ボルボ : 過去から未来までのビジョンを訪ねる

~ウィンド フロム スカンジナビア 安全に対する高い企業理念の世界への発信~

目次
1) 概要
2) ボルボの産声と歴史
3) ボルボの魅力とモデルラインアップ
4) ボルボの未来へのビジョン

1) 概要

北欧の地で2人の天才が偶然出会ったことが、ボルボ発祥のきっかけであると語り継がれています。
その2人とは、幅広い視野で全体像と未来像を捉える経営者アッサール・ガブリエルソンと、秀逸な自動車設計者グスタフ・ラーソンです。
2人は厚い信頼関係を築き、真摯に自動車の開発を進めていきました。
創立時に打ち出したボルボの基本理念は、「車は人間によって運転されるもの。だからこそ、ボルボは常に安全でなければならない」。
歴史に燦然と輝いている安全な名車の数々を訪ねるとともに、誠実な車創りを貫いてきた設計思想を学んでいきましょう。

2) ボルボの産声と歴史

ボルボの誕生まで

(Public Domain /‘Assar Gabrielsson Volvo 1960’ by Lidingo. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

アッサール・ガブリエルソンは1891年に商人の家に生まれ、ストックホルム大学で経済学を学んだ後、スウェーデン議会で速記者を4年間務めます。その後、当時はスウェーデンの最大企業であった、ヨーテボリのベアリングメーカー「SKF」に入社。
入社してから彼が発揮した力は、その人間的な魅力も含めた類い稀な販売技術でした。そのまま出世街道をひた走り、29歳にはパリ支社長に就任したのです。この支社長時代の気づきが「ボルボ」を産み出したのです。
自社SKFのベアリングの高品質性は衆知の事実であり、特にフランスの自動車業界においての需要は高いものでした。スウェーデンの工業製品が他国で強い競争力を持っていることを知ったガブリエルソンは、自動車製造業に着眼し、自社で生産することを実現する壮大な目標に掲げました。
その理由の一つとしては、当時スウェーデンの労働者の賃金はアメリカと比較すると約4分の1の水準であり、コスト競争力では決して引けを取らないと評価したからでした。

(Public Domain /‘Gustav Larson Volvo 1962’ by Lidingo. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

1920年に在籍していたSKF社を辞した後、ガスケットやベアリング・メタルを製造するガルコ社の技術部長の職にあったグスタフ・ラーソンは、ガブリエルソンに請われてスウェーデン初の自動車設計に着手しました。
そのプロセスは、経営に精通しているガブリエルソンがまずコスト計画を策定し、販売予定価格を決定した後設計へ進めるというものでした。
青写真が完成した1925年7月、9台のオープンカーと1台のサルーンの試作車の開発がスタート。約1年間の努力が実り、1926年の8月には試作車が完成しました。これにより、SKF社はこの自動車製造部門に20万クローナの出資することを決定し、SKFの休眠ブランドであったボルボの名を与えて自動車製造を始めることにします。
ボルボとはラテン語で「私は廻る」という意味で、ベアリングメーカーであるSKF社の子会社の名前であったことはいかにもと感じるところです。
スウェーデンといえばノーベル賞のイメージが強いですが、ノーベル賞の現在の賞金は、一つの賞につき900万クローナ。出資金の20万クローナの価値はそこから推し量ってください。
試作車が完成した後も誠実なクルマ創りが真摯に継続されましたが、販売はやや低調でした。しかし、ボルボの商業的な強みであるトラックの販売が好調となり、乗用車の開発は前進していきました。

◆歴史に足跡を残す安全神話のスタート

●PV444

1945年、第2次世界大戦終結直前に発表されたのがPV444です。
そのスペックである4人乗り、40馬力、4気筒エンジンがネーミングの由来。
発表から13年間に及ぶ年月で20万台超の生産が行われ、エコノミーな小型車として人気を博しました。

●アマゾン

(Public Domain /‘Volvo Amazon’ by Pujanak. Image via WIKIMEDIA COMMONS)

1956年の発表。
60馬力の最高出力で、当時としては抜群の走行性能を誇るエンジン、そして流麗なエクステリアデザインで大いなる人気を呼びました。
1959年型モデルからアマゾンに標準装備されたシートベルトは、各国がその後次々に取り入れました。

◆時を乗り越える、ボルボ開発の安全装備

ボルボがこれまで世界のトップランナーとして開発してきた安全装備は、枚挙にいとまがないです。
採用した安全装備には以下のものがあります。

  • 1968年、前席と後席両方にヘッドレストを装着。
  • 1972年、チャイルドシートを開発。
  • 1974年、多段式衝撃吸収ステアリングシステムの導入。
  • 1989年、プリテンショナー付きフロントシートベルトの導入。
  • 1992年、エアバッグを全車に装備、側面衝撃システムを採用。
  • 1994年、サイドエアバッグを採用。
  • 1997年、サイドエアバッグを全車に採用。

こうして時系列で整理していくと、安全設計については時代がボルボに後れをとらないよう、駆け足で追いつこうとしてきていたことがよくわかります。
いかがでしょうか。
現在の身近な安全装備、法律で義務付けさえされている数々の機能の設計起源は、全てボルボであったといっても過言ではないことにお気付きいただけましたか。

3) ボルボの魅力と現行モデルラインアップ

ボルボの乗用車部門はフォード傘下の時代を経て、2010年に吉利 (ジーリー) ホールディングスがボルボ・カーズを買収しました。しかし吉利グループは、ボルボのクルマ創りに干渉しないことを明言しています。
現行モデルのラインアップは、

1. SUV 3タイプ

2. エステート 2タイプ

3. クロスカントリー 3タイプ

4. セダン 1タイプ

合計4セグメント9タイプとシンプルにまとめられています。
そのエクステリアには北欧神話に登場する最強の神、トールの武器、トールハンマーをモチーフにしているT字ヘッドライトを取り入れたデザインで統一されています。

そして全タイプに標準装備の先進安全技術「インテリセーフ」が搭載されています。
これは、レーダーやカメラなどの検知機能で自動ブレーキなどの先進テクノロジーを駆使する安全機能です。
では、その機能17種類の解説を始めましょう。

I. 大型動物検知機能

ヘラジカなどの大型動物を検知して自動ブレーキを作動させます。
森と湖のある大自然の国スウェーデンには、森の王の異名を持つヘラジカが多く生息しています。ヘラジカとは体長3m体重800Kgにも及ぶ巨大なシカのこと。このヘラジカは冬になると、スウェーデンの道路に姿を現すことが頻繁にあります。その理由は冬季に路面に散布される融雪剤、その成分である塩をなめるために道路上にやってくるのです。自然界の求めですね。
ヘラジカの巨大な胴体は意外にも細い足で支えられています。この体型は夜間にはヘッドライトで照射しても、ドライバーにとっては動物が目前に存在することの認識がしづらいのです。もしヘラジカが自動車と衝突すると、細い足を骨折し、800Kgの強大な胴体で運転席を圧迫して押しつぶしてしまうのです。この現実に直接対処するためには、頑強なキャビンと衝突安全機能が必須になりました。この問題に愚直に取り組むことが、ボルボの安全に対する理念のルーツのひとつであることは確かです。自然との共生が究極の目的なのでした。

II. 衝突回避、軽減フルオートブレーキシステム

歩行者やサイクリストの存在を判定するとドライバーへ注意を促し、衝突の恐れがある場合は自動ブレーキを作動させます。

III. インターセクション・サポート

交差点右折時の対向車の検知と監視機能で、衝突の恐れがある場合は自動ブレーキを作動させます。

IV. アダプティブ・クルーズ・コントロール

前走車との適切な車間距離を保つように駆動力とブレーキを自動制御し、発進、追従、停止までを自動的に作動させます。

V. レーン・キーピング・エイド (LKA)

自車が車線を逸脱しようとすると車線の中央を走行するようにステアリングの「アシスト」を行う、車線保持支援機能です。

VI. パイロット・アシスト

140km/h以下での走行中、車線の中央を走行するようにステアリングの「自動修正」を行う、車線保持支援機能です。

VII. ステアリング・サポート

50km/hから100km/hの範囲で作動する衝突回避支援機能で、自動ブレーキでは衝突を回避できない状況でステアリングを「アシスト」します。

VIII. ランオフロード・ミティゲーション

道路を逸脱する恐れを検知するとステアリングとブレーキ作動を「アシスト」し逸脱回避のサポートをする、道路逸脱回避支援機能です。

IX. オンカミング・レーン・ミティゲーション

60km/hから140km/hの範囲で作動する、対向車線衝突回避支援機能です。
自車線を逸脱した場合に対向車との衝突の恐れを検知すると、車線内に車両を戻す方向へステアリングを「自動修正」して逸脱を抑制します。

X. ステアリング・アシスト付きブラインドスポット・インフォメーション・システム

車線変更時に後方から接近する車両を検知し、衝突の恐れがある場合には元の車線に戻るようにステアリングを「自動修正」する、後車衝突回避支援機能です。

XI. パーク・アシスト・パイロット

駐車時のハンドル操作を「自動」で行う縦列・並列駐車支援機能です。

XII. クロス・トラフィック・アラート (CTA)

見通しの悪い場所からバックで出庫する場合、接近してくる車両・自転車・歩行者を検知します。

XIII. レーン・チェンジ・マージ・エイド (LCMA)

後方から接近する車両を検知し、ドライバーに警告します。

XIV. ランオフロード・プロテクション

道路を逸脱する危険を検知した場合、シートベルトを制御して乗員に加わる衝撃を緩和する、道路逸脱事故時保護機能です。フロントシートは衝撃吸収機構付きです。

XV. ドライバー・アラート・コントロール (DAC)

ドライバーの眠気や注意力欠如による異常な走行状態を検知するとドライバーに警告します。

XVI. ロード・サイン・インフォメーション

道路標識を認識して液晶メータに表示し、安全運転をサポートします。

XVII. フル・アクティブ・ハイビーム

ヘッドライトのハイビームの自動制御機能で、先行車や対向車を眩惑させてしまうことを防ぐ周囲への気くばり機能です。

次々に開発されていくインテリセーフの着地点は自動運転。
人が運転しない自動運転を、全ての発想の中心に人をおいているボルボが実現してしまったら、この矛盾はどう解決したらよいのでしょうか?
それは、「人間という生き物は完璧ではない。システムが安全の支援をしなければならない」ということだと想います。
ボルボの安全思想の究極の形が自動運転技術なのかもしれません。

4) ボルボの未来へのビジョン

◆Vision2020

安全なクルマ創りに対する強い信念が哲学であるボルボにとって不変のビジョン、それは「安全」のために努力することです。

またボルボには、2008年に発表されたビジョンがありました。
それは、新しいボルボ車での交通事故による死亡者や重傷者を2020年までにゼロにするというビジョンでした。ゼロという目標を掲げたことに、世界は驚きました。
Vision2020は持続可能な交通システムを作り上げようとする取り組みで、ボルボが現在、そして未来において、人と世界をどのように守っていくかの宣言でもありました。具体的な内容は、ボルボが独自に集めた42000件以上の事故データの分析で、これを新たな安全運転技術の開発に生かしています。
この事故調査委員会は世界に先駆けて1970年に設立され、本社の所在地であるイエテボリ周囲で発生したボルボ車の事故について、警察とレスキューサービスの協力を得て調査を続けています。付け焼き刃ではありません。年季が入っているのです。

ボルボには偉大な発明があります。
それは、普段から誰もがお世話になっている「3点式シートベルト」。
1959年にボルボのエンジニア、ニルス・ボーリンが開発し、ボルボが特許を取得しました。驚くべき事実は、この特許をなんと無償で他の自動車メーカーに提供したのです。
まだ安全に対する関心が薄かった時代にこうした対応をすることで、ボルボはシートベルトを世の中に広めたのです。
安全への取り組みが筋金入りであることの感動エピソードですね。
多くの人の予想通り、ボルボは未だ犠牲者ゼロの目標を達成できてはいません。
もちろんそれを達成できると思っている人はただの一人もいませんでした。
ただ、犠牲者をゼロにするというボルボの固い信念があるだけです。
今までも、そしてこれからも、その普遍の理念をもってボルボは常にゼロを目指し続けていくことでしょう。

このようにボルボの周辺には大衆をうならせるような報道や発表はありませんでしたが、ボルボらしく地道に、そして着実に前進し、掲げる安全哲学は決して揺らぐことはありません。
「車は人によって運転され、使用される。したがってボルボの設計の基本は、常に安全でなければならない」
ボルボの創業者アッサール・ガブリエルソンとグスタフ・ラーソンの言葉です。自動運転の時代が来てもクルマ創りの全てにおいて「人」を中心に発想するボルボの技術の完成を、期待に胸ふくらませて待ちわびましょう。それはあなたにとって価値のあることになるはずです。

※本記事はコロナウイルス感染拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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