デイヴィッド・ホックニー:フォト・コラージュの世界

デイヴィッド・ホックニーは1937年イギリスのブラッドフォードに生まれた20世紀を代表するアーティストのひとりです。ホックニーはアメリカ西海岸の光を感じさせる作品のほか、フォト・コラージュの作品も多数制作しています。

■デイヴィッド・ホックニーとは

デイヴィッド・ホックニーは1937年イギリスのブラッドフォードに生まれました。ブラッドフォード美術大学を経て、ロンドン王立美術大学で学び、在学中に新進アーティストによる「ヤング・コンテンポラリーズ」に作品を出品しました。その後はピーター・ブレイクやアメリカのキタイらとともにポップアートの活動を行っていくこととなります。

大学を卒業後、ホックニーは1964年からアメリカのロサンゼルスに移りました。その後、ロサンゼルス、ロンドン、パリを点々としながら制作を続けました。彼はアメリカ住んでいた当時の家のプールから着想を得て、「スイミングプール」という作品の数々を制作したと言われています。

また、このころ数十年に渡ってビジネスパートナーを務めることになるグレゴリー・エバンズと出会うことになります。

ホックニーの作品は「スイミングプール」の他、自分の性的指向をテーマとしたものもありました。彼は自身がゲイであることをカミングアウトしており、《私たち2人の少年はいちゃつく》や《ドメスティック・シーン》といった作品を制作し、ロマンチックなゲイの本質を追求しました。同時期に活躍したアンディ・ウォーホルもまた同性愛者でしたが、カミングアウトすることはありませんでした。ウォーホルと比較すると、ホックニーはより積極的に同性愛も作品のテーマとして取り入れています。

■ホックニーのフォト・コラージュ

1980年代になると、ホックニーは写真を用いたコラージュ作品を400点近く制作することになります。これは新しい遠近法へのアプローチであるとともに、ピカソのキュビスムのアプローチをもとにした作品でもあります。

これまでの作品では一定の場所を一定の時間観察し描いていく手法がとられていましたが、キュビスムはさまざまな方向から対象を観察し、あらゆる見方を作中に取り入れる方法であり、当時のアートの在り方に革命を起こしました。ホックニーのフォト・コラージュはそうしたピカソのキュビスムをもとに複数の時間・動き・視点を一つの画面上に表現することを試みたものでした。

ホックニーのフォト・コラージュ作品を見てみると、同じ風景を何十枚、何百枚と撮影し、その一枚一枚をコラージュしていくことでひとつの作品を作り上げています。この作品の中には撮影した枚数の分の時間や動き、視点が組み込まれており、「複数の視点からものをみる」ことはホックニーの大きなテーマとなっていきました。

■フォト・コラージュ作品

そんなホックニーのフォト・コラージュ作品ですが、どのようなものがあるのでしょうか。具体的な作品をもとに解説していきます。

《文字合わせゲーム 1983年1月1日》 1983年

この作品は「スクランブル」といった文字を並べるゲームを楽しんでいる人々を撮影し、その写真をもとに作られたフォト・コラージュ作品です。画面左下には撮影者であるホックニーの手が移っており、右側にはホックニーの母、左側にはともに仕事をしたことがあるデイヴィッド・グレイブスが映っています。作品のタイトルにもあるようにこのゲームが行われたのは1983年の1月1日でお正月に家族や親しい友人が集まり、ゲームで楽しんでいる様子をテーマとした作品になっています。

作中に用いられている写真1点1点に目を向けてみると、光の違いから時間の経過が、写真のズレからホックニーの視点の変化が伺えます。写真のひとつひとつを観察していくと、1点の作品に向き合っているというよりもゲームを楽しむ二人を撮影した映像を見ているかのような感覚になってきます。

《ペアブロッサム・ハイウェイ、1986年4月11日-18日、#1》 1986年

《ペアブロッサム・ハイウェイ、1986年4月11日-18日、#1》 はアメリカ、カリフォルニア州にある高速道路で撮影した写真をもとに制作した作品です。この作品では運転者と乗客双方の視点が組み込まれています。たとえば運転者は道路標識、乗客は風景や樹木、ごみなどに関心を向けており、そうした複数の視点が1点の作品に含まれているのです。

この作品を見ることで、高速道路という瞬時に風景が変化していく場所の時間の移り変わりやさまざまな視点を同時に体験することができます。複数の視点を取り入れるというキュビスムの考え方はもちろんですが、ホックニーのフォト・コラージュは絵画でも動画でも作り出せないような表現を作り出しているのです。

■現在のホックニー

2018年の今もホックニーは精力的に制作活動をおこなっており、2009年からはiPadのアプリケーションも駆使し、さまざまな作品を生み出してきました。ロサンゼルスの自宅を描いた「ブルー・テラス」シリーズでは、強いエネルギーを感じさせる鮮やかな色彩を用いており、iPadを使ってより自由な表現に取り組んでいることが伺えます。

ホックニーは絵画作品の他にも版画やさまざまなスタイルに取り組んでいることでも知られていますが、ステンドグラスもそうした作品の一つです。《女王の窓》はウェストミンスター寺院に設置されたステンドグラスで、ビビットな色彩によりイギリスの田園風景が表現されています。
ホックニーはこの作品もiPadだけで制作しており、その事実はアーティストたちを驚かせました。

また2018年11月15日にはアメリカ、ニューヨークで行われたオークションで《芸術家の肖像画-プールと2人の人物-》 が存命中の芸術家の作品としては過去最高額の9,000ドルで落札されました。この作品はホックニーの代表作でもあるため、過去最高落札額になると予想されてはいましたが、それでも多くの予想を裏切る高価格にアート業界は驚きを隠せなかったようです。

このようにホックニーは新しい手法を取り入れ、ステンドグラスなどこれまで経験のないスタイルに挑戦するなどして今もなおアーティストとしての成長を続けています。その常に成長し続けていくさまが見るものを夢中にさせ続けているのかもしれません。

■おわりに

デイヴィッド・ホックニーはイギリス、ブラッドフォードに生まれ、カリフォルニアのスイミングプールをテーマにした「スイミングプール」シリーズや、自らの性的志向をテーマとして作品を制作するなど幅広いテーマで作品を制作しました。フォト・コラージュの作品でもピカソのキュビスムをもととして複数の時間、視点、動きを取り入れるなど、画期的な手法で作品を制作し、アートの世界に大きな衝撃を与えました。

そんなホックニーは2018年で80歳になりますが、ロンドンのテートモダンやニューヨークのメトロポリタン美術館で回顧展が行われるなど、大きな注目が集まっています。最近はステンドグラスの大作に挑戦したり、iPadをドローイングツールとして取り入れたりなど、年老いてもなおさまざまなスタイルに挑戦し続けるホックニー。今後どのような作品を生み出していくのか、楽しみでなりません。

※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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