体の4位という数字を残し、10か月前我々が抱いていた想像を我々の期待をいい意味で裏切った。
しかし、優勝した最終戦のタイガー・ウッズは少しイメージと違うゴルフをしていた。フェアーウェイキープ率が64.29%と全体の3位という数字を出した。最終日のプレーを観たい者は、こぞって違和感を覚えている。それは、ローリー・マキロイとの飛距離の差だ。4日間の平均飛距離は304.2ヤードで全体の13位だったが、最終日のタイガーは明らかに振っていなかった。振れていないのではなく“振っていなかった”のだ。ボール初速にして、平均的に4.4m/秒、9m/秒近い差が出たホールもあった。
タイガー・ウッズはもともと最終日には手堅いゴルフで確実に優勝を収める。しかし、それはロングアイアンでのスティンガーを多用するイメージが強かった。しかし、今回最終日に見せたドライバーでコントロールしフェアーウェイを捉えていったショットはタイガー・ウッズの新たな引き出しである。この新たな引き出しは、今後のタイガー・ウッズの大きな武器となる可能性を感じる。もともと、アイアンショットのキレは抜群であり、今回のようにドライバーでコントロールできる新たなタイガー・ウッズは強い時のタイガー・ウッズが戻ってきたのではなく、円熟味を増した大人のタイガー・ウッズへのシフトチェンジの姿なのではないだろうか。

そして、タイガー・ウッズの今回の復活優勝で再燃してきたのが、タイガー・ウッズが過去の偉大な記録に到達するか否かの議論である。
まず、話題となってくるのは、PGA歴代最多勝利数だろう。タイガー・ウッズは、今回の優勝で優勝回数を「80」とし、サム・スニードの持つ歴代優勝回数「82」にあと2勝と迫った。この記録は、今年のタイガーの勇志を目の当たりにしたファンの中では、すでに到達を確信した人の方が多いのではないだろうか。
もう一つタイガー・ウッズに期待される偉大な記録は、メジャー最多優勝記録である。これは現在帝王ジャック・ニクラウスが「18」という記録を保持している。タイガー・ウッズは現在「14」勝、あと4勝しなければジャック・ニクラウスの記録には手が届かない。
しかし、世界のゴルフファンは今までタイガー・ウッズに何度浅はかな想像力を打ち破られてきたかを考えれば、タイガー・ウッズという「夢」の続きはまだ見てもいいのかもしれない。ドライバーショットの正確性を取り戻しつつある姿を見れば、円熟味を増したタイガーに2019は目が離せない。
ただ、タイガーを心の底から愛する一個人の意見でいえば、過去の記録を追い求めるよりも、元気に育った子供たちに見守られ、肌寒く張り詰めたオナラリースタートで元気なショットを打ち笑顔で周囲とハグをするタイガー・ウッズ爺を観たいと願う。

※本記事はコロナウイルス感染拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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