電気自動車:盛り上がるEV版「F1」

蒸気機関からガソリンで走る車へ。19世紀末から自動車の歴史に大転換が訪れた頃、レースというイベントの存在がその変革を後押しするひとつの重要なきっかけになった。そして、化石燃料から電気で走る車への革新が訪れようとしている今、歴史は繰り返すことになるのかもしれない。2014年の初開催から5年、電気の力を最大限に使って勝利を勝ち取る特別なレース「FIA Formula E Chanpionship」は、エキサイティングなエンターテインメントとして、さらなる進化を遂げようとしている。

●電動化の未来を賭けた戦い「Formula E」

専用に開発されたオープンホイールカーによるレースが、いわゆる「Formula」と呼ばれるカテゴリー。世界各国でレギュレーション別にF4、F3、F2などのクラスが展開されており、その頂点に君臨するのが「FIA Formula 1 World Championship」こと、通称F1だ。

そのF1を主催する組織FIAが、2014年から新しいモータースポーツのシリーズをスタートさせた。開催期間は年末に始まり翌年夏に終了、イベントそのものも市街地を閉鎖して設営する特設コースで行われるなど、F1と異なる部分は多い。

なにより違うのが、その動力源だ。現代のF1は排気量が1.6ℓのV型6ターボエンジンを搭載しているのに対して、新シリーズは電気モーターで走る。だからその名も「Formula E(Electric)」。世界の自動車メーカーが取り組んでいる電動化車両開発の、未来にも関わってくる戦いだ。

●F1よりも多彩?年々増えていく参戦メーカー

そのFormula Eが盛り上がっている理由のひとつが、参戦する自動車メーカーの多彩ぶりにある。「シーズン1」と呼ばれる開始当時の2014-2015年は、RENAULTとAUDIのセミワークスチームが参戦、他はほとんどが自動車メーカーの直接的なサポートを受けていない「プライベートチーム」だった。

しかし「シーズン」を経るにつれてPEUGEOT・CITROENのPSAグループのひとつ「DS」ブランドや、JAGUAR LANDROVERが「JAGUAR」ブランドで次々に新規参入。AUDIが完全なワークス体制となったこともあって、その注目度はますます高まっている。

そして2018-2019年の「シーズン5」、世界に先駆けて量産の電動乗用車を市販したNISSANが、満を持して参戦を決定。同時に、ドイツのモータースポーツ界を支えてきたBMWが、インディカー・シリーズなどで実績のある米国の名門「Andretti Motorsport」と組んで戦いに臨んだ。

さらに2019-2020年の「シーズン6」では、MERCEDES BENZやPORSCHEといった世界のレースシーンを席巻している強豪たちも続々参入と、ますます競争は激化し、だからこそ面白い展開が期待できるイベントへと進化しているのだ。

●勝敗を決する要素の数々。何が違って、何が同じ?

レース専用車両を使うということでF1は車体やデザインなど、レギュレーションに合致する範囲内なら、すべてがそれぞれに開発し熟成させることが許される。だがFormula Eの場合は、基本的に同じボディコンストラクターが提供する同じデザインの車体を使用する。

装着されるタイヤも、ミシュランのワンメイク。Formulaマシンとしては異例に大きな18インチというサイズは、市販タイヤへのフィードバックのしやすさを狙ったものだという。

それでも現在のレギュレーションでは、モーター、インバーター、トランスミッションといった基本的パワートレーンはチームごとのノウハウで設計、開発が許されている。バッテリーの容量はイコールコンディションなので、その限られた電気をどう効率よく使っていくか、エネルギーマネジメントの巧みさが、勝利の鍵を握る。

ダンパーなど足回りは素材こそ限定されるものの、設計変更が可能になったことで、レース全体の面白さが増しているのだった。

●「Gen-2」と呼ばれるマシンたちのバトルが面白くなる理由:速さ

レースを盛り上げるもうひとつのエッセンスが、使用されるマシンたちのバージョンアップだ。2018-2019年シーズンから、全チームでニューマシンが採用されることになった。

「Gen-2」(Generation two)と呼ばれる新型マシンは、レギュレーション変更によって、よりアグレッシブなレース展開を見せてくれる。

電気モーターの最大出力は従来の200kWから250kWに向上し、最高速度は225km/hから一気に280km/hに達している(決勝時は従来型が180kW、新型が200kWに絞られる)。0→100km/h加速はわずか2.8秒。電気モーターだから無音、それなのに強烈な加速を見せつけてくれる。

●「Gen-2」と呼ばれるマシンたちのバトルが面白くなる理由:航続距離

バッテリー容量はこれまで28kWhで、レースの途中でドライバーが一度マシンを交換しなければ80〜90kmの走行距離を走りきることはできなかった。しかし新型はほぼ倍に当たる54kWhとなり、不要な車両乗り換えは必要ない。つまり、エキサイティングなレース展開を集中力が途切れることなく楽しむことができる。

レースそのものも、これまでの決められた距離でタイムを競うのではなく、45分間走れるだけ走りそこから+1週のラストランで勝負を決める、速さと距離の長さを争うものになった。

●観光気分で楽しみたい、名所旧跡もある市街地サーキット

Formula-Eの特徴でもある市街地特設コースでの戦いは、単にレースだけでなくちょっとした観光気分も楽しむことができそうだ。たとえば2018-2019年は12の都市で13戦が争われた。

最終の2連戦が行われたアメリカ・ニューヨークやフランス・パリ、イタリア・ローマ、モナコ、ドイツ・ベルリン、香港といった定番の観光都市が、サーキットとして使われることとなった。そのシーンを想像しただけでも面白い。

さらに開幕戦の舞台となった、サウジアラビアのディルイーヤも興味深い。ここはかつて王政を布いていた時代の首都で、都市遺跡が数多く残る街。中心地区はユネスコの世界遺産に登録されている。

第2戦のモロッコ・マラケシュも趣ある旧市街など見どころたっぷりとなっている。どちらも、観光を兼ねてのレース観戦には最適だ。

●「FANBOOST」システムがファンの気持ちをひとつに

参戦メーカーが増えるとともに、ドライバー陣のラインナップもますます豪華になりつつある。現役も含めたF1ドライバー経験者も多いが、中でも注目を集めたのがVenturi Formula -E teamから参戦したFelipe Massaだった。

2017年にF1を引退した元チャンプが、いよいよ初参戦となった。ダイナミックな攻めの走りが印象的なドライバーだけに人気があり、Formula-Eでもモナコ-Prixで3位表彰台を獲得するなど戦いを盛り上げた。

そんなドライバーたちとファンを「一心同体」にしてくれるのが、Formula-E独自の「FANBOOST」と呼ばれる規定だ。これはTwitterなどSNSを使って行われる人気投票で選ばれた上位5人のドライバーに、本来のレギュレーションでは本戦中は使うことが許されない最大出力250kWを、数秒間だけフルに使えるようにするものだ。

基本、イコールコンディションで戦われる市街地レースは、なかなか抜きどころを見つけるのが難しい。だからこそ「FANBOOST」で生まれる数秒間のアドバンテージを生かすことで、ポジションを上げていくことが容易になる。まさにドライバーにとっては、強力な「応援」になりうるのだ。

●自宅でリアルタイムに「参戦」できるユニークなアプリ

世界中を転戦するFormula-Eだけに、住んでいる場所の近くで開催される可能性は決して少なくないだろう。ちょっと車を飛ばせば、観に行けそう、というラッキーな人にはひとつだけアドバイスをしたい。

レース会場には駐車場は用意されていない。そのため、車ではなく公共交通機関での来場が推奨されているようだ。もともとの「環境に優しいレース」というコンセプトの徹底が、観客側にも求められているということだろう。

そうそう簡単に観に行くことができそうにない、という人には、ちょっとユニークなアプリをご紹介しておこう。「Formula-E LIVE GHOST RACING GAME」と呼ばれるこのアプリは、現実にレースが展開されているときに、リアルタイムでゴーストレーサーとして戦いに参加することができる。

もちろん参加はバーチャル空間での話だが、世界の有名レーサーたちと本物のレーシングコースを舞台にリアルタイムバトルを繰り広げるなど、これまでは考えられないことだった。

Formula-Eというレースは、レースそのものの常識だけでなく、それを楽しむエンターテインメント性まで革新しようとしているのかもしれない。

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※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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