ツール・デ・フランドル:キング・オブ・クラシック、石畳と激坂のレース

「キング・オブ・クラシック(クラシックの王)」として、「パリ・ルーベ」と並んで、ワンデーレースの頂点に位置しているのが「ツール・デ・フランドル」。「パリ・ルーベ」が石畳と土煙のレースだとしたら、「ツール・デ・フランドル」は石畳と激坂のレースです。石畳だけでも選手たちを苦しめるにも関わらず、ここに激坂が加わることで、レースの過酷さは頂点を極めます。目まぐるしく変わるレース展開、劇的なアタックなどが毎年のように繰り広げられます。今回はそんな「ツール・デ・フランドル」をひも解いていきましょう。

1.「ツール・デ・フランドル」ってどんなレース?

「ツール・デ・フランドル」は毎年4月上旬に開催されるワンデーレースです。
ベルギーのフランデレン地域を舞台に行われ、自転車ロードレース熱の高いベルギーの中でも最も格式の高いレースとして位置しています。自転車ロードレース界全体としても「パリ・ルーベ」と並んで、シーズン序盤に開催されるビックレースでもあります。
ワンデーレースを得意とする「クラシックハンター」と呼ばれる選手たちにとっては、この時期に開催されるクラシックレースでどれだけの勝利を収めることができるかが非常に重要とされており、中でも「ツール・デ・フランドル」はその頂点に立つレースです。

レースの特徴としては、「パリ・ルーベ」とよく似ています。コースの全長は250㎞にも及ぶ長距離を走り、コース中には無数に設定された石畳区間が選手たちを襲います。ただ、パリ・ルーベが全体的に平坦基調のレースであるのに対して、「ツール・デ・フランドル」はそこに激坂が加わります。石畳の激坂は通称「ミュール(壁)」と呼ばれており、坂としても難易度の高い急坂に加えて、走りにくい石畳が組み合わされることによって、レースは過酷を極めます。
自転車ロードレースでは、集団で走行することが多いスポーツですが、この「ミュール」では、道幅も狭いため、渋滞などがしばしば起きてしまいます。中には、ペダルを踏むことができずに選手してしまう選手、上るのをあきらめてロードバイクを担いで走る選手なども現れます。
このような特徴を持っているため、集団内での位置取りが非常に重要視されるレースでもあり、レース中の選手たちの細かな駆け引きや位置取り争いに注目が集まります。

「パリ・ルーベ」と並んで過酷なレースとして知られる「ツール・デ・フランドル」。過酷な分、優勝者には格段の栄誉が与えられます。まさに「キング・オブ・クラシック」の名に相応しいコースと、優勝者に与えられる称号は選手間でもかなりリスペクトされています。

2.2018年の「ツール・デ・フランドル」を振り返る

ワンデーレースの最高峰「ツール・デ・フランドル」。シーズン序盤の出来を占うという意味でも非常に重要なレースと言えます。「パリ・ルーベ」と同様に世界のトップクラスのクラシックハンターたちが集結ししのぎを削ります。
2018年のレースで注目を集めたのが、2016年大会王者のペーター・サガン(ボーラ・ハンスグローエ)です。クラシックでは絶対的な強さを確立し、今大会でも優勝候補最右翼と評されていました。そして、2017年大会王者のフィリップ・ジルベール、クラシックに強いニキ・テルプストラの両選手を擁するクイックステップフロアーズも優勝候補として名を連ねていました。
そして、ワンデーレースの実績十分のグレッグ・ヴァン・アーヴェルマート(BMCレーシング)、セプ・ヴァンマルク(チームEFドラパック)、2018年のミラノ・サンレモで劇的な勝利を果たしたヴィンツェンツォ・ニバリ(バーレーン・メリダ)も参戦し、豪華な顔ぶれとなりました。地元ベルギーからもジャスパー・ストゥイヴェン(トレック・セガフレード)、ティシュ・ベノート(ロット・ソウダル)など期待の若手選手が出場しています。

そんな、2018年大会は序盤から波乱の幕開けとなりました。レース序盤で、積極的に集団から抜け出そうとする動きが起きる中、セプ・ヴァンマルク、グレッグ・ヴァン・アーヴェルマートなどが落車というトラブルに見舞われます。その時の天気は小雨が降っており、気温も低く、最初からサバイバルな展開となり、過酷なレースが予想されていました。

レース中盤まで小刻みなアタックと吸収を繰り返し、落ち着かない展開となりましたが、終盤の240㎞地点で、ヴィンツェンツォ・ニバリがアタックし集団を抜け出します。それについて行く形でニキ・テルプストラが反応。2名の選手が集団から抜け出す形になります。
クイックステップフロアーズとしては、集団内に前回王者のフィリップ・ジルベールを温存する体制が整いライバルたちをけん制していきます。
ニキ・テルプストラ達も先頭集団に追いつき、上りを利用してニキ・テルプストラがアタックを仕掛けます。先頭集団に追いついた勢いそのままにニキ・テルプストラは独走態勢を築き上げます。
その後、集団に残されたペーター・サガンなどが怒涛の追い上げを見せますが、その後ろにはテルプストラのチームメイト、ジルベールがしっかりとマークをしていました。
最終的には、独走態勢を築いてから約28㎞という長い道のりを1人で走り切り、ニキ・テルプストラが自身初となる「ツール・デ・フランドル」の優勝を飾りました。ジルベールも第3位でゴールをし、表彰台の3つの席のうち、2つをクイックステップフロアーズが獲得するという圧巻の結果でした。
これでジルベールに続いて、クイックステップフロアーズは2年連続となる「ツール・デ・フランドル」制覇を達成。レジェンドのトム・ボーネンの遺伝子を受け継ぐクイックステップフロアーズらしい強さを見せたレースとなりました。

【2018年ツール・デ・フランドル トップ10】
1位 ニキ・テルプストラ
2位 マッズ・ペデルセン
3位 フィリップ・ジルベール
4位 ミケル・ヴァルグレン
5位 グレッグ・ヴァン・アーヴェルマート
6位 ペーター・サガン
7位 ジャスパー・ストゥイヴェン
8位 ティシュ・ベノート
9位 ワウト・ヴァンアールト
10位 ゼネク・スティバル

「2018年ツール・デ・フランドル 残り40㎞から」(YouTube)

3.「ツール・デ・フランドル」の過去を振り返る

1913年から始まった「ツール・デ・フランドル」。2018年で102回を数える歴史の深いレースとなっています。ここでは、名実ともに「キングオブクラシック」の「ツール・デ・フランドル」の過去を振り返っていきましょう。

①過去10年の優勝者

2009年から2018年の優勝者の一覧です。

2009年 ステイン・デヴォルデル
2010年 ファビアン・カンチェラーラ
2011年 ニック・ニュイエンス
2012年 トム・ボーネン
2013年 ファビアン・カンチェラーラ
2014年 ファビアン・カンチェラーラ
2015年 アレクサンダー・クリストフ
2016年 ペーター・サガン
2017年 フィリップ・ジルベール
2018年 ニキ・テルプストラ
引用:WikiTour of Flanders

2000年代から2010年代全半までは、ファビアン・カンチェラーラとトム・ボーネンの2強時代が長く続いていました。この二人は共に歴代最多となる通算3回の優勝を誇っており、同時代の良きライバルとしてファンを魅了していました。
しかし、彼らもベテランとなり、2016年大会では、新時代のチャンピオン・ペーター・サガンに対して、カンチェラーラが完敗を喫すなど、世代交代が進んでいきます。
また、トム・ボーネンが所属していたクイックステップフロアーズは、クラシックレースで無類の強さを誇っており、ニキ・テルプストラ、フィリップ・ジルベールなどのクラシックハンターを擁して、近年は爆発的な勝利を収めています。

「2016年ツール・デ・フランドル カンチェラーラの敗北」(YouTube)

②ファビアン・カンチェラーラの超人的なアタック

「ツール・デ・フランドル」の名場面としてはこれを外すわけにはいきません。タイムトライアルスペシャリストとして、クラシックレースでは数多くの独走劇を披露したカンチェラーラ。そのレーススタイルは時に超人的と言えるアタックを披露し、伝説的なレースを数多く残しています。そんなカンチェラーラの伝説として語り草となっているのが、2010年大会です。石畳の激坂「カペルミュール」を前にして、トム・ボーネンとの一騎打ちとなっていたのですが、坂の中腹で爆発的なアタックを披露し、瞬く間にボーネンとの差を広げていきました。その衝撃的なアタックに、カメラがカンチェラーラを見失うほどのスピードで、レースを見た誰もが目を疑いました。そのアタックが決定打となり、残り距離を圧倒的な独走でゴールをし、自身初の「ツール・デ・フランドル」優勝を果たしました。

4.「ツール・デ・フランドル」を深く知るためのキーワード

最後に「ツール・デ・フランドル」を詳しく知るために理解しておくと便利なキーワードを解説していきます。レース中に何気なく登場する言葉だったり、「ツール・デ・フランドル」をより深く楽しむためのものを紹介していきます。

①ミュール

「ミュール」とは、フランス語で「壁」という意味になります。壁のような激坂を指す言葉なのですが、「ツール・デ・フランドル」では、石畳の激坂区間が登場し、区間ごとに「ミュール・○○」という名前がついています。時には、斜度20%を超えるような激坂も珍しくなく、転倒する選手、自転車を肩に担いで走る選手なども多く見られます。
代表的なミュールとしては「コッペンベルフ」「カペルミュール」などがあります。レースの中で、この言葉がでてきたら注目してください。

②モニュメント

自転車ロードレースでは、ワンデーレースのことを「クラシック」という呼び方をします。
そして、クラシックの中でも特に古い歴史があり、格式の高いレースを記念碑という意味を込めて「モニュメント」と呼んでいます。
モニュメントには5つのレースが含まれており、「パリ・ルーベ」「ツール・デ・フランドル」「ミラノ・サンレモ」「リエージュ・バストーニュ・リエージュ」「イル・ロンバルディア」があります。
「ツール・デ・フランドル」の歴史の深さ、レースとしての価値の大きさが理解できると思います。

5.まとめ

本当に強いライダーだけが勝利を収めることができる過酷を極めたレース「ツール・デ・フランドル」。自転車王国ベルギーを代表するレースでもあるので、自転車ロードレースに興味を持ったなら1度は見て欲しいです。

※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

関連記事一覧