フランク・ステラ:色彩とミニマル・アート

フランク・ステラはアメリカ合衆国マサチューセッツ州出身の画家です。最初はミニマル・アート風の作品を制作していたものの、徐々に二次元とも立体ともつかない作品を制作し始め、戦後アメリカの抽象絵画を代表する作家となりました。

■フランク・ステラとは

フランク・ステラは1936年アメリカ合衆国マサチューセッツ州、モールデンに生まれました。1954年にニュージャージー州にある名門プリンストン大学に入学、美術史を学びます。その後1958年にはニューヨークに移住し、芸術家としての活動を始めたのもこの頃でした。

当時のアメリカはジャクソン・ポロックをはじめとする抽象表現主義が最盛期を迎えており、力強く豊かな表現の作品が世界でも認められるようになっていた時期でした。そんな中、ステラはそういった情熱的な作品を描く流れには乗らず、むしろ平坦で無機質な作品を制作することに力を注ぎます。

抽象表現主義に反抗心を覚えたのは彼ばかりではありません。高尚な存在として扱われる抽象表現主義に疑問を持ったロバート・ラウシェンバーグは、日常的に使っていた布団を作品に用いたり、古道具屋で拾ってきた古タイヤを作品の一部としたり、当時としては画期的な作品を制作しました。同じくジャスパー・ジョーンズはダーツの的やアメリカの国旗など日常的にありふれたイメージを主題として作品を制作しました。彼らは「ネオダダ」と呼ばれ、大衆的なイメージや廃物を作品に用いることで抽象表現主義に反旗を翻そうとしたのです。
抽象表現主義の作品にいささか飽きつつあった一般大衆はこれを歓迎、ステラも抽象表現主義ではない新しいアートを目指そうと作品を制作するようになります。

■抽象表現主義と「ブラック・ペインティング・シリーズ」

1959年にニューヨーク近代美術館で開催された「16人のアメリカ人」展に招待され、「ブラック・ペインティング・シリーズ」と呼ばれる作品を4点出品します。この作品はキャンバスにわずかの余白を残しつつ黒で塗りつぶし、シンプルなラインを浮かび上がらせた幾何学的なストライプの模様を描いています。この作品は当時のアートシーンに反響を呼び、大きな話題となりました。

ブラック・ペインティング・シリーズは抽象表現主義ともネオダダとも異なり、絵画における要素をできるだけそぎ落とした表現のもと成り立っている作品です。こうした表現のことを「ミニマリズム」といい、1960年代には「ミニマル・アート」として注目を集めるようになります。ミニマル・アートの作家としては彼の他にドナルド・ジャッドやソル・ルウィットが知られており、この制作スタイルは抽象美術の純粋性を徹底して突き止めたものとして受け止められました。

ここで再度「ブラック・ペインティング・シリーズ」に目を移してみましょう。ブラック・ペインティング・シリーズは、家庭用のブラシを用いてキャンバスに直接フリーハンドで描かれた作品です。均一に塗られた線線からは、厳格ささえ感じるでしょう。

■ミニマリズムの広がり

ここで、ミニマリズムについて掘り下げてみましょう。
アートにおけるミニマリズムはもともとロシア構成主義からはじまりました。ロシア構成主義はウラジミール・タトリンが鉄片や木片を使った自身の作品を「構成」と呼んだことから始まったこの新しい芸術運動は、伝統的な絵画や彫刻を否定し、鉄やガラスといった工業的な素材で制作するという特徴がありました。その後1922年にアレクセイ・ガンが『構成主義』を発表すると抽象性や象徴性に重きが置かれるようになり、アレクサンドル・ロトチェンコやエル・リシツキ―といった作家を生み出していくことになります。

そんななかカジミール・マレーヴィチは円と三角形、正方形のみで作品を創り出そうとしました。この試みはミニマリズムの基本となり、ロシア革命によって多くのロシア人がアメリカ合衆国に脱出したことで輸入されていきます。ミニマリズムは極力まで表現を切り詰めた《空間の鳥》などで知られるコンスタンティン・ブランクーシや金属プレートやレンガを用いたカール・アンドレらに影響を与え、ドナルド・ジャットやステラをはじめとしたミニマル・アートのアーティストを生み出していったのです。

■キャンバスの形も超えて

しかしそうしたミニマル・アートの運動は長くは続きませんでした。抽象表現主義は衰退したものの、ポップアートやランドアートなどさまざまなアートが生まれ、多様な表現を生み出せないミニマル・アートにアーティストたちが閉塞感を感じたのでしょう。ステラも《トムリンソン・コート・パーク》という作品を制作したのち、新しいアートの形に挑戦することになります。

次の作品としたのは眼鏡のような形のキャンバスを用いた《ヒラクラ III》。角度の目盛りがついた分度器のように放射線状にさまざまな色が塗られており、多様な色使いは視覚を刺激するテンポの良いカラフルな表現となっています。

■作品の立体化と「白鯨」シリーズ

その後さまざまな作品に挑戦していきます。1971年から段ボールやフェルトを取り入れ、75年からはアルミニウム板を素材に取り入れ、それぞれの素材を活かしながら作品の立体化を試みました。

1986年、アメリカを代表する作家であるハーマン・メルヴィルの『白鯨』を主題とした「白鯨シリーズ」に取り組むようになります。立体の作品に取り組んだことで次第に大型になるようになり、白鯨シリーズのひとつである《メリー・クリスマス3X》は489cm×332cm×170cmとまるで飛び出してきたかのようなオブジェめいた作品になっています。

■おわりに

フランク・ステラはアメリカ、マサチューセッツ州に生まれたミニマル・アートを代表する画家。初期はブラック・ペインティング・シリーズといって黒のストライプのみを描いた作品を制作し、当時のアートシーンに大きな反響を起こしました。その背景にはロシア革命によって多くのロシア人がアメリカに亡命したことでロシア構成主義が輸入されたという歴史的な事情がありました。

その後はキャンバスの形にとらわれない作品を制作、さまざまな素材を取り入れて作品の立体化を試みるなど表現の可能性に挑戦していきました。1986年からは大型の作品に取り組み、さまざまな素材を取り入れて立体的に構成した作品は、二次元から三次元、そして色彩においてもこれまでにない作品となっています。

2018年時点で82歳となり、2012年には回顧展がドイツのヴォルフスブルク美術館で行われました。彼の作品は現在もなお、人々を惹きつけてやまないのです。

※本記事はコロナウイルス感染拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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