トム・ウェイツ:独特な世界観で魅了した音楽の詩人

(Public Domain/‘Publicity photo of American musician Tom Waits in early 1973, around the time of his debut album Closing Time on Asylum Records.’ by Published by Asylum Records. Photographer uncredited and unknown.. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

“酔いどれ詩人”の愛称で知られるトム・ウェイツは、人情味溢れる歌詞と独特のハスキーな歌声で聴衆を魅了してきました。1993年のグラミー賞Best Alternative Music Album部門を受賞した名盤『Bone Machine』では、ローリング・ストーンズのギタリスト、キース・リチャーズとの共演も話題に挙がっています。幼少からブルースやジャズに親しんで育ってきたトム・ウェイツの世界観は、まさに唯一無二でしょう。トム・ウェイツの経歴や代表作品を紹介します。

◾︎トム・ウェイツとは

(Public Domain/‘Senior portrait of American musician Tom Waits as a student at Hilltop High School in Chula Vista, California. Though he reached his senior year, he ultimately dropped out without receiving a diploma in 1968 at the age of 18. (Source: page 34 of Hoskyns, Barney (2009). Lowside of the Road: A Life of Tom Waits. London: Faber and Faber. ISBN 978-0571235537.)’ by Published by the Associated Student Body of Hilltop High School. The photograph itself is an anonymous work-for-hire on behalf of the school.. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

トム・ウェイツは1949年生まれ。アメリカ合衆国カリフォルニア州ポモナ出身です。幼少期から父親の愛するアイルランド民謡やジャズに親しんで成長を遂げてきました。10代にはフォークやブルース、ジャズに特に親しみ、ジェームス・ブラウンやボブ・ディラン、ジャズ・ピアニストとして名声を獲得したセロニアス・モンクの音楽に、大きな感銘を受けたといいます。

1970年代初頭には、トム・ウェイツはすでに音楽活動を始めていました。拠点としていたのは故郷ロサンゼルスで、クラブで歌を披露していたといいます。当時からすでにソング・ライティングを手がけていたトム・ウェルツは、1971年に自身初のデモ・テープを制作しています。翌1972年に当時の新興レーベル、アサイラム・レコードとの契約を獲得。作品を発表します。

1973年に発表されたデビューアルバム『Closing Time』には、トム・ウェイツ独特の低音を聴かせるハスキーな歌声やジャズを連想させるピアノ、人間に対する深く温かい、豊かな感情が表現されていました。商業的なヒットには繋がらないものの、アーティストの持つ確固たる個性や人情深い人柄は大きく反映されていました。デビュー当時からすでに“酔いどれ詩人”と呼ばれるだけの人間性は垣間見えていたのでしょう。その人気は徐々に確立されていきました。

(Public Domain/‘Publicity photo of American musician Tom Waits seated at a messy kitchen table, newspaper and cigarette in hand. Taken for Asylum Records, circa 1979–80, most likely promoting The Heart of Saturday Night, his final album on that label.’ by Photograph by Greg Gorman, according to the Tom Waits Library. Published by Asylum/Herb Cohen Management.. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

1976年には自身初となるヨーロッパ・ツアーを実施しています。1978年以降は俳優としての活動もおこない、マルチな才能を発揮していきました。1982年には古巣アサイラム・レコードを離れ、新境地での挑戦を開始。さらなる楽曲制作を継続していきました。1986年になると主演映画が公開され、制作作品は頻繁に映画やミュージカルに使用されるようになっていきます。1992年には初となるグラミー受賞の栄光を獲得。農具や調理器具など生活に身近な器具を用いた音作りが注目を浴びました。この斬新な感性もトム・ウェイツの傑出性を表現しています。

また、トム・ウェイツといえば歌の中にポエトリー・リーディング、すなわち朗読を取り入れていたことでも知られています。ほかのアーティストにはない試験的な音作りは、トム・ウェイツの人気を支え、また熱狂的なファン層を生み出しました。その音楽活動は2000年以降も続き、チャート上位を獲得するなど変わらない支持を獲得しています。2011年にはロックの殿堂入り。歴史上最も偉大なシンガーにも選出されている、稀代のミュージシャンでしょう。音楽家として俳優として、多彩な才能を発揮するトム・ウェイツの代表作品を次章で紹介します。

◾︎トム・ウェイツの代表作品

さまざまな分野で溢れんばかりの才能を発揮してきたトム・ウェイツは、代表とされる作品もとても多いです。ここではその中から3つの作品を紹介します。ピアノの旋律、弾き語りがとても魅力的な『Tom Traubert’s Blues』、全収録曲を制作した初期の傑作『Closing Time』、ローリング・ストーンズのキース・リチャーズとの共演が楽しめる名盤『Bone Machine』。共通していえるのは、すべての作品が個性的ということです。それぞれの魅力を詳しく紹介します。

・Tom Traubert’s Blues(トム・トラバーツ・ブルース)

※画像はイメージです

『Tom Traubert’s Blues』はシングル・カットこそされていないものの、トム・ウェイツの曲の中で最も多くの支持を集める作品です。1976年のロンドン公演をおこなっている時期に制作されました。映画やドラマのテーマ曲にもたびたび採用され、不動の人気を獲得しています。ピアノを駆使したメロディーとハスキーな歌声は、聴衆を魅了してやみません。イギリス出身のミュージシャン、ロッド・スチュワートや、ハードロック・グループのボン・ジョヴィによるカバーも有名でしょう。アルバム『Small Change』冒頭に収録され、全体を統一しています。

・Closing Time(クロージング・タイム)

(Public Domain/‘Publicity photo of American musician Tom Waits in 1973, around the time of his debut album Closing Time on Asylum Records. It appears to be the earliest publicity photo of Waits.’ by Published by Asylum Records. Photographer uncredited and unknown.. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

『Closing Time』は1973年に発表された、トム・ウェイツのデビュー・アルバムです。収録曲の大半はデモ・テープの収録曲を再録したもの。抜群の歌唱力はもちろん、バックを飾るジャズの特色豊かなミュージシャンにも注目です。商業的なヒットには繋がらなかったものの音楽誌のローリング・ストーンでは高評価を獲得。アルバムはA面B面合わせて12曲を収録しています。収録曲のすべてをトム・ウェイツが制作したことも有名でしょう。後進のアーティストによってカバーされた名曲も多数収録しています。約45分の音の旅を楽しんでみてください。

・Bone Machine(ボーン・マシーン)

※画像はイメージです

音楽の歴史を語るなら、イギリスのロック・バンド、ローリング・ストーンズの存在は無視できません。トム・ウェイツが1992年にリリースしたアルバム作品『Bone Machine』は、アーティストにとって初のグラミー受賞の栄光をもたらしました。そして本作品の収録曲の最後を彩るのは、ローリング・ストーンズの誇る世界的なギタリスト、キース・リチャーズとの共演が楽しめる名曲『That Feel』です。時代を牽引してきたカリスマ的アーティストとの共演は、トム・ウェイツの音楽活動を語る上で重要なポイントでしょう。必ず聴き惚れるはずです。

アルバムの収録曲は全部で16曲。再生時間は約53分です。収録曲のほとんどはトム・ウェイツの妻、キャスリーン・ブレナンとの共作。ブレナンの名前はアルバムの共同プロデューサーとしてもクレジットされています。心に響くような音の広がりにぜひ魅了されてみてください。

◾︎おわりに

独特な世界観で聴衆を魅了してきたアーティスト、“酔いどれ詩人”と呼ばれ親しまれるトム・ウェイツの経歴や代表作品を紹介してきました。人情味溢れる歌詞内容やハスキーなボーカル、繊細なピアノのメロディーにきっと魅了されるはず。ぜひ作品を聴いてみてください。

※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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