エヴァ・ヘス:近代芸術に多くの影響を与えた芸術家

※画像はイメージです。

エヴァ・ヘスは、ニューヨークで近代的な芸術を築きあげた芸術家です。彼女は“空間芸術”の先駆け的な存在となり、数々の作品を世に生み出しました。さまざまな素材を用いて作品をつくり、人々に多くの衝撃を与えたといわれています。1970年には脳腫瘍で34歳という若さで亡くなりました。

エヴァ・ヘスは、従来の絵画や彫刻にとらわれない“異なる素材”を用いて、近代的な作品を多く生み出しました。その中でも強化ガラス製プラスチックを用いた芸術作品を得意とし、その作風は後に空間芸術の先駆けとして多くの芸術家たちに影響を与えました。

このページでは、わずか34年間の生涯でありながら近代芸術に多くの功績を残したエヴァ・ヘスの華々しい経歴を紹介するとともに、彼女がこだわってきた【ミニマリズム】と呼ばれる無駄を省いた素材だけで表現をする作品への強いこだわりについて、詳しく紹介していきます。

1.エヴァ・ヘスの略歴

まずはエヴァ・ヘスがどのような人生を歩んできたのか、彼女の略歴を簡単に紹介していきましょう。

1-1.生い立ち

※1930年代、ニューヨーク

エヴァ・ヘスは1936年にドイツのユダヤ人家庭に生まれました。当時ドイツは、ユダヤ人を迫害する政策を行なっていた最中であったため、彼女の身を案じた両親はオランダに逃げるように計画。その後、戦災を逃れるようにイングランドに移り、最終的にはニューヨークで暮らすようになります。

1-2.ニューヨークでの生活

激動の幼少期を過ごした後、ニューヨークで芸術の基礎を学ぶようになります。才女でもあった彼女は、わずか16歳でニューヨーク工科大学を卒業。その後1959年にはイエール大学で博士号を取得するなど、優秀な成績をおさめました。

1-3.ヨゼフ・アルバースとの出会い

ニューヨークの生活の中で、自身の人生に大きな影響をあたえる人物と出会います。それが、ヨゼフ・アルバースです。ヨゼフ・アルバースはドイツ出身の芸術家で、抽象画を得意とし、拠点をドイツからニューヨークに移して活動していました。

抽象画とは、ある物の対象を描いて表現をする作品ではなく、無機質な形を組み合わせて表現するもの。ヨゼフ・アルバースの代表的な作品は、正方形を組み合わせて作成する絵画が多く、抽象表現について造詣の深い芸術家でもありました。

彼はこの絵画の理念を用いて、色彩と形態の関係をイエール大学で教えていました。この時、エヴァ・ヘスは彼の教えを乞い、それまで手がけてきた作品とは違う抽象的な絵画を制作するようになります。

1-4.夫との出会い

大学卒業後、ドイツ人彫刻家トム・ドイルと結婚します。結婚後は夫の彫刻に影響され、彫刻をはじめます。そして、ドイツに滞在し芸術作品の創作活動に力を入れるようになりました。

離婚後は彫刻をやめ、立体的な作品づくりに取り組みます。立体作品には、ガラス強化プラスチック繊維を使用した新しい素材を用いて、近代的な芸術作品を多く生み出すようになりました。

2.エヴァ・ヘスの代表作

エヴァ・ヘスの代表作を紹介していきましょう。立体作品でも特に注目をされるのが「コンティンジェント」です。このコンセプト作品は「私が手がけた作品の中で、最もばかげた作品である」と自ら評価した一方で、他者からはその無機質な物質の並びが独自の世界観をうまく表現しているといわれています。

また、作品にタイトルがないものが多いのも彼女の特徴です。「無題」といった作品や物質の名前を作品名にするなど、特徴的なタイトルはつけていません。

3.エヴァ・ヘスの作風と特徴

彫刻作品を作り上げる際に大切にしていたのが「即興性」。彼女が特に好き好んでいたのは、ラテックスと呼ばれる素材です。この素材は独特な光沢があるため、当時は近未来的な衣装を制作する際に必要不可欠といわれていました。

彼女はこの素材を使用し、多くの彫刻作品を生み出すようになりました。この素材での彫刻作品をきっかけに、さまざまな素材を使用した作品への制作にこだわるようになります。また素材だけでなく、抽象的な絵画を学んでいく上で、ミニマリズムやポスト・ミニマリズムにこだわりを持つようになっていきました。

そんな彼女が行き着いた先が、コンセプトアートです。晩年は空間に物を置いてアートを表現するという、今まで触れてきた芸術にはない新たなアートに感銘を受け、コンセプトアート作品を多く手がけるようになります。

4.ミニマリズム、ポスト・ミニマリズムとは?

芸術の表現方法として、ミニマリズムというものがあります。この表現を大切にしていたことは、彼女の作品づくりに大きな影響を与えました。

では、ミニマリズムについて詳しく解説していきましょう。

4-1.ミニマリズムとは

ミニマリズムとは、表現をする上で必要最低限のものを残し、無駄なものは全て取り除くという表現方法。代表的な作品としては、アメリカの彫刻家「ドナルド・ジャッド」が発表した「無題」という作品があります。

「無題」は、内側が赤い鉄の箱が机の上に置かれた作品。一見すると鉄の箱が置かれているだけというものですが、これこそが無駄を省いたミニマリズムなのです。

この作品がなぜ成立するのかというと、従来の彫刻の考え方がその謎を解決してくれます。彫刻にはもともと対象があり、それをアーティストが考え、独自の表現をするものでした。
ロダンの考える人や、ミケランジェロのダビデ像はまさにそういったものです。

しかし、ミニマリズムの場合はアーティストの感情も不要。物を表現するためにストイックに考えた結果、アートは物質だけで表現することができると考えたのです。

この考え方こそがミニマリズムの真骨頂。先述の通り、エヴァ・ヘスも彫刻作品を手がける上ではミニマリズムの考え方を大切にしました。ミニマリズムの作品に感銘を受けたのも、ヨゼフ・アルバースとの出会いがあったからといわれています。彼に教えを乞うたことでヒントを得ることができ、それが制作につながったというわけです。

4-2.ポスト・ミニマリズム

ミニマリズムは必要最低限のもので表現されますが、彼女はこのミニマリズムにある要素を加えます。ミニマリズムの最低限の素材の中に素材の触感性や表現性、脆弱性をアピールする作品をつくり、世に発表しました。これに対して、「ミニマリズムにも、新しい表現手法が加わるのではないか」と美術評論家であるロバート・ピンカス=ウィッテンが論考するようになります。

この結果、エヴァ・ヘスのような無機質の物質の作品にも表現を入れて作品をつくる動きが盛んになり、ポスト・ミニマリズムが活発になっていきました。ただ物質を表現するだけでなく、空間や素材、時間プロセスなどを織り交ぜたコンセプトアートが多く生み出され、今へと至ります。

これといった有名な作品は存在していないものの、新しい芸術への考え方の基礎を提案し、今でもその考え方は受け継がれています。ミニマリズムの作品は美術館だけでなく、さまざまな場所で表現することが可能という点も、他の芸術作品とは大きく異なる点といえます。また、正解がないため、今後もミニマリズムの作品は素材や形を変えて多くのものが生み出されていくことでしょう。

5.まとめ

エヴァ・ヘスは、34年という短い人生でありながら、近代芸術に多くの影響を与えてきました。その作品の多くはコンセプトアートなので、発表された作品を見るのが彼女のアートを一番楽しめる方法なのではないでしょうか。

彼女の作品はニューヨークの現代美術館で多く見ることができるので、ぜひこの機会に訪れてみてはいかがでしょうか。

※本記事はコロナウイルス感染拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

関連記事一覧