NAFTA:新協定USMCAで、世界はどんな影響をうけるのか

1994年、アメリカ・カナダ・メキシコ間で結ばれた北米自由貿易協定(NAFTA)は加盟国に大きな影響を与え、GDPの増加や貿易の安定、消費者が商品を安く購入できるなど、経済活動を活発にした。一方アメリカの貿易赤字の増加、輸入品増加による雇用の減少などデメリットも浮き彫りに。アメリカ大統領はNAFTA再交渉を公約に掲げ、原産地規則見直しなどを行ったNAFTAに代わる「USMCA」を締結。

第45代アメリカ合衆国大統領ドナルド・トランプ氏が掲げていた公約の一つが「NAFTA再交渉」でした。NAFTAは1994年アメリカ・カナダ・メキシコで結ばれた自由貿易協定です。三国間のほとんどの関税を撤廃し、貿易を盛んにすることで経済活動を活発にしてきました。この記事ではNAFTAの概要と、NAFTAの代わりに新しく協定が結ばれるUSMCAについてご説明します。

北アメリカ自由貿易協定(NAFTA)とは?

北アメリカ自由貿易圏の推進は1979年、ロナルド・レーガン大統領が公約を発表したことにより始められました。1988年アメリカとカナダが米加自由貿易協定を結び、その後1994年にメキシコが加わることで北アメリカ自由貿易協定(NAFTA:North American Free Trade Agreement)となりました。

発足当時からNAFTAが目的としていたのはアメリカ・カナダ・メキシコの三国間の貿易障壁を撤廃し、国境を越えた商品やサービスの移動を促進することです。特に貿易面では関税が最終的に99%撤廃されるなどのメリットがあり、段階的に引き下げられていきました。実際2008年には関税撤廃スケジュールが終了する運びとなりました。

● NAFTAが発効されてからどのような良い影響があったのか。
例えば加盟国のGDP(Gross Domestic Product)の増加がみられました。GDPとは国内総生産のことで、国内の経済活動の規模や動向を示しています。GDPが伸びるとそのまま経済成長率になります。家計の消費や貿易収支など国内の経済活動が活発になれば、GDPは増加します。ほかの経済圏や先進国に比べてもNAFTAは世界トップのGDPを誇っています。また、関税がかからない分、NAFTA加盟国からの輸入品を消費者が安く購入できるようになり、投資においても加盟国の投資先が増えることで選択肢が広がりました。

●アメリカとカナダでの貿易では、カナダがアメリカの農業分野における主要輸入国となっているため、カナダは安定して農産物を輸出することができました。
メキシコではマキラドーラ部門が多大な恩恵を受けました。マキラドーラとは輸入した部品を使用して製品を組み立て輸出する工場のことです。関税がほとんど撤廃されたことによりマキラドーラ部門の収入はNAFTAが発効されてから15%以上増加しました。

●しかし良い影響だけとも言えません。工業製品などは恩恵を受けたものの、アメリカからの輸入が増えたことで一部のトウモロコシ農家は職を失うことになりました。アメリカから安いトウモロコシがメキシコに輸入されるようになり、メキシコ国内でのトウモロコシの価格は大幅に下落しました。それにより立ち行かなくなり職を失った農家も多くいました。職を求めてアメリカに移民として流入するようになったことでアメリカへの移民問題に更なる拍車をかける結果となったのです。

トランプ大統領により、NAFTA再交渉が始まる

2017年アメリカではドナルド・トランプ大統領が就任しました。トランプ大統領はNAFTAについて、雇用を流出させた「最悪の貿易協定」と呼び、その公約にはNAFTAの再交渉も含まれていました。実際2017年8月に貿易赤字解消に向けて再交渉に着手しました。NAFTAができたことによりアメリカの貿易も活発になりましたが、悪い影響も同時に受けていました。

特にトランプ大統領が批判したように雇用の問題は大きく、関税が撤廃され、安い商品がカナダ・メキシコから輸入されるようになりました。その結果アメリカ国内で生産された商品が売れなくなり、雇用の減少につながってしまったのです。またアメリカに来るメキシコからの移民がNAFTA開始後増加し、アメリカ国内で働くようになったことで賃金の低下につながったのではないか、という意見もあります。

アメリカの貿易赤字問題もトランプ大統領が再交渉を始めた要因です。NAFTA間での輸出量に比べて輸入量が膨らんでいたため、アメリカの貿易赤字も膨らんでいました。アメリカの貿易赤字は2010年には約7.5兆円にのぼりました。これはアメリカの総貿易赤字の26.8%にあたります。

●アメリカへの輸出量が膨らんだ原因の一つに、メキシコでの生産コストが低いことに目を付けた外国企業が参入してきた点が挙げられます。労働賃金が比較的安く、関税無しでアメリカに商品を輸出できるため外国企業がメキシコに工場を作り、メキシコで生産したものをアメリカに輸出することで利益を得ていました。

NAFTAにかわる新協定「USMCA」

2017年8月からトランプ大統領は貿易協定についての再交渉を始めました。NAFTAに代わる新しい貿易協定が2018年11月30日アメリカ・メキシコ・カナダ協定(USMCA:United States–Mexico–Canada Agreement)という名前で締結されました。2020年1月1日に発効予定で、それまではNAFTAが継続されます。USMCAは農産物、工業製品、労働条件、電子商取引、知的財産保護など幅広い内容を含んだ協定となっています。

●工業製品、特に雇用規模が大きい自動車産業の「原産地規則」の見直しが注目されています。原産地規則とは製品の国籍(つまりどこの国で作られたか)を決定するためのルールです。例えば部品を輸入に頼って生産された自動車の場合、部品を生産した国と実際に組み立てを行った国が違います。製品の国籍は部品を生産した国になるのか、それとも実際に組み立てを行った国になるのか、という問題です。

NAFTAでは自動車産業について今までも、加盟国で生産された部品を使っている比率が62.5%を下回った自動車は、関税免除が受けられないというルールがありました。この基準をUSMCAでは75%に引き上げようとしています。自動車産業については輸入される部品から加盟国内の流通を盛んにしたいという考えです。

さらに最低賃金のルールを盛り込むことで労働者の賃金値上げを狙っています。時給が16USドル以上の労働者による生産比率が40~45%以上でなければならない、などの要件を満たさなければ輸出する際の免税を受けられません。

●アメリカの酪農家がカナダ市場へより多くのアクセスを与えることも条項に含まれています。カナダは乳製品に関してアメリカに対する無税での輸入割当枠を3.6%確保し、カナダの消費者がアメリカの酪農市場への免税アクセスを拡大できるようにしました。

新しい協定「USMCA」が加盟国、世界に与える影響とは?

●北アメリカに進出している自動車産業の外国企業は、関税免除の原産地規則の基準を上回るためNAFTA内で製造された部品の確保に乗り出すことが考えられます。USMCAは24年前に制定されたNAFTAを近代化するためのものでもありますが、トランプ大統領による「アメリカ・ファースト」を実現させるためのものであるともいわれています。

●また、世界最大の輸出国である中国に対抗する一手にもなり得ます。
USMCAには「非市場経済国(non-market country)との自由貿易協定を交渉する場合、少なくとも3か月前にその意向を他の相手国へ通知しなければならない」という規定が盛り込まれており、「非市場経済国」とは中国を指すのではないかといわれています。

現在アメリカの貿易赤字は中国が断トツで大きいです。この規定では、非市場経済国と貿易の交渉をする場合、USMCA加盟国に事前に知らせなければならないとされているので、交渉の内容はアメリカを含めたNAFTA加盟国が事前に把握できるのです。

まとめ

自由貿易協定を結ぶことで経済活動が活発になり豊かになるメリットがある一方、国民は職を失う、生活用品の価格、賃金の値上げや値下げなど生活を大きく作用する影響を受けることがあります。

北アメリカでの貿易協定ですが、その内容によっては世界中の経済に影響を及ぼしかねません。今後もその動向に注目していきたいところです。

※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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