スティーヴ・ハリス:元祖速弾きベーシスト!

ヘヴィ・メタル・バンドとして長い間第一線で活躍しているアイアン・メイデン。そのリーダーであり重爆撃機を思わせるヘヴィなサウンドの要でもあるのがベースのスティーヴ・ハリスです。恐ろしいまでの高速フィンガー・タッピングのせいで、4本の指全てで弾いているのではないかと言われたスティーヴ・ハリスの魅力を見てみましょう。

鋼鉄の処女!アイアン・メイデン

アイアン・メイデンは、1975年、イギリスはロンドンでスティーヴ・ハリスによって結成されました。レコードの通算セールスは1億枚を越え、世界で最も成功したヘヴィ・メタル・バンドの1つとして数えられる彼らですが、メンバーが安定したのは大きなブームメントの去った1990年になってからです。
とは言っても、もっともアイアン・メイデンらしいと思えるメンバーは、ボーカルにブルース・ディッキンソン、ドラムにニコ・マクブレイン、ギターはエイドリアン・スミスとデイヴ・マーレイのツインギター、そしてベースにスティーヴ・ハリスというラインナップですから、1981年には、すでに完成されていたことになります。
アルバム的に言えば、アメリカ、イギリス、カナダでプラチナ・アルバムを獲得した3枚目のアルバム「The Number of the Beast」を発表した時点で、すでにこのメンバーで活動しており、世界的なヘヴィ・メタル・バンドとして認知されるきっかけとなりました。

スティーヴ・ハリスの愛器

スティーヴ・ハリスと言えば、フェンダー・プレジジョンベース、と返ってくるくらい徹底して同器を使い続けています。
ライブやレコーディング風景を撮影したビデオや写真を確認しても、他のモデルを抱えているスティーヴを目にすることはまずありません。
メインで使用しているプレジジョンは71年製で、ボディ材にはアッシュを使用、指板はメイプル製です。ボディカラーはたびたび変更する上に、スティーヴ自身が楽器のサビを病的に嫌うことから、ペグやブリッジが数ヶ月おきに交換されているため、つい新しいプレジジョンではないかと勘違いしてしまいますが、どれも同じベースのようです。
アッセンブリを見ると、トーンコントロールが外されていて直結されています。これはヴァン・ヘイレンなどのヘヴィメタルギタリストがよく行う改造で、トーンを直結することでトレブルが開放され、さらにコンデンサーによる音の劣化が防げるため、よりブライトでヘヴィな音を出すことができるのです。
同様に改造されたプレジジョンの他には、フェンダー社から発売されているシグネイチャーモデルも使用しています。白い美しいボディに印刷されたお城を思わせるシンボルは、かつてスティーヴが参加していたサッカーチーム「West Ham United FC」のロゴです。
少年時代、将来を有望視されたサッカー選手でもあったスティーヴは、このチームのユースチームで活躍していたのだそうです。
弦は、他の多くのヘヴィ・メタル・バンドのベーシストと違い、巻きのないフラットワウンド弦を使用しています。サイズは0.50,0.75,0.95,0.11と言いますからかなりヘヴィなサウンドが出ることは間違いありませんが、フィンガーピッキング+フラットワウンドでは音がこもりやすいという欠点があります。
スティーヴは、弦を叩くという独特の奏法を用いているため、フラットワウンドでもクリアな音を実現させているのです。

スティーヴ・ハリス奏法

最大の特徴は、指で弦を叩くようにして音を出すスティーヴ独特のスタイルにあります。通常、指でベースを弾く場合は、人差し指と中指を鈎状に曲げて、弦を引っ掛けるようにして音を出します。
ところが、スティーヴの場合は、指は曲げず伸ばしたまま弦を叩くようにして音を奏でるのです。普通に弾くよりも指の動きが大きく速いため、現在のように映像文化が進んでいなかった昔には、4本の指全てを使って弾いているのではないかと噂になったほどです。
また、この奏法では常に弦をチョッパー感覚で叩くためフラットワウンドでも音がこもりづらく、シャープでヘヴィなサウンドが得られやすいという特徴があります。
スティーヴは、誰かに楽器を教わったことがなく、ベースも独学で習得したためにこのような特殊な奏法を身につけることができたのだと考えられます。

スティーヴ・ハリスのおすすめアルバム

2012年にソロアルバムを出していますが、スティーヴの真骨頂はやはりアイアン・メイデンにおけるサウンドにあると言えるでしょう。
まず、アイアン・メイデンの出世作とも言える3枚目のアルバム「The Number of the Beast」は外せません。今やアイアン・メイデンの顔とも言えるブルース・ディッキンソンが加入してはじめてのアルバムでもあり、楽曲の完成度の高さ、演奏力のたしかさなどどれをとっても最高傑作の呼び声が高いアルバムに仕上がっています。

スティーヴのベースラインが飛び抜けてかっこいいと感じるアルバムが「Power slave」です。「Aces High」の印象的なリフで始まるこのアルバムは、アイアン・メイデン通算5枚目の作品でデイヴ・マーレイとエイドリアン・スミスのツインリードとスティーヴの高速ベースがハイテンションで絡み合う傑作となっています。

アルバムラストを飾る「Rime of the Ancient Mariner」は13分を超える大作で、ドラマチックな展開がいかにもアイアン・メイデンらしさを感じさせてくれます。
ターニングポイントと言われたのが、6枚目のアルバム「Somewhere in Time」です。このアルバムからアイアン・メイデンはシンセサイザーを導入するようになります。ハードロック、ヘヴィメタルの雄と呼ばれていた彼らがシンセサイザーを導入したことは、当時、ファンの間でも賛否両論の意見がかわされました。しかし、蓋を開けてみればこのアルバムはアメリカで最高11位を記録するヒットアルバムとなったのです。純粋なヘヴィメタルと言うよりは、イエスなどのプログレミュージックに近い構成になっているのですが、そこは、やはり天下のアイアン・メイデンです。強烈なビートとしつこいばかりのギターリフ、スティーヴの高速ベースラインは健在で、ヘヴィ・プログレ・ロックとしてきちんと昇華されています。

アイアン・メイデンを支えたメンバー

2018年時点では、一時バンドを離れていたエイドリアン・スミスの代わりに加入したヤニック・ガーズを加え、トリプル・リードギターの6人編成で活動を続けています。
1985年には、ロニー・ジェイムス・ディオの提唱によって発表された「Hear N’ Aid-Stars」にエイドリアンとデイヴが参加し、息の合ったツインリードを披露しています。
3枚目のアルバムから参加しているブルース・ディッキンソンは、広い声域とアグレッシブなライブパフォーマンスでバンドの成功に大きく貢献してきました。
ブルースは音楽だけでなく、マルチな才能を持っている人物としても知られています。スポーツでは23歳の時にフェンシングで全英7位に入った他、クリケットの選手としての実力も相当なもので、一時、アイアン・メイデンを離れていた時は、イギリス代表として世界中を飛び回っていたこともあるほどです。
また、文才もあり小説家として本を執筆している他、映画の脚本なども手がけています。
そして、他のロックミュージシャンと一線を画す資格と言えば、パイロットとしての免許を持っていることでしょう。
それも、通常の自家用セスナなどの免許ではなく、商業用のしかもジャンボジェットの操縦までできてしまうのです。
実際、ブルースはイギリスのアストライオス航空会社で、座席数が300席近くもあるボーイング757を操縦していました。
現在でも、アイアン・メイデンがワールドツアーで使用する自家用ジェット機はブルースが操縦しています。
また、実質的なメンバーではありませんが、スティーヴの長女のローレンは、サポートメンバーß∑としてツアーに同行することもあり、長男のジョージは自らのバンドでアイアン・メイデンのオープニング・アクトを務めることもあります。

現在のアイアン・メイデン

2018年には、久しく行っていなかったワールドツアーを再開させています。行く先々の会場でソールドアウトが続き、相変わらずの人気の高さが伺えます。
アイアン・メイデンと言えば、世界で1億枚以上もアルバムを販売するトップバンドですが、なぜかロックの殿堂と縁がありません。すでに10年以上も前に資格を有しているにもかかわらず、その候補に上がったことすら無いのです。
メンバー自体はロックの殿堂そのものに関心はないと言っていますが、ヘヴィメタルの立役者とも言えるアイアン・メイデンを抜きにした殿堂では説得力に欠けるような気もします。

※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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