パウエル・クワック:一度見たら忘れない!底が丸いグラスが特徴

丸いフラスコのようなグラス、木の取っ手。丸い底の奇妙な形のグラスはテーブルの上に直接置くことはできず、木の取っ手(スタンド)を使わなければ、まっすぐに立つことはできない。初めてそれを見た人はきっと、「どうしてこんな形のグラスになったのだろう?」と疑問に思うだろう。

ベルギービールを語る上で欠かせない濃厚な味わいを持つパウエル・クワック。どうしてこんな形のグラスになったのか、その歴史や味わいについてご紹介しよう。

宿場町デンデルモンデで発展したビール、パウエル・クワック

パウエル・クワックというビールが誕生したのは、ベルギー東部オースト・フランデレン州のデンデルモンデという町。アントワープ、ブリュッセル、ゲントという都市のちょうど真ん中に位置し、街道添いの町としてローマ時代から栄えた町だ。

そのためデンデルモンデには多くの宿屋があり、クワックもそういった宿屋の一つから生まれた。ビールの生みの親は、パウエル=クワックという宿屋を経営する醸造士。パウエル=クワックが作るビールは、現在のクワックと同じくアルコール度数が高く、色の濃いものだった。
時は18世紀、ナポレオンの時代である。ナポレオン支配下で客を乗せた馬車の御者は、馬車から下りてビールを飲むことを禁じられていた。そこでパウエル=クワックは、休憩に立ち寄ってくれた御者たちが馬車を降りなくてもその場で喉の渇きを癒せるようにと木の取っ手(スタンド)と丸い底のグラスを考案したのだ。
これなら馬上でも安定してビールが飲めるという訳だ。
あぶみの上でもゆっくり味わえるビール。パウエル=クワックは惜しみなくビールを御者たちに分け与えたため、そのビールとグラスはたちまち有名になり、多くの馬車が立ち寄るようになったという。クワックとは気前の良い男という意味もあるのだそうだ。

ボステールス醸造所がクワックを復活、世界に広めた

現在、クワックを作っているのは東フランダース地方ブヘンハウトという町にあるボステールス醸造所。この町はデンデルモンデと同じく、アントワープ、ブリュッセル、ゲントの真ん中に位置し、「ブヘンハウトの森」というフランダース地方で一番広いブナの森林で知られ、周囲を自然で囲まれている。

最初のクワックは時代の流れとともになくなってしまったが、それを復活させたのがこの醸造所だ。1791年にエヴァリスト=ボステールスによって設立され、以来ずっと一族で経営、2005年に別の資本が入ってからも創始者一族が経営に携わっている。

ボステールス醸造所の建物は、白い貴族の宮殿のよう。現在、醸造所の見学はできないが、クワックの誕生秘話となった馬車のコレクションは見ることができる。整然と並んだ多くの馬車は見応えがあり、クワック好きにはぜひ見て欲しい。

ボステール醸造所のビールはどれもとても個性的。丸いグラスを持つクワックだけでなく、シャンパンと同じ二次発酵で作られる神の名前を持つビール「デウス」、3つの穀物で作られる「トリプルカラメリート」。町のカフェ、レストランなどいろんなところで味わえるので、ぜひ現地の料理とビールのマリアージュを味わってみて。

クワックのボトルにはMAXという大型のグラスもあるので、現地ならでは、大型のクワックのボトルで飲んでみるのも楽しい。

自然の恵みをふんだんに使ったクワックの味わい

琥珀色のボディにきめ細やかなフワフワのクリーム色の泡。口を近づけるとバナナのような、ベリーのような甘い香りが広がる。味わいは、カラメルのようなほろ苦さの中にスパイシーな風味もあり濃厚だ。

アルコール度数は8.1%。高めのアルコールだが、甘さを感じる味わいからそれほど強さを感じない。飲みやすいからと一気に飲んでしまうと酔いやすいので注意したい。また、冷蔵庫でキンキンに冷やしてしまうと味わい・香りが損なわれるので、5〜6℃くらいの温度で飲むのがオススメだ。

この味・香りの素晴らしさは、原材料と発酵の方法による。原材料を見てみよう。大麦モルト、ホップ、スパイス、糖類とある。大麦やホップの多くは近隣のもの、水は醸造所の地下100mから汲み上げたものだ。発酵は温度調節により自然発酵で5〜6日程度。濁りが強いので一度濾過してから瓶詰めを行なっている。

クワックの味わいは国際的にも評価が高く、1996年ワールドビアカップ国際コンクールストロングエール部門で金メダル、2000年にBeverage Testing Institute (アメリカ) で特別賞など毎年のようにさまざまな賞を受賞している。

クワックを飲むのにはぜひ専用のグラスを用意しよう

ベルギーのビールには、クワックだけでなく、それぞれ専用のグラスが作られている。グラスが変われば、味わいも香りも変化してしまう。

特にクワックは、その形を見てわかる通り個性的な形をしている。下部は丸く円形、中部は女性のウエストのようにキュッと絞られ、上部は上にいくに従って広がっている。この形はあぶみの上でも飲めるように・・・というだけでなく、美味しさを閉じ込める意味合いもあるのだ。

また、クワックは注ぎ方にもコツが必要。グラスはしっかり水切りをし乾燥、5〜6℃の温度にしておく。グラスを木の取っ手にかけ、取っ手を持ちながらグラスを傾けて一気に注ぐ。泡がたくさん立ってくるが、慌てず最後まで注ごう。300mlのビール瓶でちょうどグラスの上よりあと2cmほどのところでピッタリと収まる。注ぎ終わってすぐ飲むのではなく、さらに15秒ほどおいてみよう。グラスふちより7cmほどに美味しそうなクリーム色の泡ができているはずだ。

飲むときは木の取っ手を持って飲んでもいいのだが、かつての御者のようにスタンドから外しグラスを手に持って飲んでみるのがおすすめ。

クワックのグラスは現地で手に入れられるのはもちろん、ネットなどでも販売されているので興味がある人はぜひ手に入れて欲しい。

濃厚なクワックには濃厚な料理がピッタリ。

飲みやすいクワックは、色々な料理に幅広く合うと言われている。実際、ベルギーではクワックを飲みながらフリッツ(フライドポテト)や、クロケット(ジャガイモのコロッケ)、クロックムッシュ(ホワイトソースやハムが入ったホットサンド)など、思い思いのスタイルで楽しむ現地の人の姿が見られる。

しかしクワックの濃厚な味わいは、濃厚な料理にピッタリなのだ。例えばウォッシュタイプのクリーミーなチーズ、牛肉の煮込み、鳩や鴨のグリルなど。スモークした料理なども合うかもしれない。

クワックのホームページ(Brouwerij Bosteels)には、牛ほほ肉を野菜と一緒に焼いたもの、ローストビーフと野菜の付け合わせといったものが掲載されている。

合わせ方でいろんな可能性が広がるクワック。さまざまな料理に合わせて、オリジナルの味わいをみつけてみよう。

まとめ

丸い底のグラスで有名なパウエル・クワックの歴史、醸造方法、味わいについて紹介した。クワックを製造しているボステールス醸造所は現在7代目が運営、昔の味を今もなお伝えている。これから工場見学なども考えているそうで、古いものを守りながら新しいことにチャレンジする姿が見てとれる。醸造所のテイスティングで、一番美味しい飲み方で味わえる日が楽しみだ。

※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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