映画「シッコ」:世界の医療問題

高額すぎる医療費や医療保険代が原因で、病気や怪我をしても十分な医療が受けられない国民が多数存在するアメリカ。アメリカの医療制度は問題視されているものの、全く改善の余地が見られず疑問の声が上がっています。突撃取材を敢行し、リアリティ溢れるドキュメンタリー映画を撮ることで有名なマイケル・ムーア監督の「シッコ」は、アメリカの医療問題を提起している作品です。

世界の医療制度は国によって様々な形があります。手厚い保険制度のおかげで十分な医療を無料で受けられる国がある一方、保険に入れないことで医療が受けられず、苦しむ人々をかかえる国も。特にアメリカの医療費は高額すぎると度々耳にすることも多いかもしれません。

『シッコ』が描くアメリカの医療

2007年のアメリカ映画「シッコ」。アメリカには国民健康保険のような制度がなく、未就労の成人の半数以上が民間の医療保険にも入っていないという現状です。その原因は、高額すぎる医療費と利益重視の病院や医療保険会社にあります。シッコはそんなアメリカの医療制度の理不尽さをリアルに描いた作品です。

国民が医療保険未加入

アメリカというと、広大な土地に色んな人種が入り混じった、様々な事柄の最先端であるというイメージがあります。しかし医療制度に関してはヨーロッパなどの医療費が無料の国(フランス、イギリスなど)と比較してもかなり遅れている印象です。シッコでは医療制度に恵まれた国々と比較し、アメリカの医療の実態を明るみにしています。

アメリカには国民健康保険制度がないため、民間の保険会社に加入するのが一般的。しかし、この医療保険自体が高額であることから、未加入者が未だに多数存在しています。

保険会社の実態

民間の保険会社の保険料が高額な理由は、そもそもアメリカの医療費が高すぎるためでもあります。そのため医療保険に入れず、怪我や病気をした場合も十分な治療が受けられないまま亡くなってしまう人もいることが現実。

さらに、保険に加入していているのに不当な扱いを受けるケースも。民間の保険会社は加入者の情報を徹底的に調べ上げ、小さな申告漏れなどを指摘しては契約解除にし、保険金を支払わないというやり口も多発しています。映画「シッコ」では、このような保険会社の利益重視で人の命も顧みない冷酷な実態を取り上げています。


映画から見るアメリカ医療の疑問点

映画では、保険会社に命じられた病院しか行けず、近所の病院にかかれないため亡くなってしまう人や救急車利用の高額請求など、アメリカ国民の医療に対する負担について取り上げています。さらに、医師が保険会社と口裏合わせし、利益を上げているという事実や、政治家が国民皆保険導入を拒否し続ける実態に疑問を投げかけています。学校の授業料の無償化や警察・消防が無料であるのに対し、なぜ医療は高額なままであるのか、というムーアの問いに考えさせられる作品です。

アメリカ医療の特徴

アメリカの医療には保険制度があるものの、一定の基準を満たした者しか入れないため、条件に当てはまらない場合は民間の保険に加入するしかありません。

しかし保険料が高額であるため、満足のいく医療を受けられるのは高所得者や大企業に勤務していて会社が保険料をほとんど賄ってくれる人など、ごく限られた人だけというのが現状です。

老人や低所得者向けの医療制度

アメリカの公的な医療機関は存在してはいるものの、高齢者や障害者対象のもの、または低所得者を対象にしたものだけ。つまりそれらに満たない人は公的な医療制度を受けることができず、民間の保険会社が提供する保険に加入するしか手立てはありません。

民間の医療保険会社

映画「シッコ」の紹介でも触れましたが、民間の医療保険に加入していた場合でも確実に保険料が下りるとは限りません。少しの申告漏れなどでも契約破棄になり、保険料が支払われず医療が受けられない人がいます。

高額な医療費

そもそもアメリカの医療費は高額で、それらに伴い医療保険額も高額になってしまうという歯がゆい現状があります。アメリカでは医療保険制度こそ遅れているものの、医療技術自体は世界でもトップをいくほどの発展ぶりです。そのため、その最新医療にかかる費用がかさみ、さらに医療費が高額になるという仕組みです。

このため、保険に加入しても実際に保険料を払えるのは、一般的にお金持ちと呼ばれる人だけになってしまいます。貧困層は薬を購入することですら難しいといった状況。高額すぎる医療費で自己破産するパターンはアメリカならではでしょう。

医療現場の人件費削減とオバマケア

アメリカでは、医療現場の人件費削減に伴う過労問題も無視できない状況にあります。国民の命や健康より利益優先といった現状が多くの人々を苦しめているのです。

2014年にはオバマケア(医療保険制度改革法)が始まりましたが、会社から手厚い福利厚生を受けている者たちなどからは反対の声が多数でていました。この制度が導入された後も実際には保険料が上がっています。

世界の医療保険制度

映画「シッコ」でも取り上げられた世界の医療保険制度ですが、フランスやカナダ、イギリスなどは医療制度が充実し、国民が安心して医療を受けられる体制が整っています。ここで、フランスやカナダの医療制度について詳しく見ていきましょう。

フランスの医療保険制度

フランスは医療保険制度が充実しています。ガンになった場合や妊娠出産に伴う医療費は全額無料。基本的な自己負担は30%で、さらに医療費がかかる場合は20%になるという制度が設けられています。また、ガンや糖尿病など絶対に欠かせない薬が必要なケースでは、自己負担がありません。その一方で、あまり効果がないとされる薬代は自己負担額が85%といった、実に合理的で国民のことをよく考えた制度であると言えます。多くの国民が「補足医療保険」と呼ばれる保険に加入しており、これは公的な保険でカバーしきれない医療費を保険でまかなってくれるもの。これらで自己負担額をさらに抑えることが可能になるため、フランス国民は安心して医療を受けることができるのです。

カナダの医療保険制度

カナダでは税金こそ高いと言われますが、医療費は全額無料で国が負担してくれます。手厚い制度の恩恵が受けられるのは、カナダの人々が国民皆保険に加入できるためです。長期に渡る通院も入院もすべて無料ですが、一部例外で歯科や眼科、薬代は全額自己負担となっています。これらの制度を上手く活用していくために医療費はとことん削減され、また診察を受けるために予約してから2~3か月ほど待たされるなどの問題は出ているようです。しかし、それでも満足に医療を受けられずに困っているアメリカ国民からするとありがたい制度であることは間違いないでしょう。

マイケル・ムーア監督が描く社会問題をテーマにした作品

シッコではアメリカの医療制度について鋭い切り口から現状を訴えていたマイケル・ムーア監督。他の作品でも社会的な問題についてドキュメンタリータッチで描いています。それらの作品をご紹介します。

華氏911

9・11同時多発テロやイラク戦争について考えさせられる作品。ジョージ・W・ブッシュ政権の動きや戦争で息子を失った母親への取材を通し、テロや戦争の全貌を明るみにしてきます。

キャピタリズム~マネーは踊る~

リーマンブラザーズの経営破綻が引き起こした世界的な経済問題を題材にした作品。「金を返せ!」と叫びながらウォール街を突進するムーア監督が印象的です。

まとめ

映画「シッコ」とアメリカの医療制度問題についてご紹介しました。他の国ができることを何故アメリカが出来ないのか?というムーア監督の疑問に共感できるとともに、アメリカの医療の現実について考えさせられます。まだ見ていない人は一度映画「シッコ」を鑑賞してみることをおすすめします。

※本記事はコロナウイルス感染拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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