アルファ・ロメオ: 過去から未来までのビジョンを訪ねる

自動車製造会社アルファ・ロメオは、1910年にヨーロッパ有数の都市であるイタリア共和国のミラノで誕生しました。20世紀前半にヨーロッパで産声を上げた、老舗自動車メーカーのいくつかがそうであるように、人類の負の遺産である二度の世界大戦の戦火を潜り抜けて生き抜いてきました。第二次世界大戦前から、自動車レース会の雄としてその名を馳せ、戦後もイタリアを代表する高性能車メーカーとして認知されていましたが、生産技術と品質管理に問題があった体質が原因で、やがて経営不振を導き、1986年に同じイタリアの自動車メーカーであるフィアットの傘下に入ることになりました。現在は、市場競争力を強化したクルマの開発と生産で、世界中に受け入れられる製品によって、グローバル・ブランドとしての復活に挑戦しています。そんなアルファ・ロメオの1世紀を超える歩みを訪ねて行きましょう!

1.アルファ・ロメオの産声と歴史

アルファ・ロメオの誕生まで

910年、ミラノの自動車製造会社が、経営危機に喘いでいたフランスの自動車製造会社イタリア工場を買い取り、創業したのが起源だということです。そして1918年に、ナポリ出身のエンジニアであり実業家であるニコラ・ロメオの有限会社と合併し、社名をニコラ・ロメオ技師株式会社としました。ここで、ロメオの名が登場したわけです。そしてこの時代からヨーロッパの自動車業界では合従連衡による業界再編が繰り返されていたのです。

アルファ・ロメオのフロントエンブレムはとても特徴的で、魅力に溢れています。そして、そのデザインには多くの情報が詰まっています。その情報とは、ミラノ市の赤十字の紋章と、ミラノの貴族であったヴィスコンティ家の紋章である、人間をくわえた大蛇を組み合わせていることで、それにより発祥の地ミラノへ人々が思いを寄せることが出来ます。

このエンブレムのロゴに”ALFA-ROMEO”の文字が刻まれたのは1920年のことです。そう、伝統と由緒あるエンブレムなのです。

アルファ・ロメオの歴史はレースの歴史です。ニコラ・ロメオは、レースに取り組むことは技術力向上と車両販売促進の両面で効果があることを理解していたので、アルファ・ロメオの技術スタッフが高性能スポーツカーの開発に没頭することを推進しました。そして、生み出した成果は、1920年代のモータースポーツにおける輝かしい歴史のスタートを告げるクルマの登場、それがアルファ・ロメオRLです。RLはさまざまなレースで活躍することで、アルファ・ロメオの名声をとどろかせました。これを起点として、第二次世界大戦以前から自動車レース界の強豪としての誉れ高く、レース部門の総責任者エンツォ・フェラーリはその後独立して、かの著名なフェラーリを創設しました。フォードT型を世に送り出し、庶民の手にモータリゼーションを広めた自動車王ヘンリー・フォードがアルファ・ロメオについて語ったことばにこのようなものがあります。「私はアルファ・ロメオが通るたびに脱帽する」と。この言葉には、賞賛と皮肉が入り混じっています。ヘンリー・フォードは、大量生産を実現した資本主義の申し子です。生産効率を横に置いてでも少量生産と高価格販売戦略を旗印に、自分たちの理想のクルマ創りにまっしぐらに突き進むことができたアルファ・ロメオに対しての、自動車王の複雑な感情です。

戦火の訪れと国有化

世界恐慌を要因とする経営難と政治的な圧力により、1933年アルファ・ロメオは事実上国営化されました。その背景には、イタリアにおいて国家ファシスト党による一党独裁制を確立した、ムッソリーニ首相が深く関与したことがあるといわれています。

実は、ムッソリーニの愛車はアルファ・ロメオだったのです。経済不安を対外侵略によって乗り越えようとしたムッソリーニの動向により、戦時下における自動車メーカーの宿命として、アルファ・ロメオは軍需産業に組み入れられる国策により、保有している高い技術力を兵器製作で発揮する道のりとなったのです。そして1943年、第二次世界大戦中の連合軍のミラノ市への3度に及ぶ空襲によって、本社工場は廃墟と化しました。

戦後の復興への手立て

戦後の復興は、少量生産と高価格販売戦略という戦前の姿勢を自ら投げ打って、大衆車を量産するメーカーとして成り立つことに針路を変換しました。そこで1950年に登場したのが、新型「1900」シリーズです。このモデルの設計思想の中心にあったのは、現在のクルマ創りの潮流である「ダウンサイジング」です。そして、レースで培った高度な技術を惜しみなく投入する旗印は、完全には消え去っていませんでした。新開発の4気筒DOHCエンジンを搭載していたのです。キャッチフレーズは「レースに勝つファミリーカー」と意気込み盛ん、元気一杯でした。1900シリーズは、第二次世界大戦後のアルファ・ロメオの革新であり、将来の方向性を決定づけた意義深いモデルです。

アルファ・ロメオジュリエッタのデビュー

1900を引っさげて、量産車メーカーへと転換したアルファ・ロメオが、更なる拡大を目指して開発した小型モデルが1954年に登場したジュリエッタ・シリーズです。アルファの伝統の一つ、それはDOHCエンジンです。ジュリエッタもこの伝統を踏襲し、1300CCの小排気量でありながらDOHCのバルブ駆動で、最高速160km/hのハイパフォーマンス車でした。その血筋がモータースポーツイベントへの参加者に愛されて、幾多のツーリングカーレースや公道レースに用いられ、激戦を繰り広げました。勿論販売に関しても、大衆でも頑張れば手が届くスポーティカーの領域としての成功を掌中にして、アルファ・ロメオの経営基盤を強化したのです。ジュリエッタはバージョンを増やして、1962年に排気量を1600CCにアップした「ジュリア」へと発展しました。このボディのデザインは、イタリアの工業デザイナーとして一斉を風靡した巨匠ジウジアーロがたずさわりました。ジウジアーロの作品の特徴は、「折り紙細工」といわれる直線的でエッジの利いたデザインで、ジュリアの美しさは高貴な雰囲気を醸し出していたものです。

アルファ・ロメオの悲劇

その後もすべてが順風満帆に進んだわけではありません。アルファ・ロメオの企業としての体質の特徴は、自動車の設計において自分たちの理想を追いかけるばかりで、生産効率に取り組む優先順位の位置づけが低い社風でした。時代はすでにそのような量産車メーカーの姿では生き残りが困難な時期に突入していました。そしてそこに風穴を開けることのできる、人材確保と資金調達ができなかったことに、アルファ・ロメオの悲劇があります。度重なる労働ストライキの影響による品質の低下や、生産現場の労働意欲は決して高くはないのにもかかわらず、高いコストが掛る設計を用いる思想など、財務体質を改善する上での矛盾がいくつも存在し、経営を圧迫することになりました。

経営不振、そしてフィアット傘下へ

イタリアはその国土の形を長靴にたとえられることがよくあります。つまり南北に細長い半島国で、その距離は1200KMに及びます。この地理的な影響による南北の経済格差問題が、イタリアが建国した1860年から渦巻いていました。一言で説明すると、北が豊かで南が貧しいのです。1971年、イタリア政府は南北格差の是正を目的として、当時は公営であったアルファ・ロメオに南部工業振興のための工場設立を要請しました。そのとき立ち上がったのが、南部ナポリ郊外のポリミアーノ・ダルコ工場です。ここで生まれたのがアルファ・ロメオ初の前輪駆動の大衆車「アルファ・スッド」でした。

「スッド」はイタリア語で「南」を意味し、この地域の雇用を創出するために開発された車種です。しかし、車体の鋼板の品質の悪さと、製造業においては企業の中核機能を担う生産技術のレベルの低さ、つまり品質高く効率的に生産する方法を、工程として設計する技術を根付かせることができなかったことが、芳しくない評判を呼び込み、アルファ・ロメオそのものの評判も下落しました。車体鋼板の問題にはこういう理由があります。労働争議に悩まされていたイタリア鉄鋼産業の生産能力の不足を補填するためにソ連から輸入したといわれる鋼板の防錆処理不足によって、新車購入後わずか1、2年でフロントガラス周囲に穴あき錆が発生するほど防錆能力が低かったのです。このような変遷が発端となって、1986年フィアットグループに買収されたのです。国営化されて以降、高コスト体質と品質問題から販売不振を招き、経営苦難に陥っていたアルファ・ロメオを支配下におくことで、フィアットはイタリアの自動車業界を事実上独占することになったのです。現在のフィアットグループは、アルファ・ロメオ、フェラーリ、マセラティ、クライスラーなどの世界に名だたるブランド企業を一括して擁するイタリアを代表する大企業です。そしてフィアットのオーナー一族であるアニエッリ家は、イタリアサッカー1部リーグセリエAの強豪ユベントスを設立し、現在もオーナーとして資金と運営をバックアップしている華やかさがあります。

再び繁栄を目指して

フィアットは自動車の骨格を支えるベースフレーム、つまりプラットフォームを自社製品との統合化を推進すると同時に、アルファ・ロメオの資産として唯一の残り火であったブランドイメージの更なる高揚に力を注ぎました。そして、イメージや性能ばかりでなく、それまで手を打てていなかった品質と信頼性の確保を重点的に強化して、アルファ・ロメオの市場競争力を高めました。そうです、フィアット傘下に入りアルファ・ロメオの品質は改善されたのです。1997年、「156」が誕生。伝統が息づく斬新なスタイリングと高性能が評価され、1998年度のヨーロッパ・カー・オブ・ザ・イヤーをアルファ・ロメオに初めてもたらした中型セダンです。エクステリアは勿論のこと、V型6気筒を搭載した美しいエンジンルームさえも評価された、史上最大の成功モデルとされます。さらに、2000年誕生の「147」も2001年度のカー・オブ・ザ・イヤーを受賞。これは、FFのハッチバック型乗用車で各種の走行安全装置の搭載に注力し、プレミアムコンパクトカーの分野を乗用車に築くことに寄与しました。こうしてアルファ・ロメオは復活への道を、一歩ずつではあるが歩んでいったのです。

アルファ・ロメオの魅力とモデルラインアップ

感性に訴えかけるクルマ「アルファ・ロメオ」

よく言われます。アルファ・ロメオのデザインは、イタリアン・デザインの極みとして人の琴線に触れる魅力があると。つまり、クルマとしての性能以上に、人の心の奥深くにある感情を揺り動かし引きつけて夢中にさせる力を持っているのです。スポーティな印象と独特のデザインが互いに作用して、「アルフィスタ」と呼ばれるアルファ・ロメオの熱狂的ファンが存在する奥深い自動車メーカーなのです。感性とは知覚ですから、言葉の説明だけでは不十分な面も多々ありますが、ここは言葉を磨いて、その魅力をもう少し深く掘り下げていきましょう。

魅力その1デザイン

エクステリアのデザインは空力性能を追及し、インテリアはドライバーが自然な動きで効率的に操作できるように、人間工学を用いたデザインを採用しています。そしてこのような機能美に加えて、形や色や模様などをさまざまに工夫した装飾は、現代工業デザインの奇跡とも感じられます。この美しさは、イタリア人だからこそ成し得た結果でしょう。アルフィスタが歴然と存在するのは、そんな理由からでしょう。

魅力その2エンジン

エンジンは高回転までの心地よい吹き上がりとともに、甲高さが甘美なサウンドにしびれるとよく語られます。中でもV6エンジンの咆哮は、管楽器を連想させるように美しく奏でてくれると評価されます。そして、工業製品としての造形美の素晴らしさも誇っています。

魅力その3乗り味

キビキビと走る洗練された乗り味は、ワインディングロードでも市街地でも胸のすくような気持ちにさせてくれます。普段使いで楽しめるスポーツカーです。

アルファ・ロメオの主要な現行モデルラインアップ

【ミト】

アルファ・ロメオの入門版で、「ベイビーアルファ」のニックネームを持つ3ドアハッチバックです。パワートレインは1.4L直列4気筒のダウンサイジングターボです。吸気バルブの駆動にカムシャフトを使用せず、油圧で駆動するという独創技術のマルチエアターボエンジンは、油圧ピストンでバルブ駆動をすることで自由な駆動を実現しました。このテクノロジーによる加速感が魅力の1台です。

【ジュリエッタ】

ジュリエッタは、ミトの姉貴分です。ロマンチックなその名の通り、どの角度から見ても妖艶なそのスタイルは、つい振り返って眺めたくなる美人そのものです。エンジンは1.75Lのマルチエアターボの5ドアハッチバックです。

【4C】

4Cは、ミッドシップ型量産スポーツカーです。エンジンはジュリエッタと同じ1.75Lのマルチエアターボエンジンで徹底した軽量化をフルカーボンモノコックの採用の実現で、高次元のパワーウェイトレシオを獲得しています。ルーフがソフトトップのオープンカー、4Cスパイダーもラインアップしています。

【ステルヴィオ】

世界規模で加熱するSUV市場に対してアルファ・ロメオが提示した解答がこのステルヴィオです。究極のドライビングロードと語られる北イタリアのステルヴィオ峠の名を冠に究極のハンドリングを有することを謳っています。エンジンは、2.0Lのマルチエアターボエンジンで、最大トルクは400Nm/2250rpmを発揮します。

車種のご紹介はいかがでしたでしょうか?アルファ・ロメオのその魅力は、何度も触れているように、感性に訴えかける哲学です。この記事をお読みになって、少しでもアルファ・ロメオに好奇心を持っていただけたら幸いです。

アルファ・ロメオの未来へのビジョン

現在は100年に一度の大変革が自動車産業界で起こっていると叫ばれています。世界の自動車リーディングカンパニーでは、自動車産業からモビリティ産業への変革に対する道筋、電動化、自動運転といったテーマに対してのコンセプトを発表しています。しかし、現在フィアット傘下にあるアルファ・ロメオは、それに関しての目立ったアクションは起こしていませんでした。しかし、ここに来て伝統の車、アルファ・ロメオGTVが2022年までに復活するというアナウンスが聞こえてきました。ハイブリッドではありますが、電動化による復活で、「Eブースト」と呼ばれる600馬力超の電動パワートレイン搭載によるものです。新しいアルファ・ロメオ・ブランドの構築に向けての動向に、期待に胸膨らませて注目しましょう。

※本記事はコロナウイルス感染拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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