BLEACH:作品に散りばめられた作者のセンス

週刊少年ジャンプ(日本の少年誌)にて2001年からおよそ15年の間連載されていたBLEACH。ONE PIECEやNARUTO -ナルト-に続く看板作品のひとつであり、2000年代の週刊少年ジャンプを牽引してきた。
連載開始から3年後にはテレビアニメ化もされ、後に映画化。さらには実写映画化も成されたヒット作品だ。
2020年で20周年を迎え、8年ぶりにテレビアニメとして帰ってくる。
本作は物語が面白いというよりもそのセンスに魅せられた者が多いであろう。凡人には到底思いつかない作者のセンス光る数々の要素は脱帽そのもの。その全容をご紹介しようと思う。

あらすじ・組織編制

主人公の黒崎一護は霊感のある高校生。あるとき一護は虚(ホロウ)と呼ばれる悪霊に襲われるが、その窮地を救ってくれたのが死神・朽木ルキアであった。しかしルキアは虚に押され、一護が死神の力を譲り受けて戦うこととなる。そうして誕生した死神・黒崎一護は家族や町を守るため死神代行として活躍していくのだった。
次に、死神の世界と組織ついての説明をしよう。
これは死神たちがどのような組織の元に集っているのかを多少なりとも理解しておいた方が後の内容も分かりやすいと思うからである。

まず、死神というのは尸魂界(ソウル・ソサエティ)という天国のような居住地域に住んでいる。それに対して人間たちが住まうのは現世と呼ばれ、明確な線引きがされている。
尸魂界は霊力を持つ貴族や死神達が住んでいる瀞霊廷(せいれいてい)と、普通の死者が住む流魂街(るこんがい)に分かれている。そして、尸魂界にいる霊魂たちは誰しもが死神なのではなく、真央霊術院という死神養成学校のようなところを卒業すると晴れて死神となれるのだ。

そうして死神になった彼らは護廷十三隊と呼ばれる組織に属し、現世を荒らす虚を退治や、尸魂界全体の均衡を保つために日々努めている。護廷十三隊はその名の通り全13隊から成り立っており、格隊には隊長、副隊長、その下に席官という役職が敷かれている。この隊長と副隊長クラスの死神の戦闘力は凄まじく、メインの戦闘武器である斬魄刀(ざんぱくとう)の新の力を発揮する能力を有しており、その他の戦闘技能もずば抜けていることが特徴だ。

補足となるが、斬魄刀とは各死神が持つ刀で、2段解放する特徴を備えている。第1段階は「始解(しかい)」と呼ばれ解放と同時に形状が変化、特殊能力が付加される。そして第2段階が「卍解(ばんかい)」。一般的に卍解の戦闘能力は始解の5倍から10倍とされており、習得までには10年以上もの鍛練が必要。卍解習得は隊長となるための必須能力でもあり、死神界の中でも卍解を操れるものは常軌を逸した戦闘を繰り広げるのである。

おしゃれポイント1:斬魄刀の形状・解号・そのスキル

さて前置きが長くなったが、これより本作のセンスについてご説明していこう。
まずは斬魄刀の形状・解号・スキルにセンスから。
先程も説明した通り斬魄刀とは死神の持つ武器のことである。その名や形状、能力は1つとして同じものはない。

まずはこの斬魄刀の形に注目してみよう。
通常、刀といえば誰でも片刃で刀身の長いあの形を思い浮かべるであろう。しかし本作に登場する斬魄刀は型破りな形状ばかりなのである。
例えば主人公の一護の斬魄刀は柄も鍔もない、剥き出しの大きな出刃包丁のような形状をしている。これはまだ刀の形に近いかもしれないが、一番隊隊長・山本元柳斎重國の卍解となると形状は刀なのに焦げた枝みたいになっているではないか。だがこれで驚くのはまだ早い。斬魄刀、すなわち刀。それなのに二番隊隊長・砕蜂の始解はもはや刀の形状とはかけ離れた、右手中指に付けるアーマーリング状のアクセサリーのような形状なのだ。そしてこれが卍解すると自身よりはるかに大きい照準器付きの砲台のような形状になり、ミサイル顔負けの砲弾を放つ。
その他、伸びたり砂状になったり、異なる形状に変化するのはもはや当たり前。中には何かしらの生物のような形になるものまである。

この形状、ただ真面目に文字だけで想像を膨らましているとあまり伝わらないだろうが、実際の絵を見てみるとそのセンスの良さが理解できることだろう。何より、ただの1つとして同じものがないということが驚きだ。登場する死神はゆうに50を超えている。その全てが異なるというのは作者の想像力の凄さに屈服させられる。
そしてそんな斬魄刀らに、さらなるセンスをもたらすが解号である。
解号とは、斬魄刀の能力を解放するときに必要とされる言霊のことを言う。これは説明をするよりいくつか実際に見て頂いた方が伝わるかと思うので、まずは筆者のお気に入りを2つご紹介する。

「万象一切灰燼と為せ 流刃若火」 一番隊隊長・山本元柳斎重國
「面を上げろ 侘助」 三番隊副隊長・吉良イヅル
これだけだとセンスと言われてもいささか理解し難いと思うので、それぞれ少しずつ解説する。
まずは一番隊隊長・山本元柳斎重國の解号について。

彼の持つ斬魄刀は炎熱系最強にして最古のものであり、全斬魄刀中で最高クラスの攻撃力を誇る、まさに総隊長に相応しい刀である。その溢れんばかりの力を誇示するような一切の隙を見せないこの解号。「万象一切灰燼と為せ」、「万物の全てよ、灰になれ」そう言い切っているのだ。総隊長の名に恥じない、そしてその斬魄刀の持っている全ての力を呈している完璧な解号だとは思わないだろうか。語呂も良いのでつい口にしたくなる。
次は三番隊副隊長・吉良イヅルの解号だ。

この解号は吉良の斬魄刀の能力を惜しみなく、そして恐ろしいまでに冷徹に表現したものである。吉良の斬魄刀、侘助の能力は切った物の重さを倍々にするというもの。本人曰く、「重さに耐えかね、侘びるように自らの頭を差し出す、故に侘助」。ここまで見ていくとこの解号は正反対のことを言っているように感じられるかもしれない。重さに耐えられないのなら、頭は地に着いた状態ではないのか?と。

しかしそうではない。負けを悟ったとき頭を差し出し、命乞いをする。その瞬間に人は面をあげるであろう。助けてくれと相手の顔を見上げるであろう。「面を上げろ」というのはその間際のことを表しているのだと思われる。だからこそこの解号はどこまでも適しているのだ。その残酷さ加減も光っている。
最後は斬魄刀の能力についてだ。

先の解号の説明で少しお分かり頂けたかと思うが能力の幅は本当に広い。そしてまるで予想もできないような能力ばかりなのである。そのどれもが各死神を象徴するようなものになっていて、この人物あってこそのこの能力、とイメージがぴたりと合致するのだ。

中には人物のイメージと合わないような組み合わせもある。例えば五番隊副隊長・雛森桃がそれに該当する。彼女はとても優しく、気配りもできる健気で可愛らしい少女だ。しかし雛森の斬魄刀は「飛梅」と言い、刀身から火球を放つ攻撃系のもの。その可憐な姿からは想像もできないパワフルで直接的な攻撃スタイルとなっているのだ。だが何故か彼女の本来の姿を映したような印象を受けるので、相反するとは思いつつもイメージが合致してしまうのだろう。
このようなアンマッチさも含め、数々の能力と組み合わせを的確に作り上げているセンスは素晴らしいと思う。この組み合わせと、それから広がる戦闘スタイルに多くの人は惹かれたのではないだろうか。

おしゃれポイント2:詠唱呪文などから垣間見える言葉選びのセンス

本作のセンスについて語るならば忘れてはならないのが、技を繰り出すときに必要とされる詠唱呪文などに見られるちょっとした言葉選びについてだ。本点については大きく2つに分けてご説明しようと思う。
まずは死神たちの戦術の1つである「鬼道」を発動する際に必要となる言霊について見ていこう。鬼道というのは相手を攻撃する「破道」と防御や相手を拘束したりする「縛道」に分けられる。このどちらも発動には決まった言霊の詠唱が必要なのだが、この言霊の美しい響きには恐れ入るだろう。1つ例を以下に示す。

「君臨者よ 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ 真理と節制 罪知らぬ夢の壁に僅かに爪を立てよ 破道の三十三 蒼火墜」
是非口にだして詠唱してみてほしいのだが、語呂の良さは勿論、この言葉たちの羅列は中々思い浮かぶものではないだろう。清廉として洗練され、言葉のひとつひとつに意味の込められた言霊たちはその技を冠す象徴となっている。
この他にも本作の言葉選びを感じられる点がある。これが2つめだ。
本作のコミックには各巻の表紙に詩が添えられている。その詩はどれもその巻の内容や、その巻でメインとなる登場人物の心情を表しているのだが、これが本当に逸材である。

「剣を握らなければ おまえを守れない、剣を握ったままでは おまえを抱き締められない」
これは一護の親友、チャドの心境を綴ったもので、力を手に入れることへの葛藤を抱いていたときの一面を上手く表している。と共に、チャドの優しさや力に対する恐怖心、そして愛する者への親愛も込められているのだ。

「君が明日 蛇となり 人を喰らい 始めるとして
人を喰らった その口で 僕を愛すと 咆えたとして
僕は果して 今日と同じに 君を愛すと 言えるだろうか」
こちらは三番隊隊長・市丸ギンが表紙を飾ったときに添えられていた詩である。その巻では、ギンは護廷十三隊ならびに幼馴染で誰より大切に思っている十番隊副隊長・松本乱菊を裏切る立場に身を置いていた。乱菊は裏切られてもなお、どこかでギンを信用し、大切な存在であることはかわりなく思っていたのだが、そのときのギンが上記のような思いを抱いたのだろう。もし仮に自分が乱菊の立場だったなら、自分を愛せたのだろうか、と。

これはギン自身の、多くのものを裏切っても乱菊だけは大切に思っていたからこその思いである。それを蛇と例え、裏切り行為を「人を喰らう」と表現しているのだ。また、そうした比喩を使ってなお、的確にギンの心を表現していて本当に驚かされる。そして口にだすと分かると思うのだが、語呂も良い。

といったように、作中で使われている言葉たちはどれも逸材なものばかりで、それをしっかり1つにまとめあげている。それも言葉1つのときよりも遥かに洗練して。バラけた言葉たちを集めて1つの文や詩にすることは容易い。しかしそこに意味を込め、人物の心情や背景、そして余韻や語呂などを含めて完成させることは至難の業であろう。人の心を掌握するようなこの言葉選びのセンスには、確かな言葉に表現できなくとも多くのファンが魅了されている点だろう。

おしゃれポイント3:1枚絵が魅せる死神の世界

最後はやはり1枚絵について語りたい。
本作は漫画でもアニメでもそうだが、1つの絵でその世界観を際限なく映す、ということを頻繁に行っている。漫画ならば見開きで大きな絵が、アニメならば静止画で画面いっぱいに1つの絵が、といった具合だ。
このときの絵がどれもセンスの光るおしゃれなものばかりなのだ。いくつか例を挙げよう。

1つ目は六番隊隊長・朽木白夜の卍解の1枚絵。これは無数の細かな刃が桜の花びらのように舞っている絵なのだが、幻想的な絵になっていて戦闘中だということも忘れて見入ってしまうほどの艶を持っている。アニメでは散った刃はほのかなピンク色に色付けられているため、より美しさを孕んだ絵となった。

2つ目は九番隊副隊長・檜佐木修兵の名シーン。「命を刈り奪る形をしてるだろ?」と言ったときの絵である。彼が自身の斬魄刀を嫌いながらも、その所以を冷酷な表情で示したこの絵は痺れるものがある。戦うのが怖いと言っていた彼の眼差し、そこに重なるこの言葉、ギャップが詰め込まれたような1枚であった。

3つ目は八番隊隊長・京楽春水の卍解シーンである。彼の卍解の名は「花天狂骨枯松心中」。発動と共に松の影が現れ伸びてきて、辺りは暗く寒々しいものとなる。この抜群の雰囲気は、彼の斬魄刀の強さを如何なく表現するだけに留まらず、特徴までもしっかりと表現しているのだ。そして彼自身の強さも感じ取れるような、ゾッとするような背景を締める黒い松の影。このコントラストとギャップはセンスを感じ得ずにはいられないだろう。
上に3つの例を挙げたが他にもまだまだたくさんある。小さな絵が登場人物の発した言葉とリンクしていたり、相反する言葉と絵に人物の心情が孕んでいたりなど、とにかく目白押しなのだ。機会があるなら、注目して見てほしい。

さいごに

本作はバトルを中心とした作品である。熱い展開や、少年誌のお約束である王道のシーンも存分に盛り込まれ、熱中して作品にのめり込めるようになっている。
しかし、本作の魅力はその熱い展開だけではない。

バトルシーンといった、激しい動きの中にも本作のセンスが光る箇所が散りばめられ、本作の魅力をグッと底上げしているのだ。また、漫画だけでしか楽しめない詩があるなど魅力も分散されている。この小さなセンスに少しでも気付いたとき、BLEACHという作品が如何に凝った作品であるか、作者のセンスが詰め込まれたものであるかを垣間見ることができるだろう。

初見の方は、そういった楽しみ方もあるのだと思って楽しんでみてほしい。既に知っている人は、こんな隠されたものがあったのかと、本作の魅力をより深く掘ってみはいかがだろうか。それは勿論、アニメも漫画も両方共だ。

※本記事はコロナウイルス感染拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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