フレッシュ・ワロンヌ:ゴール前に立ちはだかる「ユイの壁」

毎年4月中旬から下旬にかけて繰り広げられる「アルデンヌ・クラシック3連戦」。オランダのリンドルブ州で行われる「アムステルゴールドレース」とベルギーのアルデンヌ地方で行われる「リエージュ・バストーニュ・リエージュ」「フレッシュ・ワロンヌ」の3レースのことを指しますが、どのレースも細かいアップダウンを含んだコース設定がなされており、他のレースとは異なった特色を見せています。今回紹介するのは、ゴール前の「ユイの壁」に代表される「フレッシュ・ワロンヌ」です。

1.「フレッシュ・ワロンヌ」ってどんなレース?

「フレッシュ・ワロンヌ」は、毎年4月下旬にベルギーのワロン地域で開催されるワンデーレースです。
ベルギーのアルデンヌ地方をコースとして走るレースでもあり、細かいアップダウンに富んだアルデンヌ・クラシックを象徴するようなレイアウトとなっています。
ゴール前には、毎年恒例の「ユイの壁」と呼ばれる最大勾配20%を超える急坂が待っており、200㎞近くを走行してから、最後の激坂勝負を分かつレースとなります。例年「ユイの壁」の破壊力が強力すぎるため、レースの流れとしては、ユイの壁一本勝負といった展開になることが多いのですが、「ユイの壁」に入るまでの位置取り争いであったり、エースをどれだけ温存してユイの壁に送り込めるかが重要となります。
このような特徴を持っているレースであるため、「フレッシュ・ワロンヌ」で勝利を収めるのは、「ユイの壁」との相性がいい選手に絞られます。
「ユイの壁」は登坂距離1.3㎞、平均勾配9.6%、最大勾配20%以上の激坂となっており、単純な登坂力だけではなく、上り坂でのスプリント力も重要となってきます。そのため、ヒルクライムの能力とパンチ力を併せ持った選手が毎年優勝争いの名を連ねます。

2.2018年の「フレッシュ・ワロンヌ」を振り返る

2018年に行われたフレッシュ・ワロンヌを振り返っていきましょう。
まず、優勝候補として注目を集めていたのが、2014年から2017年大会にかけて4連覇を達成しているアレハンドロ・バルベルデ(モビスター)です。2006年大会でも優勝を果たしており、「フレッシュ・ワロンヌ」では歴代最多5回の優勝を経験しています。グランツールでも総合優勝の経験を持つ登坂力と、スプリンターに交じっても遜色のないスプリント力を武器に、「ユイの壁」では絶対的な愛称を誇っています。前年までの4大会では、圧倒的なスプリント力を武器に他を寄せ付けない盤石の走りを見せており、今大会でも絶対的な優勝候補としてマークされていました。
そのバルベルデの5連覇を阻むべく出場したのが、フランスの若きパンチャー、ジュリアン・アラフィリップ(クイックステップフロアーズ)、例年表彰台に上る活躍を見せるもバルベルデに敗れているダニエル・マーティン(UAEチームエレミーツ)、上りもこなせるスプリンター、マイケル・マシューズ(チームサンウェブ)を始め、バウケモレマ(トレック・セガフレード)、ティム・ウェレンス(ロット・ソウダル)、ロメン・バルデ(AR2G)などが参戦しました。

レース展開は例年同様に最後の「ユイの壁」の手前に来るまでは、各チーム積極的な動きは見せず、落ち着いた展開となりました。メイン集団は、モビスター、UAEチームエレミーツ、クイックステップフロアーズが中心となってコントロールを続けていきます。
次第に、バルベルデをマークしている他チームが積極的な動きを見せていきます。残り30㎞地点では、各チーム積極的な動きを見せ、逃げを形成したり、激しい位置取り争いが繰り広げられます。
最後の「ユイの壁」には、先頭集団の10秒遅れでメイン集団が入りましたが、ハイペースで差を縮めていき、先頭を捉えていきます。
ユイの壁の急こう配が続く中、勝負は本命のバルベルデ、アラフィリップ、ティム・ウェレンスなどに絞られます。ラスト150m付近からアラフィリップがペースを上げ、スプリントに入り、それに追随する形でバルベルデらが猛追を繰り広げました。しかし、最後までペースが落ちなかったアラフィリップがそのままフィニッシュラインを通過。自身初となる「フレッシュ・ワロンヌ」優勝を達成し、バルベルデの5連覇を阻みました。

例年であれば、ゴール前のスプリント勝負で絶対の強さを誇っていたバルベルデでしたが、伸び盛りのフランス人パンチャーに惜しくも優勝を明け渡す形になりました。
ここ数年、「ユイの壁」で絶対的な強さを誇っていたアレハンドロ・バルベルデですが、2018年大会によって、その勢力図が大きく塗り替えられた結果となるレースでした。

3.「フレッシュ・ワロンヌ」の過去を振り返る

1936年から始まった「フレッシュ・ワロンヌ」。2018年までに77回を数える歴史のあるレースとなっています。ここでは、「ユイの壁」に代表されるクラシックレース「フレッシュ・ワロンヌ」の過去を振り返っていきましょう。

①過去10年の優勝者

2009年から2018年の優勝者の一覧です。

2009年 ダヴィデ・レッベリン
2010年 カデル・エヴァンス
2011年 フィリップ・ジルベール
2012年 ホアキン・ロドリゲス
2013年 ダニエル・モレノ
2014年 アレハンドロ・バルベルデ
2015年 アレハンドロ・バルベルデ
2016年 アレハンドロ・バルベルデ
2017年 アレハンドロ・バルベルデ
2018年 ジュリアン・アラフィリプ
引用:PCS

近年では、バルベルデの4連覇など圧倒的な強さが目立ちます。例年「ユイの壁」での勝負となるレースでもあるので、「フレッシュ・ワロンヌ」を制するには、単純な登坂力だけではなく、激坂を加速しながら登っていくスプリント力も必要となります。
その中で、過去にはフィリップ・ジルベールのようなパンチャーが優勝を果たしていたり、カデル・エヴァンスなどの総合系のライダーが優勝する年もありました。
バルベルデの牙城が崩れた2018年大会でしたが、今後アラフィリップやダニエル・マーティンなどとどのような勝負を繰り広げるのか注目です。

②「アレハンドロ・バルベルデ」

「フレッシュ・ワロンヌ」をかたる上でアレハンドロ・バルベルデの活躍を外すことはできません。歴代最多の通算5回の優勝、そして2014年から2017年の4連覇を含め、このレースでは絶対的な強さを誇っています。
アレハンドロ・バルベルデは、「真のオールラウンダー」と形容される選手で、グランツールでは、2009年のブエルタ・ア・エスパーニャ総合優勝を始め、クラシックレースでの数々の勝利、時にはスプリントでのステージ優勝を飾るなど、上りも平坦もこなせるライダーです。
2018年には、自身初となる世界選手権制覇を達成し、来シーズンはアルカンシェルを着用した姿を見ることができます。
現在38歳の大ベテランではありますが、その強さはとどまることを知りません。フレッシュ・ワロンヌ2018年大会は惜しくも2位となりましたが、今後も彼を中心にレースが展開されていくことは間違いありません。

4.「フレッシュ・ワロンヌ」を深く知るためのキーワード

最後に「フレッシュ・ワロンヌ」を詳しく知るために理解しておくと便利なキーワードを解説していきます。レース中に何気なく登場する言葉だったり、「フレッシュ・ワロンヌ」をより深く楽しむためのものを紹介していきます。

①「ユイの壁」

「フレッシュ・ワロンヌ」の走行距離200㎞のうち、わずかな距離しか含まれていない「ユイの壁」ではありますが、レース全体の重要度のほとんどを占めているという存在感を示しています。登坂距離1.3㎞、平均勾配9.6%、最大勾配20%以上という激坂は、「よじ登る」という表現がしっくりくるほどの破壊力を有しています。
「ユイの壁」には、路上に「HUY(ユイ)」というペイントが施されるなど、国を代表する坂道としてファンに愛されています。

②「位置取り争い」

例年「ユイの壁」での勝負となる「フレッシュ・ワロンヌ」ですが、そこで重要となるのが、「ユイの壁」に入るまでの位置取り争いです。「ユイの壁」に入った時点で、集団の後方に位置していた場合、ほぼ勝機はありません。そのため優勝候補のエースを抱えるチームは、「ユイの壁」に入る数10㎞前から激しい位置取り争いを繰り広げます。
どうしても「ユイの壁」の存在感が大きすぎるので、注目が集まりがちですが、そこに至るまでの過程にもあらゆる勝負が行われているので、ぜひ注目してみてください。

5.まとめ

「フレッシュ・ワロンヌ」についてまとめていきました。「ユイの壁」という自転車ロードレースファンならお馴染みの坂が毎年登場する魅力的なレースです。例年同じようなレース展開となるのですが、「ユイの壁」での激戦は他のクラシックレースにはない、唯一無二の激しさがあります。

※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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