パット・マクグラス:世界中で最も影響力のあるメイクアップアーティストに学ぶ人生成功の秘訣

パット・マクグラスは、1965年6月11日、イギリスのノーザンプトン生まれのメイクアップ・アーティスト兼クリエイティブディレクター。プラダやミュウミュウ、ドルチェ&ガッバーナなどのハイブランドのメイクを手掛け、2013年にエリザベス女王より大英帝国勲章を受賞。140万人のインスタグラムフォロワーを持ち、世界で最も影響力のあるメイクアップアーティストである彼女の人生成功の陰にある秘密とは?

女で一つで育てられた幼少時代に誕生した「混ぜる」思想

1965年6月11日に、パットはイギリスのノーザンプトンで誕生しました。ジャマイカ人の駐在員である母の元で育ちました。ファッションやメイクが好きな母と、よくクラシック映画を見に行ったのが思い出だったと語るパット。また、度々ショーに連れて行ってもらい、そこで母に「洋服の素材や模様、メイクアップをよく見ておきなさい」と教育されたこともあったのだそうです。

メイク好きの母がいつもこだわっていたのはファンデーションの色味です。黒人の肌に合わせたファンデーションは当時少なく、一色で自分の肌に合ったものはなかったのだと言います。自分に合った色が見つからないと、あらゆるコスメを試してミックスしていた母を真似してパット自身もファンデーション、そしてアイシャドウも色々と混ぜて使うようになります。クリームをつくるために、オイルをいくつも混ぜて冷蔵庫に冷やし、母に怒られたこともあるという微笑ましいエピソードも取材で語っています。
のちに世界から評価される彼女のメイクアップに対する追求心のルーツはここにあるといっても過言ではありません。

唯一無二の創造力を生んだ、地道で少し遠回りなキャリア

幼少時代からファッションやメイクのカルチャーを肌で感じてきたパットですが、意外にも美容・ファッションの専門学校ではなく、芸術大学を卒業しています。ノーザンプントン・カレッジのアートファンデーションコースといった、アートデザインを学ぶ学科です。一般的なヘアメイクアップアーティストのキャリアは、美容学校を卒業後、師匠となるアーティストに弟子入りするパターンが多いのですが、パットの場合はアートデザインという少しヘアメイクと異なる分野を経ています。この意図した遠回りこそが、後に世界中のファッション雑誌からラブコールが絶えない唯一無二なパットのメイクデザインの原点となっています。
パットはメイクアップアーティストになりたいファンへのアドバイスとして次の言葉を残しています。
「ゆっくりと着実にキャリアを積み上げていくのがいいと思います。その方が、人は信頼をしてくれるし、それに見合った、きちんとした報酬をもらえます。」

最初からメイクアップアーティストとして稼ぐことができないと分かっていた彼女はレセプショニスト(受付)で働くことで生計を立てていました。彼女が最初に頼まれたアーティストとしての依頼は、友人のバンドのメイクアップでした。クラブに遊びにいっていったときに、パットの華やかなメイクをみて、そこからやってほしいと依頼されたことが始まりだったのだそうです。一つ一つが勉強だった、とメディアの取材で献身的に振り返っています。

「もし他の人を蹴落とそうとしたり、あるいは(生活に困窮して)絶望的に仕事をしていたら、人はあなたと一緒に仕事をしたいと思わないでしょう?」

ヘアメイクになることは元々目標として強く考えていた彼女ですが、生活資金を他で稼ぎながら、自力でキャリアを着実に積み上げてきた過去が現在につながっています。

大きな転機となる一人のスタイリストの出会い

レセプショニストの仕事で賢く生計を立てながら、ヘアメイクアップアーティストとしてのアーティスト活動をしていた中、パットはついに人生を変える人物に出会います。

1990年代に仕事や創作活動を共にしたエドワード・エナンフル。彼こそは現VOGUE編集長であり、元i-D magazineの編集者になる人物です。エドワードがi-D magazineの編集長に就任したとき、パットのメイクの鮮やかな色使いと、どこかアンニュイな世界感は同マガジンで多くのファンを虜にしました。そして次々と世界的なデザイナーであるジル・サンダーやジョン・ガリアーノなどのハイブランドからもオファーが殺到することになります。
ここでも彼女は、誰もみたことのない圧倒的なデザイン力でファッション業界に名前を浸透させることになります。この時期に発表した、イミテーションの花びらとビニールリップを使った“歌舞伎風”のメイクアップは代表作として有名です。

こうして、革新的なアート性のあるメイクアップでファッション界から引っ張りダコとなったパットは、パオロ・ロベルシやヘルマット・ニュートン・スティーブン・メイセルなどの巨匠的フォトグラファーと仕事を共にし、作品は世界中に発信されることとなります。特にスティーブン・メイセルはパット以外のヘアメイクとは撮影をしないほど、彼女のセンスに入れ込んでいます。

彼らと築いた代表作品には、miu miuやPRADA、Comme des Garçonsといった誰もが知っているハイブランドのルックがあります。

メイクアップアーティスト兼起業家としての大成

パットがファッション業界で世界中から獲得した陰には、一見遠回りにも見えながら、着実にキャリアを積み上げてきた努力があったことは前述の通りです。

2008年のロンドンファッションウィークでの取材で、彼女のデザインについて、「服の素材をよく見てデザインを考えるようにしています」と答えています。パットがコレクションで施すメイクに使うパーツは、ハンドメイドで服の素材やモデルの雰囲気に合わせて手作りされており、オートクチュールとして世界に注目されました。こうした一つ一つのメイクへのこだわりと丁寧な仕事ぶりで業界から不動の人気を獲得したパットは、2013年にエリザベス女王から大英帝国勲章を受賞することになります。

今やインスタグラムで全世界からフォロワー140万人のファンを持つ彼女は、世界的インフルエンサーです。2015年に立ち上げたパット・マクグラス・ラボは、発売後数分で完売になるほど人気のコスメブランドとなりました。
影響力のあるインスタグラマーがビジネスをすることは珍しいことではありませんが、必ず成功をするといったわけではありません。パットのコスメブランドがここまで人気を博している理由は、フォロワーの多さだけでなく、他ブランドを超越する品質にあります。彼女が長い人生をかけて培ってきた妥協しないアートへのこだわりとキャリアは、自身がプロデュースするコスメにも余すことなく発揮され、追随を許さない独自アイテムへと反映されています。

「シューティングやバックステージで87個のスーツケースの中身を披露するのは、自ら一生涯の秘密を周りに分け与えているようなもの。その秘密というのは、自分や私のチームのために特別につくった製品やメイクのハウツーです」
多くのアーティストがメイクアップのレシピなどリアルな情報を明かさない中、パットは使用アイテムやメイク方法の多くを公開し、若きアーティストの育成にも貢献しています。

パットがプロデュースしたコスメが他社と異なるところは、 “顧客をアーティストに変える力を持っている”という点です。マット・マクグラスという一流のトップアーティストが作り込んだ製品と、詳しく明かしたhoメイクアップチュートリアルを持って、顧客はまさに、マット・マクグラスのようなアーティストになれたような気分を味わえるのです。彼女はインフルエンサーとして自身のSNSを活用して、あらゆる情報を発信している点でもぬかりがありません。

長い年月をかけて着実に積み上げた、トップアーティストとしての技術力だけでなく、どんな現場でも真摯にこだわって向き合う仕事スタンスこそ、彼女の成功そのものといえるでしょう。彼女の人生そのものを反映しているコスメブランドの動きも、今後目が離せません。

※本記事はコロナウイルス感染拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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