シュガー・ラッシュ:リアルなゲームの世界観

「シュガー・ラッシュ」はディズニーの3Dコンピュータアニメーション映画。ゲームの世界で悪役を演じていた主人公がヒーローを夢見て冒険するというストーリー。2012年に公開され、ゲームの世界がアニメとして忠実に再現されたと話題を呼んだ。

ゲームの中に入れたらどんなに楽しいだろう?子供のころ、そう夢見た人もいるはず。「シュガー・ラッシュ」はレーシングゲーム「マリオカート」の世界観をもとに、ゲームキャラクターの悪役といじめられっ子がヒーローを目指して冒険する映画です。ゲームのなかに入れたみたい!と子供のみならず大人までも魅了しました。一度観てみたらわかるのですが、登場するゲームの世界がそれぞれ独立していてとてもリアル。そんな「シュガー・ラッシュ」の制作秘話やストーリーに込められた想いなど、あらすじを交えつつ紹介していきたいと思います。

【「シュガー・ラッシュ」ってどんなお話?】

2012年のとあるゲームセンターを舞台にゲームのキャラクターたちが冒険するお話です。主人公ラルフは、アーケードゲームの悪役を担当していました。ヒーローや共演するキャラクターたちと仲良くしたいのに悪役だからと厄介者扱いされています。ある日、共演者たちに認めてもらいたいと思いラルフは自分のゲームのなかから飛びだして、ほかのゲームへ参加。ヒーローのメダルを取ることに成功します。しかしトラブルが発生し「シュガーラッシュ」というレースゲームの世界へ迷いこんでしまうのです。このゲームはお菓子でできたレース場を女の子のキャラクターたちがレーシングカーで競争する世界。仲間はずれにされている少女ヴェネロペと出会い、ラルフは自分の孤独な境遇と重ね、彼女と一緒にお互いの夢を叶えようと協力し合うようになります。

この「シュガー・ラッシュ」の世界、お菓子で作られていてとってもおいしそう!それもそのはず、アニメーターのひとりが実際にお菓子で作ってこの舞台の構造を考えたそうです。造形がゴテゴテとしていて複雑なのは、スペインの建築家アントニオ・ガウディの作品がモデルになったからだとか。お菓子だけでなくアーケード・ゲームの世界観を再現するために、製作陣は“アーケード・ゲーム場の墓場”に取材に行っていたといいます。そこはクラッシュ寸前のゲーム機が保管されている場所で、スタッフは傑作を作るために何度も足を運びました。そういった念入りな取材の成果がラルフたちのゲームが置いてあるゲームセンターの寂れた雰囲気によく出ていますよね。映画製作陣の作品にかける下準備の凄さが映像に表れているかと思います。

【ゲーム好きが興奮する映画】

世界的人気ゲーム「マリオカート」をもとにした映画で、脇役に「ソニック」シリーズのソニック・ザ・ヘッジホッグ、「パックマン」のグズタ、「スーパーマリオ」シリーズのクッパなど、実際に存在するキャラが登場するため公開当初話題になりました。ゲーム好きはもちろん、あまりゲームをやったことのない人も知っているようなキャラクターがラルフと話しているシーンもあり、思わず「このキャラ知ってる!」と言ってしまいます。そんななか、なぜクッパは出ているのに肝心のマリオは出てこないのかと不満の声も上がりましたが、マリオのような有名人をたった数十秒で登場させるのは惜しいからだと脚本家も監督も語っています。

また、「フィリックス・イット・フェリックス」という8ビットゲームが描かれているのもこの映画の魅力のひとつ。アニメーションの世界ではいかに動きを滑らかに、本物のように近づけるかに力を入れていますが、8ビットゲームはこれとは逆です。昔のゲームなのでレトロに、動きをカクカクさせなければなりません。このレトロ感がとてもいい雰囲気を出していてレトロゲームをプレイした経験がある人はわかると思うのですが、観ていて懐かしくなります。今のゲームはクオリティが高く映像もとても綺麗ですが、昔の単純動作のゲームもたまにやりたくなりますよね。
公開当初はディズニーの公式サイトでプレイできたのでやってみた人もいるのではないでしょうか。

【製作陣の映画にかける熱意】

「シュガー・ラッシュ」にはディズニーキャラクターだけでなく、ほかの会社のキャラクターが多数登場します。世界観に説得力を持たせるため実際に存在するゲームのキャラクターを使いたいとリッチ・ムーア監督は思っていました。8ビットゲームの「フィリックス・イット・フェリックス」、レースゲームの「シュガー・ラッシュ」、現代FPSの「ヒーローズ・デューティ」といった架空ゲームが登場しますが、誰もプレイしたことのないゲームですので観客はあまり引きこまれません。そこでソニックやパックマンなどのキャラクターの出番というわけです。
各ゲーム会社にプロデューサーのクラーク・スペンサーは交渉しに行きました。ただ、使用許可を得るだけではなく映画作りのパートナーになってほしいと言ったそうです。ここに製作陣の映画作りに込める熱意を感じます。既存キャラクターの世界観を壊さないために各ゲーム会社に協力を頼んだのです。
たとえば、当初クッパはコーヒーの紙コップを指全体で掴んでいたのですが、任天堂側がクッパは指2本で持つはずだと指摘。各ゲーム会社はそろって、「自社の悪役が一番背が高い」と主張し揉めたとか。
また、ビデオゲーム業界出身者やゲームに詳しい人を呼んで試写を観てもらい、コメントやアイディアを求めたそうです。

実際にアニメーションを作るアニメーターもゲーム好きが多く、休憩室にゲームセンターがあり研究の一環としてゲームをプレイしていました。コントローラーやジョイスティックを実際に使用しただけではなくゲーム製作会社も訪問。製作風景を見学し、自分たちの作品作りに活かしたそうです。
さらに、パン屋、キャンディ工場、ヴェネロペのレーシングカー作りをリアルに再現するためトラック工場まで訪問。「シュガー・ラッシュ」の舞台づくりに役立たせました。
そういった努力の甲斐あってゲームの世界が忠実に再現されている映画作品となっています。

【迫力満点!「ヒーローズ・デューティ」の世界】

このアニメのもうひとつの見せ場といっていいのが「ヒーローズ・デューティ」というゲームの世界です。このゲームは近未来の宇宙の果てを舞台にした最新バーチャル・SFシューティングゲーム。“高解像度”の美人カルホーン軍曹とともに巨大昆虫サイ・バグを倒していきます。このゲームやけに迫力があると思ったら製作総指揮を務めたジョン・ラセターが、「映画監督スティーブン・スピルバーグやリドリー・スコットの撮影手法を参考に作ってほしい」とクリエイターに指示したからだそう。手持ちカメラのような揺れや細かい描写に、甘い世界の「シュガー・ラッシュ」やレトロな「フィリックス・イット・フェリックス」とはまったく違う世界のゲームなのだということを認識させてくれます。

カルホーン軍曹もかわいらしいヒロイン・ヴェネロペと違い、とてもかっこいい姿で描かれています。8ビット世界のラルフとカラフルなヴェネロペ、ダークでクールなカルホーン軍曹が並んだ姿はそれぞれ雰囲気が違い、とても面白いシーンとなっていますよね。明確なキャラクター設定と世界観の違いが見事に表現されていてこの映画をただの“ゲーム好き映画”ではないリアルな作品にしているのです。

【長年温めていた作品】

今作の監督リッチ・ムーアは、ジョン・ラセターから誘いを受け、「シュガー・ラッシュ」で長編監督デビューを果たします。その後「ズートピア」ではバイロン・ハワードとともに監督を務めます。ゲームの世界を見事に描ききった「シュガー・ラッシュ」。アカデミー長編アニメーション賞にもノミネートされ大ヒットを記録しました。
そんなリッチ・ムーア監督ですが、ゲームの世界を描いた作品を作りたいとアイディアを長年温めてきたそうで、この作品で存分にその想いをぶちまけています。「レインボーロードでコースアウトして落下する」や「アイテムで相手を邪魔する」などの「マリオカート」の世界を映画にしたかったと語っており、映画のなかでその様子が見事に再現されているのです。監督自身も大のゲームファンで「ドンキーコング」や「パックマン」など子供時代に夢中になって遊びました。「ヒーローズ・デューティ」は一人称シューティングゲーム「HALO」のビジュアルの影響を受けているそう。監督自身が好きなゲームが映画の世界によく表現された作品となっています。

ゲームの世界に入ったような気分にさせてくれる「シュガー・ラッシュ」。この映画の製作陣は入念な取材や、各ゲーム会社への交渉などを重ね、よりリアルでゲームファンを唸らせる作品作りに成功しました。ゲーム好きはもちろん、あまりゲームをしない人も「悪役のラルフが、仲間はずれにされているヴェネロペとともにヒーローを目指す話」として楽しめる映画になっています。

※本記事はコロナウイルス感染拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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