ゴア・ヴァービンスキー:ハラハラするスラップスティックアクション

ゴア・ヴァービンスキー(1964年–)は、アメリカ合衆国出身の映画監督、脚本家。映画製作の他、ミュージック・ビデオやコマーシャルメッセージも手がけています。映画の代表作は「ザ・リング」、「パイレーツ・オブ・カリビアン」などです

ホラー作品で世界を震撼させた「ザ・リング」や、ディズニーの人気アトラクション「カリブの海賊」を映画化した「パイレーツ・オブ・カリビアン」初期3部作などを手がけたゴア・ヴァービンスキー監督。モーションキャプチャーを使用したフルCGアニメ「ランゴ」ではアカデミー長編アニメーション賞を受賞しました。
エンドロール後にエピローグを描くことが多く、映画ファンは本編が終わり、スタッフ名が音楽とともに流れていく時間を楽しみながらエピローグでニヤリとするのです。そしてなにより体を張ったスラップスティックアクション!追いつ追われつの攻防を繰り返しながらも観客をストーリーへ引きこんでいく手法がうまいのです。
そんなヴァービンスキー監督の代表作を、作品解説を交えつつ紹介していきたいと思います。

「マウス・ハント」

古いアメリカのアニメ映画をそのまま再現したような映画。スラップスティックが存分に活かされており、小さいネズミを追って人間がボコボコにされます。「トムとジェリー」でお馴染みの光景を見事に実写とCGで映像化されているのです。
カメラワークによるスピーディーな状況説明が多く、それが実写で描かれているので臨場感満載で楽しめます。とくにネズミが逃げこんだ床の穴にライフルを入れるシーン。床下にガスボンベがあり、銃撃とともに床ごとふっとぶのです。その間の出来事がわずか数秒で描かれており「ホーム・アローン」のようなドタバタシーンを楽しむことができる作品です。
配給はドリーム・ワークス。ディズニーの製作部門トップであったジェフリー・カッツェンバーグの会社とだけあって、“ネズミ”を“ハント”するなんてなにやら思惑を感じますよね。そんな作った側のことを考えながら観るのもおもしろいかもしれません。

「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズ

ディズニーアトラクション「カリブの海賊」を映画化し、話題となった映画。ジョニー・デップ演じるキャプテン・ジャック・スパロウが大海原で冒険を繰り広げます。ジャックはずる賢く、自分の利益のために周りの人間を利用する汚い海賊ですが、肝心なところで“いいやつ”になりとてもかっこいい姿を見せてくれるのです。この映画がきっかけで、ジョニー・デップ作品を網羅した人もいるのではないでしょうか。筆者の私もこのシリーズが大好きで3作目となる「ワールド・エンド」は劇場に4回観にいったほどです。
この映画の魅力のひとつは個性豊かなキャラクター。ディズニー作品ということもあり、脇役までも魅力的です。必ず出てくるといっていいほどお茶目でドジな脇役がディズニー作品には登場しますが、「パイレーツ・オブ・カリビアン」の義眼のラゲッティと相棒ピンテルもいい味出していますよね。かっこいい主要キャラはもちろん、ちょっとしたキャラクターまで作りこまれているのです。
魅力的なのはキャラクターだけではありません。息つく暇もないアクションやドタバタなストーリー展開!ここにヴァービンスキー監督の優れた手法が発揮されています。まずジャックの登場シーン。海賊は船に乗って大勢の部下を連れているものですが、我らがキャプテン・ジャック・スパロウはたった一人で登場します。しかも乗っている船は沈みかけている。状況的にはとってもカッコ悪いのに、めちゃくちゃかっこよく登場します。そして船上で海軍相手に暴れまわり、オーランド・ブルーム演じる鍛治職人ウィル・ターナーとの対決。シーソーのようになった板から梁の上に飛んだり、ロバに引かれて動き回る剣を抜いて使ったり、一見コミカルなのですが殺陣の腕前が良いのでとてもかっこいいアクションシーンになっています。
スラップスティックアクションが見られるのは1作目「呪われた海賊たち」だけではありません。2作目の「デッドマンズ・チェスト」にもその手法は引き継がれています。人食い民族から脱出するため、ロープでできた牢から出ようとロープを揺らし、鍵を奪い合って地面を転がる壊れた水車の上で戦うのです。そして3作目「ワールド・エンド」の見所は船上での結婚式シーンでしょう!身分違いの恋をしているウィル・ターナーと総督の娘エリザベス・スワンが、嵐のなか海賊船上で結婚式を挙げるのです。風と雨が吹き荒れるなか、おまけに敵と戦いながら結婚を誓う2人の描写が最高です。しかも、神父役が敵対関係にあったヴァルボッサ船長!「さっさと誓いのキスをしろ!」と敵に銃をぶっ放しながら叫ぶさまが笑えるのにとても感動的なシーンとなっています。
そしてお決まりのエンドロール後。ちょっとしたエピソードが描かれており、観客は続編を期待してしまうのです。
このシリーズ、ヴァービンスキー監督が手がけていたのは3作目まで。4と5もおもしろいのですが、ストーリーやキャラクター、アクションがひとまとめにぶちまけられた感がなくなり残念でなりません。新作を作るのであればヴァービンスキー監督に復帰してもらいたいものです。

「ランゴ」

カメレオンが主人公の西部劇。モーションキャプチャーを使用したフルCGアニメーション作品で、人間のペットとして飼われていたカメレオンが町の保安官として生きることになるというストーリー。カメレオンのランゴが性格までカメレオンのようにコロコロ変え、まるで「ワールド・エンド」の冒頭で大人数のジャックがしゃべっているような感じが全編通して貫かれています。
ヴァービンスキー監督のスラップスティックも健在。エンドロールも本編とはまた違ったテイストになっており、本編が終わっても観客を立ち去らせてはくれません。「アニメだから子ども向けでしょう」と思う人もいるかもしれませんが、“西部劇あるある”が散りばめられているため大人も楽しめる作品になっています。

「ローン・レンジャー」

西部劇を題材にしたラジオドラマをもとにした映画。ラジオからテレビドラマ、コミックにまで派生。映画化もされた作品でアメリカでは超メジャーな作品になっています。
黒いマスクを付けたローン・レンジャーと頭にカラスの死骸をのせたインディアンのトント。ちぐはぐな2人が手を組み悪に立ち向かいます。蒸気機関車で戦うヴァービンスキー監督ならでわのアクションシーンは健在。正義の味方が悪いやつを倒し、街の平和を守るため自らの幸せを捨てて旅立ってゆくという王道のストーリーになっています。
ただ、原作があまりにも人気すぎるせいか監督ならでわのおもしろさや俳優陣の持ち味をあまり活かされていないのが残念。せっかくおかしなキャラ設定なのに、トントを演じるジョニー・デップ独特の変人っぷりが見られなかったし、同じくぶっとんだキャラの似合うヘレナ・ボナム=カーターも足から散弾銃を撃っただけで終わり。絶対おもしろい要素がそろっているはずなのにあまり活かしきれていないのがもやもやしました。そのせいか、最悪の映画に送られるラズベリー賞を受賞。同賞の各部門を受賞し、ある意味すごい映画となりました。
あまり監督の批判はしたくないので製作秘話を書きましょう。このローン・レンジャーのモデルとなった人物は一体誰なのか?いまだに議論されているテーマです。多くのファンの間では、アメリカミシシッピ川西部で初の黒人保安官になった人物ではと言われています。奴隷生活から逃げだした彼はネイティブアメリカン部族と数年間生活をともにし、そこで多くの言語を習得。その後オクラホマ法務執行官を務め、32年間怪我なく3000人を逮捕しました。ヒーローのモデルは誰なのか、いろいろと考察してみるのも映画の醍醐味ですよね。
また、インディアンを演じるにあたりトント役のジョニーは、ネイティブアメリカンの種族の儀式に参加しました。白人男性がネイティブアメリカンを演じることが差別的であると批判されたためです。このように映画を作るにあたってさまざまな努力が成されているのですね。私達が数時間映画を観て楽しいひとときを過ごせているのも、こういった製作陣の苦労があったからなのかもしれません。

スラップスティックアクションを得意とするゴア・ヴァービンスキー監督。彼の作る映画は笑いに溢れているものが多いです。監督した初期の作品のような映画を、今後も観られることを楽しみにしているファンも多いのではないでしょうか。

※本記事はコロナウイルス感染拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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