グラーシュ:欧州で広く親しまれるスープ

グラーシュ
「グラーシュ」は、ドイツ、ハンガリー、オーストリアをはじめとしたヨーロッパの広い地域で古くから親しまれているスープで、牛肉とパプリカが使われることが特徴。材料や作り方は地域や作り手によってさまざまで、少しずつ異なる独自のグラーシュが楽しまれている。 起源はハンガリーであると言われており、ハンガリーでこの料理は「グヤーシュ gulyás」と呼ぶ。ドイツやオーストリアなどでは「グラーシュ Gulasch」と呼ばれている。

スープで迎えられたホームステイ

オーストラリアで、ドイツ人のお宅にホームステイしたときの話です。
直前まで飛行機の狭い機内に不自然な姿勢で長時間過ごしたことで、体調も気分も最悪の状態で着いたホームステイ先。さらにコチコチに緊張している私を、ホストマザーは温かく出迎えてくださり、「おなかすいていない?ミッドナイト・スープを作ったのよ、食べてみて。」と、一皿のスープをすすめてくれました。

トマト・スープのような見た目の赤いスープで、お肉と野菜がたっぷり入っており、それまでに私が知っていたミネストローネ・スープのようにも、ビーフシチューのようにも見えました。ひとくち口に運ぶと、優しくほっとする味。一気に緊張がほぐれて体調も気分もよくなったこと、今でもよく覚えています。

「ミッドナイト・スープって、おもしろい名前ですね。」と聞いたところ、このスープはドイツで、年越しと新年を祝う夜通しのパーティーの際、夜中に小腹がすいたころに、皆で食べるスープであると教えてくれました。
「夜中に食べるから『ミッドナイト・スープ』、パーティーで食べるから『パーティー・スープ』とも言われているのよ。」

言われてみればなるほど、お酒をたくさん飲んだあとに食べると悪酔いや二日酔いの防止によさそう、唐辛子の辛みもピリリと効いているから酔い覚ましにもなりそう、と思ったものでした。
年越しパーティーには、華やかなごちそうとともに、キッチンの大鍋にはこのスープが作られて、夜中の登場に向けてスタンバイされるそうです。

「ミッドナイト・スープ」は「グラーシュ」のこと

料理に興味がある私は、早速ホストマザーにこのスープの作り方を聞き、さらに自分でも調べてみました。ドイツで年越しに食べるスープは「ミッドナイト・スープ」と呼びますが、同じものは普段も食べられていて、こちらは「グラーシュ」というそうです。

グラーシュは、ヨーロッパの広い範囲で親しまれている

「グラーシュ」の名前で調べると、元はハンガリーのスープであるとの情報が出てきます。さらにはドイツとハンガリーだけでなく、地理的にこの2国を挟んだ位置にあるオーストリア、チェコ、スロバキア、スイス、イタリアなど、ヨーロッパの広い範囲でも親しまれているスープであることが分かりました。
陸続きのヨーロッパ、少しずつ形を変えながらお隣の国へと順々にレシピが伝わっていったことが予想できます。

グラーシュのメインの材料は、牛肉とパプリカ

各国のレシピに共通して、最も一般的なグラーシュには、牛肉とパプリカ・パウダーが使われることが特徴のようです。他にはたまねぎ、じゃがいも、にんじん、トマトなどの野菜が入り、唐辛子でアクセントになる程度の辛みをつけます。ただし激辛にはしません。スープが赤いのは、パプリカ・パウダーとトマトの色からです。
なお牛肉がメインのグラーシュ、野菜が主役のグラーシュ、それは作り手次第です。

作り方としては、野菜と牛肉はさいの目切りにされるのが一般的のようですが、「こうしなければならない」決まりはないのが料理です。材料を大き目のまま煮て、食べるときに崩しながら口に運ぶスタイルのグラーシュもあります。

作り手次第で異なる仕上がりになるグラーシュですが、例えば、私がドイツ人のお宅で教わったグラーシュは、じゃがいもをさいの目切りしたものがたっぷり入り、味付けにはトマトペーストも入れます。またパプリカは、一般的に使われる乾燥のパウダーのほかに、生の赤パプリカも入れます。
このレシピはほくほくしたじゃがいもの食感も楽しめ、じゃがいもを好むドイツらしいアレンジがされたグラーシュだと思います。生のパプリカの甘みを効いているのも「優しい味」と感じた理由だと思います。

グラーシュの作り方概要

初めて食べて「おいしい」と感激した料理は、その後別のお店などで食べたとしても「最初に食べたものの方がいい」となりがちですが、私の場合も、ホームステイ先のホストマザーのグラーシュが、私の中では「ベスト・グラーシュ」、一番おいしいと思っています。

その作り方を簡単にご紹介してみましょう。
材料は牛肉の赤身(脂身は取り除いで使います)、じゃがいも、たまねぎ、赤パプリカ。これらをすべて2cm角ほどのさいの目切りにします。
鍋にラードかサラダ油を入れて中火にかけ、たまねぎを入れてしんなりするまで炒めます。次に、牛肉を加え表面が色づくまで炒めます。ここへトマトペーストとパプリカ・パウダー、チリパウダーを加えて、全体に絡まるように炒めたのち、水、固形スープの素、ローレルの葉1枚を加えます。さらにじゃがいもとパプリカを加え、沸騰したら弱火にして、鍋に蓋をして約20~30分煮込みます。
以上で完成。簡単ですが味わい深いスープです。いつもお代わりしたくなります。

同じグラーシュを出す店はない?

別の機会のドイツの旅行中には、レストランに入るたびにこの「グラーシュズッペ Gulaschsuppe」を注文してみたことがあります。予想どおり毎回異なる、バラエティ豊かなグラーシュを味わうことができました。
見える具は牛肉だけ、ビーフシチューのようなグラーシュあり、じゃがいもと牛肉「だけ」のグラーシュもあり、また、にんじんやセロリ、ベーコンが入った、それこそイタリアのミネストローネに近いようなグラーシュもありました。

いずれも、グラーシュ1品だけ注文すると、かなりたっぷりの量のスープに必ずおいしいドイツパンが添えられてきます。あとはドイツの白ワインをグラス1杯頼めば、これで十分お腹も心も満足する1食になるのでした。

スープではなく「牛肉の煮込み」のグラーシュもある

グラーシュの作り方を調べていて、牛肉の煮込み料理のことをグラーシュと呼んでいるケースもあることに気づきました。
この場合の牛肉は、一切れが大きめ目です。煮込みにする材料は、たまねぎ、トマトペースト、パプリカ・パウダーまでは同じですが、クミンやナツメグなどのスパイスも入り、赤ワインとブイヨンを加えて水分がかなり少なくなるまで煮込みます。このとき、レモンの皮とにんにくのみじん切りを入れるレシピも多いので、これらは必須材料なのもしれません。

このグラーシュの場合、食べ方にも少々特徴があります。単体で食べるのではなく、添え物があるのです。丸ごと茹でて皮をむいたじゃがいも、またはクヌーデルと呼ばれるじゃがいもやパンで作った団子や、シュペツレと呼ばれる小麦粉の生地を茹でて作ったショートパスタなどがよく添えられています。
じゃがいもやクヌーデルはお皿の上でナイフとフォークで切りながら、グラーシュのソースや牛肉にからめながらいただきます。

いずれにしても、どちらもおいしそう、というか実際においしいグラーシュです。機会があったら、もしくはご自身で作ってみて、このヨーロッパで広く親しまれている味をぜひいつか体験してみてはいかがでしょうか。

関連記事一覧