カンティヨン・クリーク:ルビーのように艶やかな赤いビール

ベルギービールを代表する真っ赤なビール、クリーク。さくらんぼを加えた甘酢っぱく優しいビールで、その華やかな色合いと飲みやすさから世界中で愛されている。

このクリークはいろいろな醸造所で製造されており、カンティヨン・クリークのほか、ベルビュー・クリーク、ブーン・クリーク、リンデマンス・クリークなどがあるが、今回はその中からカンティヨン・クリークについてクローズアップしてみよう。

観光ついでに立ち寄れるブリュッセルにある醸造所

カンティヨン醸造所は、賑やかなブリュッセル・ミディ(南)駅から徒歩10分ほど、雑然とした街中の大通りを通りぬけた静かな通り沿いにある。ミディ駅界隈は近年治安が悪いところも多いので、なるべく大通りから外れないように歩いていこう。

ベージュの梁の建物はそれほど大きくなく、「Cantillon」という小さな看板がなければ、ここが醸造所だとは分からないかもしれない。ドアを開けると吹き抜けのようになっており、酸っぱいような香ばしいような独特の香りが広がる。ここカンティヨン醸造所で作られるビールは、全て空気中にあるランビックという自然酵母を使ったものなので、その香りを感じることができるのだ。

季節によって異なるが、毎日定時に英語(もしくはフランス語)のショートツアーが行われており、各国語に訳されたパンフレットと簡単な説明を行ってくれる。より詳しい説明を聞きたい人はスタッフが館内のポイントを説明してくれるガイドツアーもある。こちらは事前にメールなどから予約が必要だ。

醸造が行われている冬場などは混み合うこともあるが、スタッフが案内してくれるので受付前で待っておこう。

醸造所の中は蜘蛛の巣でいっぱい なぜきれいに掃除しないのか?

改めてカンティヨン醸造所で作られているビールについて説明しておきたい。こちらのビールは全て、ランビックかグーズと呼ばれる独特のビールだ。

ブリュッセルやその周囲の地域で空気中の野生酵母を使って自然発酵させたビールのことをランビック・ビールという。野生酵母ランビックはブリュッセルにあるゼナの谷に生息するといわれ、ランビック・ビールと名乗れるのはこの地域で作った自然発酵のビールのみ。

さらにこのランビック・ビールを瓶内で自然に二次発酵させたビールがグーズだ。人工的な酵母を一切使わずに自然な発酵を促すため、昔ながらの風味が豊かで、乳酸菌の酸っぱさが特徴。

順番通りに醸造所内をまわっていくと気づくと思うが、木の梁や床、壁などは近代的でなく古い造り。掃除も隅々まできちんとという感じではなく、ざっとホウキをかけたというように見える。しかもあちこちには蜘蛛の巣が…。

実はこれ、醸造所内に棲んでいる野生の酵母を殺さないようにしているのだという。内部をピカピカに磨き上げてしまうと、昔からこの醸造所にいる酵母まで消えてしまう。また、蜘蛛は野生酵母の天敵である雑菌を運ぶハエを食べてもらうために必要なのだそうだ。木の梁や壁をよく見ると、粉をふいたように白くなっているところがある。これが、カンティヨンに棲む酵母たちだ。

小さな生態系を守り、美味しいビールを作るために敢えて昔ながらの状態を保っているという訳だ。

1〜8まである部屋を巡るといよいよテイスティング。クリークだけでなく、カンティヨン・グーズ、カンティヨン・フランボワーズなどいろんなビールが飲めるので、どのビールが飲みたいかゆっくり考えてみよう。

ゆっくりじっくり。自然の力を最大限に利用してつくられるクリーク

この醸造所のでビールの製造方法は、近代的なビール工場で作られるビールと比べるとかなり時間がかかる。それはビールが自ら発酵するまで、じっくりゆっくり時間をかけるからだ。

クリークの原材料は麦芽、ホップ、小麦、酵母にさくらんぼというシンプルなもの。パンフレットによる過程は、1,麦を粉砕、2,次に煮沸とホップの添加、3,これを冷却、4,樽内発酵・熟成、5,瓶詰めするとある。1〜3までは近代的なビール工場の仕組みとそれほど変わらない。驚くべきは3から4の冷却と発酵・熟成の過程。

発酵させているのは建物3階の屋根裏部屋。外気が入るように穴が開けられ、冷却と発酵・熟成が同時にできるようになっている。冷却タンクの中の麦汁はここで直接外気と接し、冷やされ、この地域特有の微生物により発酵していくのだ。きちんと冷えるように醸造が行われるのは10月〜4月くらいまで。夏だとバクテリアなどが入ってしまうのだという。

クリークはこのようにつくられたランビック・ビールをさらに2年熟成、それに収穫されたばかりのフレッシュなさくらんぼを数ヶ月漬け込む。1リットルのビールに対し400g〜600gほどのさくらんぼを漬ける贅沢なものだ。そして、さらに若いランビックをブレンド、瓶詰めして二次発酵させれば出来上がり。

完成までに足掛け3年。手間ひまかけて作ったクリークは心して味わいたい。

自然と共に。カンティヨン醸造所の歴史

1900年、初代ポール・カンティヨンがブリュッセルのアンデルレヒトというところにブルワリーをつくったのがはじまり。現在の経営者は4代目、開業からずっとアメリカなどの大手資本の傘下に入らず、昔ながらの伝統的な製造方法を守ってきた醸造所だ。建物も開業当時とほぼ同じ19世紀のもの。

自然の力を借りて長期発酵するため、どのビールも乳酸菌の酸味が強く、個性的な味わい。カンティヨンのビールを飲み慣れたベルギー人には、その独特の味わいから一口飲んだだけで「カンティヨンの味」とわかるのだという。

製造に時間のかかるランビック、グーズは工場生産に適さないため、一時衰退したこともあったそう。しかし、1990年代になってその自然な製法が再注目されることとなった。1999年からはオーガニックの原材料を使用。クリークに使われているさくらんぼも、もちろん農薬や化学肥料を使わずに育てられたものだ。ラベルには「Kriek 100%Lambic Bio」と書かれ、ヨーロッパのオーガニック認証機関の「Certisys」の認証も受けている。

このように時間も手間もかかり、さらに醸造させる貯蔵スペースなども必要なことから1年間で製造できるのはわずか170キロリットル。近年のエコブームに合わせ、需要も増えてきているが、この製造方法を守るために醸造量を増やす予定はないのだという。

クリークはバルーン型のグラスで味わおう

いろんな醸造所からクリークが製造されているが、どのクリークのグラスもだいたい丸っこく飲み口がキュッと絞られた風船のような形。ワイングラスでいうとモンラッシュタイプのような感じだ。この上が絞られた形のおかげで真っ白な泡が消えにくく、最後の一口まで甘い香りを保つことが出来る。

カンティヨン・クリークはルビーのような赤み、フルーティーな甘酸っぱさだけでなく、カンティヨンのビールならではの乳酸菌の酸っぱさも特徴。苦味も強くないため、誰にでも好まれる味だ。「ビールは苦くて苦手」という人にぜひ一度試していただきたい。

クリークを飲むときに一緒に食べたいのが「カルボナード」という肉のビール煮込み。ベルギーのレストランに行ってみるとこの組み合わせで食べている人をよく見かける。カルボナードはビールで煮込んであるので、濃厚そうな見かけよりはさっぱり。クリークとぴったりだ。

そのほか、軽い前菜やチーズのサンドイッチなどにもよくあう。ベルギーにはフランスパンのサンドイッチ屋がどこの街にでもあるので、生ハムとメロンのサンドイッチや、カマンベールチーズといちじくのサンドイッチなどと一緒にどうぞ。

まとめ

甘酸っぱいフルーツビール、カンティヨン・クリークは誰にでも愛される優しい味わい。

またカンティヨンにはさくらんぼだけでなく、木苺のビールもある。クリークの後はカンティヨン・フランボワーズもお試しを。

※本記事はコロナウイルス感染拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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