ヤードバーズ:現代のロック史に連なる偉大なる伝説

エリック・クラプトン、ジェフ・ベック、ジミー・ペイジ。3人の偉大なギタリストが入れ替わりに在籍した伝説的なロックバンド。ブルース、ロック、そして現在のハードロックの原型を築くなど、時期ごとにスタイルを変えて変化していったTheYardbirdsはやがてある偉大なロックバンドへと変貌を遂げた。

<名前より価値のあるものを残したバンド>

ロックという音楽ジャンルには、既に50年以上の歴史があります。いくつかの説がありますが、ロックの起源はビル・ヘイリー・アンド・ヒズ・コメッツ(Bill Haley & His Comets)の「ロック・アラウンド・ザ・クロック」(Rock Around the Clock)であるという意見が有力で、同曲がリリースされた1954年から数えれば2018年の時点でロック生誕64年ということになります。
そんなロックの歴史を振り返ると押さえておくべきいくつかの偉大なロックバンドがあるもの。たとえばアメリカの著名な雑誌「ローリング・ストーン」(Rolling Stone)は「ローリング・ストーンの選ぶ歴史上最も偉大な100組のアーティスト」を選定しており、多くの音楽好きの指標となっています。その『偉大な100組』の第89位に選ばれているThe Yardbirdsの軌跡を辿ってみたいと思います。古い世代のロック好きには知られたバンドですが、他の伝説的なロックバンドと較べ、今ではあまり知名度が高いとは言えません。しかし変化を繰り返したこのバンドは、最終的に世界的な名声を得た偉大なバンドへと変貌を遂げたのです。

The Yardbirdsは1963年にロンドンで結成されました。中心となったのはボーカルとハープを担当するキース・レルフ(Keith Relf)で、彼はメンバーの入れ替わりが多かったバンドの中で終盤まで不動のボーカリストでした。バンドの名付け親も彼で、その由来は天才的なジャズ・サックスプレイヤーであるチャーリー・パーカーのあだ名です。結成当初、ブルースやR&Bのカヴァーが主な演奏レパートリーでした。その矢先にギタリストが家族の猛反対で脱退するという最初のメンバーチェンジに見舞われてしまいます。

<エリック・クラプトン(Eric Clapton)の参加と最初のヒット曲>

初代ギタリストのアート・スクール時代の顔見知りだった縁で、エリック・クラプトンがギタリストとして参加しました。これが好機となったのかThe Yardbirdsはロンドンで当時人気のあったナイトクラブ「クロウダディ・クラブ(Crawdaddy Club)」のハウス・バンドとして抜擢されました。

クラブの前任バンドは世界的に有名なモンスター級ロックバンドとなったローリング・ストーンズ(The Rolling Stones)だったと言えば、これがどんな大きなチャンスだったかお分かりになると思います。この時期に「FIVE LIVE YARDBIRDS」というファーストアルバムをリリースし、The Yardbirdsの活動は順調にスタートしたかに見えますが残念ながらヒット曲には恵まれていませんでした。
この頃のマネージャー(The Yardbirdsはギタリストだけでなくマネージャーも何度か入れ替わっています)は、「クロウダディ・クラブ」の支配人であったジョルジオ・ゴメルスキーでした。彼はバンドをクラブに抜擢しただけでなく、マネージャーになり熱心にバンドを売り出そうとしました。そのためにどうしてもヒット曲が欲しかった彼は、バンドの方向性とは違うポップでメロウな楽曲「For Your Love」のリリースを進めました。結果「For Your Love」は初のヒット曲となります。
しかし、ピュアにブルースを追い求めていたクラプトンは商業的成功のためポップな曲をリリースしたバンドに落胆して脱退してしまいます。後に、クリーム(Cream)というブルースをベースにしながらもアバンギャルドなバンドを結成した彼ですが、この時はブルースの求道者のような考え方だったのでしょうか。

<ジェフ・ベックの加入とアグレッシブな変化>

ギタリストを失ったバンドは当時セッション・ギタリストとして人気のあったジミー・ペイジ(Jimmy Page)に声をかけました。しかし彼は多忙を理由に断り(友人だったクラプトンに気を使ったという説もあります)、代わりにジェフ・ベック(Jeff Beck)を推薦しました。革新的で偉大なギタリストであり、現在も現役のベックですが当時は無名でした。クラプトンやペイジのような知名度はありませんでしたが彼の加入はバンドに変化をもたらしました。ブルースの単なるカヴァーからの脱却を模索していた旧来のメンバー、商業的ヒットだけを求めるマネージャー、その両者の思惑を超えてベックのギタープレイはアグレッシブで“今までにない”ものだったのです。古いブルースでもなく甘いだけのポップ・ミュージックでもない、オリジナリティに溢れた音楽性をバンドは獲得したのです。それは2018年の耳で聴いてもエキサイティングなもので、現代に繋がるハードロックの原石を見る思いです。その時期の代表的な楽曲は「Train Kept A Rollin’」。ハードロックの永遠のスタンダードと言えるでしょう。曲そのものはオリジナルではなく古いブルースのカヴァーですが、そちらを聴いてみるとまったく別の曲に感じます。「Train Kept A Rollin’」をThe Yardbirdsの代表曲とし、また同時にロックの定番ナンバーとなっているのはベックによる独創的なギターリフによる部分が大きいと言って良いでしょう。この曲は後にエアロスミス(Aerosmith)にもカヴァーされますが、オリジナル楽曲ではなくThe Yardbirdsのカヴァーだと言いたくなる仕上がりです。

<ジミー・ペイジの加入でツインリード体制に>

音楽的に飛躍しましたが、内部ではゴタゴタもありました。ビジネス最優先で音楽性などお構いなしのマネージャーとの決別、連日の演奏活動に嫌気がさした結成初期からのベーシストの脱退といったトラブルです。ベースの穴を埋めるため再びジミー・ペイジに声をかけました。今回は快諾したペイジでしたが、ベーシストを務めるつもりはなかったようです。すぐにベーシストの役割を結成当初からのサイドギタリストに押し付け、自分はギターを弾くことにしました。こうしてベックとペイジのツインリード体制となったのです。
この時期の楽曲「Happenings Ten Years Time Ago」では冒頭から強烈なツインギターが聴けます。またミケランジェロ・アントニオーニ(Michelangelo Antonioni)監督の映画「Blow Up」劇中ではベックとペイジによる演奏を映像で見ることができます。ちなみに映画の中で演奏されるのは「Train Kept A Rollin’」の歌詞を差し替えた「Stroll On」で、これは権利関係の問題で「Train Kept A Rollin’」を使用できなかったからだそうです。
この時期は新しく就任したマネージャーも音楽性に理解があり、強力な2人のギタリストが全面に立ちバンドは絶頂期に見えました。しかし、クラプトンを始めとする優れたギタリスト達が注目される陰で、結成時の中心メンバーであるボーカルのレルフは不満を募らせていました。そうして彼がバンドに意欲を失い始めると、ペイジがバンドのリーダーシップを取ろうとし始めました。レルフとペイジに限らずメンバー間の仲は最悪な状態だったらしく、やがてベックは脱退してしまいました。
ベックとペイジのツインリード体制はこうして短期間に終わりました。

<終末を経て新たなバンドの誕生>

ベックが去り、バンドのイニシアチブはペイジのものとなりました。同時に、結成当初からのメンバーはどんどん意欲を失っていき、やがてボーカルを除いて旧来のメンバーはレコーディングに呼ばれなくなり、ペイジが連れてきたセッション・ミュージシャンのプレイが録音される有様となりました。ペイジには、もっと演奏が巧いメンバーを加入させたいという思惑があったようです。もはやバンドは事実上の空中分解といった状態となり、遂に結成時の中心人物だったボーカルのレルフとドラマーが脱退。新たなボーカルに当時はまだ無名だったロバート・プラント(Robert Plant)、ドラマーにはプラントのバンド仲間ジョン・ボーナム(John Bonham)が加わりました。最後まで残っていた旧来のベーシストも抜け、代わりにペイジと旧知のベーシストでありマルチ・ミュージシャンのジョン・ポール・ジョーンズ(John Paul Jones)が参加しました。
とうとうオリジナルメンバーが一人もいなくなり、バンドはNew Yardbirdsと改名しました。しかし中身はもはや全く違うものになります。New Yardbirds名義はThe Yardbirdsとしてプロモーションの契約が残っていたからで、契約が終了するとYardbirdsを名乗る必要もなく、またThe Yardbirdsのネームバリューも必要なくなっていました。
そうしてThe Yardbirdsの崩壊を経て、より高い次元の存在へと生まれ変わっていたバンドは、レッド・ツェッペリン(Led Zeppelin)と名乗ることになったのです。
The Yardbirdsの終末はLed Zeppelinの転生だったのです。

<終わりに>

こうしてThe Yardbirdsの足跡を振り返ると、3人のギタリスト達やLed Zeppelinのことばかりが語られる不幸なバンドだった、という気もしてしまいます。ですが偉大な何かの誕生の場となり、世に出るため育んでくれた母なる海のような存在だったと感じることもできると思います。その点でもロックの歴史において重要な存在だと言える、それがThe Yardbirdsだと思うのです。

※本記事はコロナウイルス感染拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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