蟲師(むしし):蟲師の魅力はどこか

蟲師とは漆原友紀による漫画を原作としたアニメ作品である。アニメは2期に渡り放送され、エピソード総数は46話プラス特別編1話にのぼる。
本作の雰囲気はとても独特であるが、その不思議と人を惹き付ける魅力は世界中から高く評価された。特に原作に忠実に再現されたことが大きな要因となっているのだが、一体ここまでの評価を得た本当の魅力は果たしてどこにあるのだろうか。蟲師の本当の魅力を、いくつかに分けて考えていこう。

■あらすじ

まずは簡単にあらすじを紹介します。
「蟲師」という職業を生業とし、日々旅を続ける主人公ギンコ。彼は幼少より蟲を引きつける体質のため、一箇所に留まることができません。そして蟲は一箇所に集まると悪いことが起こるとされています。彼は蟲を「ただ在るもの」として、人間と共存させたいという考えを持ち、蟲を研究しながら行く先々で出会う蟲と関わった人と交流を重ねていきます。

■原作に忠実に作られた物語

先にも述べた通り、本作はとにかく原作に忠実に作られたアニメとなっています。これは作者の漆原友紀も好意的に受け取っており、原作ファンも大満足するほど。
具体的に何を忠実に作っているのかについてですが、1つ1つ解説していきましょう。

まずは物語の内容。往々にして漫画を原作とした作品のアニメ化は、多かれ少なかれ改変を伴います。アニメのオリジナルストーリーが足されていたり、オリジナルキャラクターが登場したりといった具合です。中には放送することができないという諸事情から改変が行われることもありますが、今回はそれを除外します。もっとも、それすらもほとんどないのですが。
蟲師はアニメ化をしても、本当に原作のまま作られています。例えば基本1話完結という構成もそうですし、登場人物たちもそっくりそのまま映し出されました。外見が変えられていた、ということもありません。会話の内容や細かな動きも同様です。

これは本作において、とても重要で意味のあることとなっています。
何故なら、原作の時点で「蟲師」という完璧なまでの世界観が確立されているからです。

これは忠実に再現されたものの2つ目、世界観の話へと繋がるのですが、蟲師の世界観は広く評価されていると同時に、多くの人の心を掴みました。だからこそ、そのままそっくり映し出すことが、何よりファンにとって嬉しいことであり、アニメで本作を知った人もこの世界観に惹かれることとなったと言えるでしょう。

■どんな言葉も当てはまるような魅力的な世界観

さて、ここで本格的に蟲師の世界観の魅力についてお話していきたいと思います。
先のあらすじを読んだ時点で、本作は一風変わった物語ということが伺えるかもしれません。その印象を言葉にしようとすると、これがとても難しい問題となります。綺麗、儚い、幻想的、落ち着く、悲しい、心に染みる、など、どんな言葉も当てはまってしまうのです。

これは決して悪いことではなく、良いこととして捉えてほしいのです。
それだけ多くの要素が本作には詰まっていて、多角的に捉えられる物語となっているのです。

例えば、蟲と関わった人々の多くは蟲を取り払うことを思いとどめます。蟲が引き起こす種々の事象はときに人々に困惑を、ときに幸福を、ときに幻を、ときに現実を授けるのです。これは言い方をかえれば、蟲は人々の種々の問題を緩和したり、寄り添ったりすることがあるということです。それ故に人々は抱えてきた問題によって、それぞれ心を揺さぶられます。
蟲は意思をもっているのではなく、ただ「在るだけ」、そこに「いるだけ」で、これらの影響を与えているのです。

人々の揺れ動く心、絶対的「静」という蟲、この2つが合わさったとき、この作品の独特の世界観は真価を発揮します。後味が良いのか悪いのかの判別もできないような物語たちは、この2つから生み出されています。そして、その何とも言い難い印象が心地よく、心に静かに着地するかのような印象を与えてくれるのです。

もちろん、ストーリーにだけ着目しては真の世界観を語ることはできません。次に、この世界観をより引き立たせる要因である作画や演出についても触れてみようと思います。

■色と動きによって本当に動き出した「蟲」

アニメなのでもちろん色がつき、動きを伴います。
これが白黒の静止画で描かれた蟲に命を吹き込みました。

本作の鍵となる蟲というものは、現実にいる昆虫などの虫とは違い、この世のあらゆる生命よりも命の源流に近いものとされています。普通は目に見えないのですが、見える人には見えるものであり、また、全ての人に見える蟲も存在します。形もそれぞれであり、蟲の種類は数え切れないほどなのだそう。精霊や怪異、幽霊に近いようで全く異なる蟲という存在は、不思議そのもの。ギンコが生業とする蟲師も、蟲を不思議と思う者が多く存在しているそう。

その蟲が色を付けたのです。
赤、青、黄、緑、オレンジ、白、黒、透明、何色にも例えられない色。
それは「幻想的」の一言につます。この世のものと思えないほどの美しさは、ぜひアニメを見て確認してほしいと思います。思わず息を飲むようなその確かな存在感、その色が本当にマッチした蟲たちは、蟲師の世界観をさらに際立たせています。
先にも話した通り、蟲の形は様々。中には形を見せなかったものもいます。しかし、どれにも本当にぴたりと合った色を付けています。綺麗で、美しくて、艶があって、なのにどこか儚さがあって…。きっと多くの視聴者は、この感覚に酔いしれ、虜になったのでしょう。

動きについても触れておきたいと思います。
アニメでの蟲たちは動きがあるもの、動きがないものの2つに分けられます。
この動く方だけに着目すると、まるで蟲は本当に生きている生命体のように映ります。その動きが、何故だかその蟲のイメージと合致するのです。過度に動くでもなく、しかししっかりと存在感を主張する動きを持って、1つの蟲が命を宿しているのです。

反面、動かない方は静止画と変わらないのかというとそうではありません。動かない蟲は、それはそれで動いていないのに命が吹き込まれ、描写としての動きはなくとも、生命体としての動きを感じられるようになっているのです。これは色がついていること、作品の演出が巧であることなど、色々な要因も関係しているとは思いますが、やはり「動き」という観点からも、蟲たちの存在感を感じられるのです。

■制作スタッフの丁寧な仕事

これまで世界観や蟲の存在という観点から蟲師の魅力を考えてきたましたが、これらを作り上げたのは制作スタッフたちです。彼らの丁寧な仕事、そして本作への愛情があったから、全ては生み出されたのです。

いくつかポイントを挙げましょう。
まず作画について。本作ではCGを一切使わず、手描きに拘って作られました。理由は蟲という不思議な存在を、CGという無機質なもので表現したくなかったため、手描きの方が、より蟲の本来の姿に近いものが描けると思ったからなのだとか。
本作はまだCGという技法がそこまで主流ではなかった頃、2005年に第1期が放送されました。この時点ではCGを使わなかったことはアニメーション技術の進歩、発展を含む背景もあるのだろうと推測ができます。
しかし、第2期は9年の時を経て放送されました。第2期放送の2014年となると、もうCGを使ったアニメは多く登場し、他にも最先端の技法を取り入れた作品が多く登場していました。しかし、それでもなお、制作スタッフは手描きに拘ったのです。それだけ、この完成された世界観を変えたくなかったのでしょう。この作品への愛情はとてつもないものなのです。

その他に、制作スタッフが拘ったというBGMにも着目したいと思います。本作はEDに、各話それぞれオリジナルのBGM楽曲が添えられました。各物語の雰囲気やイメージに基づいて全話分作られ、それは物語を締めくくるのに最適なものとなりました。1つ1つの物語に向き合い、物語を大事にし、魅力を引き出すこと。これに注力したということが伺えるのです。本当に細部まで拘り抜かれたのだな、と感じられます。

最後に1つ、もっともこの作品は制作スタッフに愛されているのだな、と感じたエピソードをご紹介しましょう。
先程、アニメは第1期から第2期まで9年の歳月がかかったとお話したと思います。何故ここまでの時間がかかったのでしょうか。原作はとっくに完結していました。予算だって第1期が広くヒットしたおかげで、潤沢とは言えなくとも制作に必要な分はあったはずです。では何故?

その答えはこう。
第1期のときのスタッフを再集結させるのに時間がかかったからです。

蟲師の第2期を作るにあたり、制作の、特に監督などは第1期の制作に関わった人物に拘りました。というのも、人を替えると作品自体が変わってしまう恐れがあったからというのと、この作品をもう1度同じメンバーで作り上げたいという思いがあったからなのだとか。
仕事をしていく上でこの人物と共に仕事をしたい、と思うことは誰だってあると思います。しかしこれがアニメ制作の世界でも起こったのです。しかもそっくりそのまま、誰1人欠けることなく。
そして9年という長い時間はかかりましたが、当時のスタッフは再集結し、第2期が作られ、物語は終わりまで描かれたのです。

■最後に

蟲師の魅力についてたくさん語ってきましたが、伝わるでしょうか。
とにかく魅力的で、どこまでも心に馴染むようで、世界観がしっかりとあり、拘り抜かれ、丁寧に作られた作品なのです。これだけ述べても魅力は伝えきれません。国境を越えて人気になったのは、蟲師の世界観が漂わせる不思議な空気によるものなのでしょう。

日本では実写映画化もされるほどの人気を博したこの作品、ぜひ1度、手にとってみてはいかがでしょうか。原作の漫画でも、アニメでも、それはどちらでも良いのです。どちらも甲乙つけ難い良さを孕んでいるのですから。

アニメ「蟲師」第1期 予告編

※本記事はコロナウイルス感染症拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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