資源開発:北極の開発に中国が参入してホットな地域に変貌

 北極海の開発はロシア、アメリカなど沿岸の北極協議会(AC)参加8ヵ国が主役だったが、2018年1月、そのオブザーバーの中国が「北極政策白書」を発表。一帯一路政策に基づく「氷上のシルクロード」構想に乗り出し、主役級に躍り出た。地球温暖化で海氷が溶けて航行しやすくなった北極海航路は南回りより短く、中国にとってメリットが大きい貿易ルート。また、世界の未発見で技術的に採掘可能な資源の約22%は北極圏にあるといわれ、中国はロシア・ヤマル半島のLNG開発プロジェクトに参加している。

中国が北極海を「シルクロード」と呼ぶ理由

 2014年11月10日、北京で開かれたAPEC首脳会議で、中国の習近平国家主席は「一帯一路」構想を提唱した。「現代のシルクロード」とも呼ばれる広域経済圏構想で、かつて中国から中央アジア方面へ通じていた陸のシルクロード(絹の道)だけでなく、海のシルクロードと呼ばれた中国の南岸から東南アジア、スリランカ、アラビア半島、アフリカ東岸を結ぶ海上交通路も含まれる。中国はそれを「21世紀海上シルクロード」と呼んでいる。
 だが実は、中国はもう1本、3本目のシルクロードも想定している。それは中国東岸から日本列島、千島列島の沖を通ってベーリング海峡を通過し、北極海を経由してヨーロッパ大陸に至る北極回りのシルクロードだ。
 中国は「氷上のシルクロード」と呼んでいるが、これは21世紀海上シルクロードに対する大きなアドバンテージがある。中国−ヨーロッパ間の航路の長さは、インド洋・スエズ運河経由の1万1300海里(2万928キロ)に対し、北極海経由は7600海里(1万4075キロ)で、およそ3分の2に短縮できる。

 北極海航路は燃費の悪い砕氷船や耐氷船が必要で、スピードも遅くなるが、それでも燃料費が最大50%も節約でき、皮肉にも地球温暖化のおかげで二酸化炭素の排出量が減る。所要日数は南回りの約40日から10〜20日(約25〜50%)短縮され、運賃も少なくてすむ。交易に有利な「第三のルート」ゆえに、中国はそれをシルクロードと呼ぶ。
 2018年1月26日、中国は「北極政策白書」を発表し、北極海経由の氷上のシルクロードに進出すると、改めて宣言した。

地球温暖化で利用しやすくなった北極海航路

「氷上の」シルクロードと言っても、船舶は氷の上を航行できない。北極海では氷のない海域を選んで航行するか、薄い氷なら先導する砕氷船がそれを割り、航路を切り開いてその後を貨物船が航行できる。当然、夏限定だが、地球温暖化のおかげで氷のない海域が大きくひろがり、航行可能日数も増えている。
 北極海航路の開拓に最初に挑んだのは16世紀のオランダの探検家バレンツ(Barentsz)だったが、極東への到達は成功せずバレンツは非業の死を遂げた。当時は14〜19世紀半ばの「小氷期」で、夏でも船舶の航行は困難だった。小氷期が終わった後の1879年、フィンランド人探検家ノルデンショルド(Nordenskiold)が初めて船舶による北極海通過に成功し、極東の日本に到達した。20世紀、ロシア革命後のソ連では北極海航路の開拓が進んだが、改良された砕氷船でも航行可能なのは夏の2ヵ月ほどで、シベリア鉄道の輸送を補完する程度にとどまっていた。

 それが現在は、ロシア側の沿岸は夏になると全く氷のない海域が大きくひろがり、航行はおおむね7月から11月頃まで可能で、地球温暖化の恩恵を受けている。「2030年頃には夏、流氷が消える」「将来は真冬でも砕氷船で航行できる」という見通しまである。
 1992年のソ連崩壊後、北極海航路は衰退していたが、近年はムルマンスクなど拠点港湾の整備が進み、2017年、北極海航路の貨物輸送量は過去最高の970万トンに達した。ロシア政府は「2025年までに10倍に増える」と想定し、航路や港湾の整備、砕氷船や耐氷船の建造をさらに進める構えである。プーチン大統領は2018年3月、年次教書演説で「北極海航路を、正真正銘のグローバルかつ競争力のある輸送ルートにする」と強調した。

北極海開発の脇役、中国が主役に躍り出た

 北極海の沿岸国は時計回りにロシア、ノルウェー、アイスランド、デンマーク(グリーンランド)、カナダ、アメリカ(アラスカ州)で、それにフィンランド、スウェーデンを加えた8ヵ国が「北極協議会(AC)」の正式メンバーである。北極協議会が南極条約のような国際ルールの確立を目指す一方で、各国とも北極開発の戦略的なプロジェクトを打ち出しているが、ロシアとアメリカの存在感が大きい。ロシア、ノルウェー、デンマーク、カナダ、アメリカの5ヵ国は、国際海洋法を根拠に北極海に排他的経済水域(EEZ)を設定している。
 北極協議会にはその他、オブザーバーとして英国、ドイツ、フランス、韓国、日本、中国が参加している。中国の「氷上のシルクロード進出宣言」は、それまで北極海開発の脇役にすぎなかった国が一躍、主役に躍り出たことを意味する。中国の北端はロンドンとほぼ同緯度で北極圏(北緯66度以北)は遠いが「わが国は北極圏に一番近い国の一つ」「北極の利害関係国」と強引に主張している。
 もっとも中国は、以前から着々と布石を打って準備を進めてきた。2004年、ノルウェー領スバールバル諸島に北極観測の「黄河基地」を設置。排他的経済水域を設定していないアイスランドに接近して協定を締結した。習近平国家主席は2017年、北極協議会加盟国のロシア、フィンランド、ノルウェー、デンマークの首脳と相次いで会談した。2010年には、ロシア・ヤマル半島の天然ガス資源開発プロジェクトに、ロシアの資源大手ノヴァテク、フランスの石油メジャーのトタルとともに、中国のペトロチャイナ(CNPC/中国石油)が参加している。

ロシア・ヤマル半島のLNGプロジェクト

 シベリアの大河オビ川の河口近く、北極海に突き出したヤマル半島は不毛なツンドラ(永久凍土)地帯で、少数民族がトナカイの牧畜を営んでいるが、その地下には「ロシア最大級」ともいわれる天然ガス資源がある。

 北極圏は鉱物資源が豊富で、アメリカ地質調査所は2018年、「世界の未発見で技術的に採掘可能な資源の約22%は北極圏にある」と報告している。未確認ながら埋蔵量は、原油は世界の13%、天然ガスは世界の30%が北極圏に眠っているという。
 ヤマル半島ではロシア、中国、フランスの企業が組んだ北極圏最大のLNG開発プロジェクトが進んでいる。モスクワから通じる鉄道も道路もないので、もっぱら北極海航路で資材が搬入され、天然ガス田、パイプライン、LNG(液化天然ガス)生産基地や、東部海岸に輸出積出港のサベッタ港や空港も建設された。中東産よりも低コストが売り物のLNGの商業生産は2017年から始まり、生産量は当初年間550万トンで、フル稼働する2019年、1650万トンへの増産を目指している。
 2017年12月8日、プーチン大統領臨席のもと、最初のLNG砕氷タンカーがサベッタ港を出港した。LNGは北極海航路を経由してヨーロッパとアジアに運ばれ、中国には年間400万トンを供給する計画である。この量は中国のLNG年間輸入量の約8%に相当する。なお、近接地では年2000万トンのLNGを生産する第二次計画がすでに動き出している。

中国とロシアが手を結んでアメリカに対抗

 中国が北極政策を積極化した理由は、まず第1に北極海航路を開拓して「世界の工場」中国からヨーロッパへの製品輸出ルート(シーレーン)を「二重化」する意図がある。南シナ海の南沙諸島問題で対立する東南アジア諸国、治安の悪いマラッカ海峡、政情不安がある中東を経由する南回り航路に比べれば、北極海航路はそれを管理し船舶航行の許認可権を持つロシアとの友好関係さえ保っていれば、まず問題はない。もし、主力の南回り航路が利用できない事態が起きても、北極海経由という別の輸送ルートで代用できる。中国は砕氷船をロシアやフランスや日本に頼っていたが、2018年9月、中国初の国産砕氷船「雪竜2号」が上海で進水している。
 第2の意図は資源、エネルギーの大量消費国ゆえの天然資源の確保で、ロシアのシベリア北部に眠る鉱物資源を、トラックやシベリア鉄道の陸路経由よりもコストが安い北極海航路を使い、大量に中国へ運ぶことができる。ヤマル半島のLNGに続き、ロシアが権利を主張する北極海大陸棚の資源開発プロジェクトでも中国企業がロシアの国営石油会社ロスネフチと協議を進めている。「北極政策白書」では中国企業に、北極海航路の利用とともに北極圏の資源開発への参加も促している。
「北極政策白書」では沿岸国の主権や管轄権を尊重するとも明記している。中国の北極地域への関心はもっぱら経済的な利益で、南シナ海のような軍事的な意図がないことをはっきり示した。北極海周辺国も経済で共存共栄が図れるので、中国をそれほど警戒していない。中国は北極海を国際貿易ルートとして共同利用しようと、同じ極東にある韓国や日本とも協力する姿勢をみせている。
 長い国境を接する中国とロシアの関係は、北朝鮮やシベリアなど極東方面では地政学的に複雑で経済面でも摩擦があり、必ずしも友好的とは言いがたいが、中央アジア方面や北極海方面では事情が異なる。北極海ではアメリカが石油や天然ガスの資源調査を積極化させており、それに対抗する意味でもロシアは中国とタッグを組もうとしている。
 ウクライナ問題で中国がロシア寄りの姿勢をみせたことも好感を持たれた。クリミア半島の併合に抗議してアメリカが対ロシア制裁に踏み切り、ヤマル半島のLNGプロジェクトが資金調達難に陥った時、中国政府はシルクロード基金(Silk Road Fund)からプロジェクト全体の9.9%分を新たに出資して救いの手を差し伸べた。中国はヤマル半島にトータルで約120億米ドルを投資している。そんな経緯もあり、北極海周辺の経済開発は今や「中国・ロシア連合」対「アメリカ」という構図になっている。

 北極は、まぎれもなく新しい経済フロンティアであり、北極海航路の管理権を持つロシアと戦略的に手を結んだ中国は、北極圏の資源開発でも堂々と主役を張るプレイヤーになったと言えるだろう。

※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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