ピンク・フロイド:その音楽性は3期に渡って形成された

プログレッシブロックの代表格として君臨するピンク・フロイド。実は初期のピンク・フロイドはプログレでなく、サイケデリックなサウンドでした。それを形成したのは初期のリーダー、シド・バレットです。2期目はプログレとしてサウンドやアルバムコンセプトを生んだロジャー・ウォーターズ。3期目は爽快なアート性を提示したデヴィッド・ギルモア。この3人がリーダーとしてピンク・フロイドの音楽性を引っ張っていきました。その移り変わりを見ていきましょう。

ピンク・フロイドは、5大プログレッシブ・ロックバンドの1つにして、最強のロックバンドとも言われています。その音楽性は浮遊感や神秘性をまとうアート性と圧倒的なコンセプト力です。実験的な音楽を繰り返しながら音楽を追求していったバンドです。

実験的な音楽と聞くと、商業的には売れていない、世間には認知されないというイメージがありますが、ピンク・フロイドはそんなことはありません。

ピンク・フロイドのアルバム「The Dark Side of the Moon(狂気)」は、5000万枚の売り上げを達成しています。またアメリカのビルボードチャートでは、741週チャートインを果たしていてギネス記録にも登録されています。このアルバムの売り上げは、マイケル・ジャクソンの「スリラー」に次いで、世界で2番目という快挙です。

今回はそんなモンスターバンドであるピンク・フロイドを3期に分けて紹介します。これはリーダーごとに分けたもので、期ごとにピンク・フロイドの音楽性がゴロッと変わるのです。

シド・バレットのサイケ音楽

ピンク・フロイドは1965年に建築学校の同級生など6人で組んだ「シグマ6」というバンドから始まりました。このときにはピンク・フロイドとして定着するメンバーのロジャー・ウォーターズ、ニック・メイスン、リチャード・ライトの3人がいました。

その後はメンバーチェンジやバンド名を変更していき、初期のピンク・フロイドのリーダーとなるシド・バレットが加入します。4人となってピンク・フロイドというバンド名に変更したのです。初期のリーダーでピンク・フロイドのサウンドを形作ったのはシド・バレットだったのでした。

ピンク・フロイドがファーストアルバムをリリースしたのは1967年のことです。この時代に流行していた音楽といえば、サイケデリックロックでした。どのバンドもこぞってサイケサウンドに取り組み、独自の音を追求していた時代だったのです。

シド・バレットもその当時の流行に乗り、サイケのサウンドを取り込み、完成させたのがファーストアルバムの「The Piper at the Gates of Dawn(夜明けの口笛吹き)」です。ただ流行に乗っただけの二番煎じバンドなら、デビューのアルバムが全英6位という成功を収めることはなかったでしょう。

シド・バレットはサイケ音楽の中に、どこか倦怠感や浮遊感を抱かせるような音楽を聴かせてくれるのです。LSD中毒のグルグルとしたサイケ感とは違い、身体が軽くなるような眠りに入る直前のような感覚になるのです。

このピンク・フロイドの浮遊感や倦怠感が後のモンスターアルバム「The Dark Side of the Moon(狂気)」にも繋がっているように感じます。シド・バレットがピンク・フロイドで生んだ音楽は、サイケの中に浮遊感や倦怠感を感じさせる独特な音だったのです。

しかしシド・バレットはその後、LSDの中毒がひどくなっていき、まともに演奏できるような状態ではなくなってしまいます。ここでシド・バレットのサポートとして加入したのが、美しいギターを響かせるデヴィッド・ギルモアです。ピンク・フロイドのサウンドにはなくてはならない存在になります。

ちなみにデヴィッド・ギルモアではなく、ジェフ・ベックにもオファーがあったようですが、ジェフ・ベックの都合が悪く加入しなかったと言います。

ロジャー・ウォーターズのコンセプト性

シド・バレットが参加したアルバムは1枚目と2枚目のみとなり、2枚目に関してはほとんど参加していません。シド・バレットのサイケサウンドを聴けるのは実質1枚目の「The Piper at the Gates of Dawn(夜明けの口笛吹き)」だけになります。

しかしシド・バレットが脱退し、残されたメンバーは頭を抱えます。なぜならシド・バレットがバンドの中心にいたからです。ファーストアルバムでは11曲中8曲がシド・バレット作曲でした。

ここで舵を取ったのが「シグマ6」からのメンバー、ロジャー・ウォーターズです。ロジャー・ウォーターズはサイケ時代の浮遊感や倦怠感を残しつつも、アート性の高い実験的な音楽を目指します。
そんな中1970年にリリースした「Atom Heart Mother(原子心母)」が全英初の1位を獲得します。アルバムタイトルにもなっている冒頭の曲「Atom Heart Mother」は、いまだに聴いても素晴らしいと感じます。
「これが1970年の音楽なのか!」と、最初に聴いたときは衝撃的でした。正直この時代の音楽としては数歩先、いや何十歩先を進んでいたのではないでしょうか。壮大な宇宙が自分の中に吸収されていくような不思議な感覚で、24分にもなる超大作なのに聴きやすいのです。

このアルバムのリリースから、ロジャー・ウォーターズはコンセプト性を中心にしたアルバムを作り続けます。1971年には「Middle(おせっかい)」を発表し、最後の曲「Echoes」で、ピンク・フロイドのアーティストとしての才能が開花したとピンク・フロイド自身が語っています。

そして1973年に最高のコンセプトアルバム「The Dark Side of the Moon(狂気)」をリリースするのです。「人間の内面に潜む狂気」がテーマになっていて、曲ごとのコンセプトもはっきりとしています。言葉がわからなくても、なんとなく言っていることがわかる感じがするのです。それがこのアルバムの素晴らしいところでもあります。

サイケ時代から続いた浮遊感や倦怠感は70年代のどのアルバムにも垣間見えます。後半になるにつれて徐々に薄れていくものの、コンセプトを追求したプログレ時代はロジャー・ウォーターズの独裁状態にメンバー間に亀裂が入り終焉を迎えるのです。

デヴィッド・ギルモアのアート音楽

「The Dark Side of the Moon(狂気)」の人気の獲得もあり、ロジャー・ウォーターズは視聴者側への怒りやメンバーへの独裁などが顕著に現れてきます。セッション中には初期からずっと一緒に活動してきたリチャード・ライトを解雇するなど、バンド内には大きな亀裂が入ってしまいました。そしてロジャー・ウォーターズはバンドを脱退します。

その後に残ったメンバーは、デヴィッド・ギルモアとニック・メイスンの2人だけでした。周りの人々は解散だと噂しましたが、デヴィッド・ギルモアはピンク・フロイドを続けると公言し、デヴィッド・ギルモアをリーダーとした新生ピンク・フロイドが完成するのです。

もちろんピンク・フロイドのコンセプト性や浮遊感、倦怠感は残しつつのサウンドなのですが、これまでのピンク・フロイドとはまた大きく違います。どこか風がなびくような清涼感があるのです。白色で無機質で、水で例えるなら軟水ではなく硬水のような味わいなのです。

そしてデヴィッド・ギルモアの美しいギターが以前のアルバムよりも顕著に現れている気がします。デヴィッド・ギルモアがリーダーだからということもあるかもしれませんが、ギターがとにかく美しく聴きやすいです。

正直この時期のピンク・フロイドは低迷期といっても良いでしょう。ロジャー・ウォーターズが脱退したのが1985年であり、その後1987年に「A Momentary Lapse of Reason(鬱)」をリリースしています。しかしこのアルバムのほとんどの曲がデヴィッド・ギルモアがソロで収録した曲だったのです。メンバーであるニック・メイスンはほとんどドラムを叩いていないようです。

その後は1994年に「The Division Bell(対)」をリリース。2014年に「The Endless River(永遠)」をリリースしただけです。デヴィッド・ギルモアがリーダーになってからは、ほとんど活動が見られないのが現状です。また「The Endless River(永遠)」は、リチャード・ライト(ロジャーに解雇されたメンバー)が亡くなったことを受けて、リチャード・ライトのトリビュートアルバムとして作成されました。デヴィッド・ギルモアは「これが最後のアルバムになる」と公言しています。

ピンク・フロイドのその後

現在では活動もしていないピンク・フロイドですが、3期に渡るバンドのリーダーの努力があり、独特な音楽性は完成されたと言えます。特に独裁的になってしまったロジャー・ウォーターズの精力的な活動が大きく作用しているのではないでしょうか。

シド・バレットがバンドの音楽的な雰囲気を決定し、脱退してからはロジャー・ウォーターズの音楽への探究心と作り上げたい音楽を目指し続けたところが、ピンク・フロイドのサウンドを世界に広めたように感じます。

これからピンク・フロイドがアルバムをリリースすることはもうないでしょう。そしてチャリティーなどのライブはあるかもしれませんが、今生きているメンバーが再度同じステージに立つこともないかもしれません。

シド・バレットやリチャード・ライトはすでに亡くなっていますが、ロジャー・ウォーターズやデヴィッド・ギルモア、ニック・メイスンは個人で音楽活動を行っています。ピンク・フロイドに興味がある方は、個々のアルバムを聴いてみても良いでしょう。ピンク・フロイドとは違った個々の魅力が垣間見れますよ。

Pink Floyd | The Official Site
Pink Floyd – YouTube

※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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