パーキンソン病:iPS細胞を用いたパーキンソン病の治療~最新治療

パーキンソン病は年々患者数が増えているにもかかわらず、まだ治癒が見込める治療法はありません。しかし、2018年iPS細胞を使った期待の持てる治療法の治験が京都大学医学部付属病院で始まりました。
パーキンソン病が起こる原因やiPS細胞、iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞を用いたパーキンソン病の治療法をできるだけ簡単にご説明していきます。

内部細胞塊は全ての組織に分化できる

最初に受精卵が細胞分裂して、胚盤胞になるまでの説明をします。
人間の体は約37兆個の細胞からできています。その37兆個の細胞はたった1個の受精卵という細胞が細胞分裂を繰り返してできたものです。受精卵が胚盤胞と呼ばれる状態まで分裂した時、胚盤胞内部の内部細胞塊はまだどの組織になるかは決まっておらず、全ての組織に分化することができます。内部細胞塊はそれぞれの組織になるために必要な遺伝子が組み込まれて分化されます。

iPS細胞とは?

全ての組織になれる内部細胞塊を人工的に作り出せれば、理論上は色々な組織を人工的に作ることができるということです。

胚性幹細胞(ES細胞)はこの内部細胞塊を取り出して培養した細胞です。しかし、受精卵を壊して作るES細胞は倫理的な問題があります。
また、本人の受精卵を使ってES細胞を作ることは困難なので、他人の受精卵から作ったES細胞を使うことになります。他人のES細胞から作った組織や臓器の細胞を移植した場合は、拒否反応の問題もあります。

これらの問題をクリアしているのがiPS細胞です。
自分の体細胞から作り出すiPS細胞には、ES細胞が抱えていた倫理的な問題も拒絶反応の問題はありません。iPS細胞は、神経、筋肉など色々な組織になれる人工多能性幹細胞です。

iPS細胞から目的の細胞や組織を作るには?

iPS細胞から目的の組織を作るには、iPS細胞を分化誘導させ(遺伝子を組み込む)目的の組織に分化させればよいのです。
しかし、細胞ごとに分化にかかわっている遺伝子が異なるので、目的の細胞を作るのに必要な遺伝子の同定が一番の問題になってきます。
iPS細胞を使って、神経など比較的単純な細胞は現在でも作ることができます。
しかし残念ですが、iPS細胞から人間の臓器に使えるような立体的な臓器を作ることはまだできません。
小さな臓器(オルガノイド)のようなものができたという報告はあるので、数年後には治験が行われているかもしれません。

iPS細胞の作り方

自分の体細胞に、4つの初期化因子(Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Myc)を導入させるためにレトロウイルス・ベクターを使います。これによって体細胞はリプログラミング(初期化)され、他の組織に分化できる細胞になります。この細胞を培養したものがiPS細胞です。

ES細胞は受精卵を採取しなければいけず、採取が困難な場合が多かったですが、iPS細胞は採取しやすい皮膚や血液などの体細胞を使えばよいので問題ありません。

iPS細胞の問題点を解決し治験へ

自分の体細胞から作れるiPS細胞にもいくつかの問題点がありました。ひとつずつ紹介していきます。

コストと時間の問題

iPS細胞を作るのに5000万円かかると言われていました。しかし、コストが10分の1の培養液を開発してコストを抑えることに成功しました。

また、自分の体細胞からiPS細胞を作ると使用できるまでに1年近くかかり、緊急性が求められる病気には使うことができませんでした。
この問題は、他人の体細胞からiPS細胞を作ってストックしておくことで、2か月かからずにiPS細胞を使えるようにすることで解決しました。

しかし、他人の体細胞から作ったiPS細胞を使うと拒絶反応の問題が出てきます。
拒絶反応は、HLA(白血球型抗原)が患者とドナーで適合していないと、起こる可能性が高くなります。しかし、あらかじめ数多くのHLA型のiPS細胞をストックしておき、患者とHLA型が適合するiPS細胞を使えばよいのです。
また、多くの人と免疫の拒絶反応が起こりにくいHLA型をもつスーパードナーが存在し、その人のiPS細胞を作製してストックしておけば日本人の25%に使うことができます。
iPS細胞をストックしておくことによって、時間短縮だけではなくコストダウンもできるようになりました。

iPS細胞ががん化する問題 ※1

iPS細胞はがん化すると言われていたことがあります。
がん化は遺伝子が傷つけられたりすると起こります。iPS細胞を作るのに当初は、レトロウイルス・ベクターを使っていましたが、細胞が腫瘍化する危険性があるので、代わりにエピソーマル・プラスミドを使うことでこの問題を解決しました。
また、初期化因子として使っていたc-Mycはがん原遺伝子なので、代わりにL-Mycを使ってiPS細胞を作成するようにしました。L-Mycを用いて作製したiPS細胞は、腫瘍形成がほとんど無くなりました。

このようにコスト、時間、安全性の問題をクリアして、iPS細胞を使ったパーキンソン病治療の治験を実施できるようになったのです。

パーキンソン病の原因

パーキンソン病の原因は神経伝達物質ドパミンの減少だと考えられています。
人間が体を動かそうとする時、大脳皮質から全身の筋肉に指令を出します。ドパミン神経の異常で神経伝達物質ドパミンの分泌が減少すると、この指令が上手く伝わらなくなってしまいます。そのため、パーキンソン病になると、運動の調節が上手くいかなくなり、運動障害が起こると考えられています。

現在までのパーキンソン病の治療法

現在までのパーキンソン病の治療法は対症療法です。減少してしまったドパミンを補充するための薬や、減少したドパミンの作用を補うためにドパミン受容体を刺激する薬などで治療してきました。パーキンソン病の症状の改善は、薬を服用して効果があるときだけに限られるので、薬を飲み続けなければいけません。

iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞を用いたパーキンソン病治療 ※2

2018年11月9日、京都大学医学部附属病院は「iPS細胞を由来ドパミン神経前駆細胞を用いたパーキンソン病治療に関する医師主導治験」における第一症例目の被験者に対し、ヒトiPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞の細胞移植を行ったと発表がありました。

使用された細胞は、再生医療用iPS細胞ストックをドパミン神経前駆細胞に分化させたものです。この作製過程で、ガン化に関連した遺伝子異常がないこと、未分化細胞が残っていないこと、細菌などが混じっていないことなどを厳しくチェックしました。作製期間は約2か月です。

大脳基底核のドパミン神経細胞からドパミンが放出される被殻に、片側あたり合計約240万個の細胞を移植しました。3本の刺入経路を使い、1本の刺入経路あたり2mm間隔で4箇所、合計12箇所に注入しました。手術時期は2018年10月、手術時間は3時間1分でした。

iPS細胞を使った治療が普及するための課題

iPS細胞を使った治療が普及していくための今後の課題は、コスト削減、人材と施設と安全性の確保です。
培養液のコストダウン、iPS細胞のストックによって以前よりは治療費が安くなったと言っても、まだ高額な治療です。安全性が証明されてくれば、iPS細胞の作製はさらにコストダウンできるでしょう。
iPS細胞を培養できる施設はまだそれほど多くはありません。施設が増えるにしたがい、そこで作業できる人材も育成しなければいけません。
このような理由から、iPS細胞を使った治療が普及するためには、もう少し時間がかかりそうです。

今回の京都大学医学部付属病院が行ったiPS細胞を使ったパーキンソン病治療が成功すれば、今まで治癒できなかったアルツハイマー病、筋委縮性側索硬化症(ALS)などの脳神経系疾患にも希望が見えてきます。

新薬の開発では、今まで動物実験で効果、安全性を確認していましたが、iPS細胞を使って問題のある臓器を作り新薬の効果や安全性を確認することなどにも応用できます。このようにiPS細胞は患者への移植医療だけでなく、新薬の開発にも使用されているので、医療はこれから飛躍的に発展するでしょう。

※1 CiRAホームページ 「iPS細胞の安全性に関してどのような課題がありますか?」(参照2018-11-22)
※2 CiRAホームページ 「iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞を用いたパーキンソン病治療に関する医師主導治験」における第一症例目の移植実施について(参照2018-11-22)

※本記事はコロナウイルス感染拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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