クレス・オルデンバーグ:彫刻界への新たな挑戦

クレス・オルデンバーグは、ウォーホル世代のポップアートを代表する彫刻家。彼の作品が評価されるのは、それまでの彫刻の概念を覆した点です。身近な日用品を巨大化させた『巨大彫刻』は彫刻の固いイメージを変え、より親しみやすいものとしました。さらに『ソフトスカルプチャー』というやわらかい素材を用いた彫刻作品では、彫刻の新たな可能性を示しました。ポップアート界に新たな風を吹き込んだ時代の先駆者です。

アンディ・ウォーホルと同じ時代に生まれ、ポップアート界に大きな影響を与えた「クレス・オルデンバーグ」という彫刻家をご存じでしょうか。彼の作風は一風変わっており、彫刻に対する固いイメージをガラリと変えたのです。本記事では、オルデンバーグの作風や経歴について、また、彼の代表作品をご紹介します。

1.クレス・オルデンバーグとは?

クレス・オルデンバーグ(1929年1月28日~)はアメリカの彫刻家で、スウェーデン出身。巨大彫刻のパブリックアートで知られ、ポップアート時代の代表作家として有名です。

※パブリックアートとは、美術館やギャラリーといった施設以外の公共のスペース(道路や公園、広場など)に設置された美術作品のことです。

1-1.クレス・オルデンバーグの経歴

オルデンバーグはスウェーデンに生まれましたが、幼少期に家族とともにアメリカのニューヨークへ移住。その後はシカゴで過ごしています。彼はイリノイ州にあるラテン・スクール・オブ・シカゴに通い、イェール大学に進みました。

子ども時代の彼のスケッチは、戦闘機を描いたものや(当時アメリカは戦時中)、漫画の絵コンテなど、さまざまなものがあります。なかには同級生の顔を誇張して描いた似顔絵もありました。

それらは一見、天才と呼ばれる芸術家たちに比べても”特別な何か”があるようには見えません。一方で、「構図力」の素晴らしさは群を抜いていました。また、「ユーモア」のセンスも優れており、大量のスケッチには彼の遊び心が溢れていたのです。

さらに建築物のドローイングは、設計エンジニアと同じだけの情熱が感じ取れるほどでした。子どもが描いたことが疑われるほど緻密に書かれた設計図は、彼がやはり只者ではない”何か”を持っていたことを感じさせます。

2.クレス・オルデンバーグが芸術家になった理由は?

実は、彼はもともと芸術にはそれほど興味を持っていませんでした。それというのも、彼が関心を持つのはあくまで”物体”であり、美術作品ではなかったからです。

その証拠に、幼少期に住んでいたシカゴにある『シカゴ美術館』のことを「よくわからない存在だった」と口にしています。そんな彼は、幼少期にはむしろ『フィールド自然博物館(シカゴ市内にあるミュージアム・キャンパス)』に通っていました。

そんな彼が芸術家を志すようになったのは成人以降のこと。1954年まで、シカゴの美術大学であるSAIC(The School of the Art Institute of Chicago)でPaul Wieghardtの指導のもと美術を学びました。腕を磨くとともにあちこちを転々とし、記者をしたり広告代理店に勤めたりしていました。

オルデンバーグの作品に初めて値段がついたのは、それからしばらくのこと。その作品は57th Street Art Fairにあり、5品25ドルで売れました。ニューヨークに戻った彼は多くの芸術家たちと知り合い、本格的に芸術を極めることになります。

3. 作品の特徴

幼少期から”物体”に興味を持っていたオルデンバーグ。彼は彫刻家として様々な作品を世に発表してきましたが、その作風はどのようなものだったのでしょうか?

3-1. 「巨大彫刻」の迫力

クレス・オルデンバーグの作品でもっとも印象的なのが「巨大彫刻」。その大きさは人の身長を優に越え、見上げられるほどの高さです。なかには建造物と変わらない高さを持つ作品もあります。

彼が作品のモチーフに選んだものは、一風変わっていました。それは、身近にある”生活用品”。
例えばりんご、鋸、バドミントンの羽根、ポテトといったようなもの。

彫刻と聞くとイメージされがちなのは、人体を忠実に再現した石膏像や銅像、または抽象的なオブジェなどです。しかし、オルデンバーグは従来の彫刻とは全く別物の作品を創り出しました。

3-2. ソフトスカルプチャー

また、彼が生み出した新たな表現のひとつに『ソフトスカルプチャー』があります。これは、その名の通り柔らかい素材でできた彫刻のことを指します。ソフトスカルプチャーに用いた素材は、布や糸のような繊維であったり、ゴムなどの人工物であったり。柔らかく可塑性のある素材を用いて、彫刻作品を創り上げました。
この『ソフトスカルプチャー』という新たな表現は、「彫刻は石や木、金属の鋳造など硬い物質で作られたもの」という既成の概念を覆しました。

3-3. オルデンバーグは彫刻の新しい可能性を示した

オルデンバーグが生み出した「身近にある生活用品の巨大化」や「ソフトスカルプチャー」という新たな表現技法は、彼の代名詞となりました。そこのような作風は以前の彫刻界には全くなかったことから、多くの芸術家に衝撃を与えたのです。

しかし、彼の作品に影響を受けたのは芸術家やアートに関係する人々だけではありません。身近なものを題材とした数々の作品は、彫刻の固いイメージを和らげ、とっつきやすく人間味のあるものとしてアートに親しみのない人たちへのアプローチともなったのです。

彼はウォーホル(アンディ・ウォーホル)世代のポップアート先駆者として、アート界に新たな風を吹き込みました。

4. クレス・オルデンバーグの作品が見られるスポット4選

ここでは、彼の代表作が見られるスポットを作品の制作年順にご紹介します。

4-1. 【アメリカニューヨーク】ホイットニー美術館

French Fries and Ketchup“フレンチフライとケチャップ”(1963年)『ソフトスカルプチャー』の作品のひとつである、フレンチフライとケチャップ。お皿の上にのせられたポテトは、やわらかい素材だからこそ活きる曲線が面白いです。異素材で作られたケチャップは光沢があり、ポテトとの違いにも注目です。普段手のひらにおさまる食べ物を巨大化する遊び心は、オルデンバーグならでは。

4-2. 【アメリカミネアポリス】

Spoonbridge and Cherry”スプーンの橋とさくらんぼ”(1988年)スプーンの持ち手が橋になっており、池に横たわるさまは圧巻の一言。持ち手やさくらんぼの枝部分の曲線は滑らかで、計算された美しさを感じます。橋の機能を備えたこの彫刻作品は「彫刻は眺めるもの」というイメージをガラリと変えました。

晴れた日はさくらんぼのビビッドな赤色がつややかに光り、無機物ながら美味しそうに見えますよ。

4-3. 【日本東京】ファーレ立川アートコレクション

Lipstick with Stroke Attached”リップスティック”(1994年)薄い金属板に塗装されただけのシンプルな作品。日用品をモチーフとするオルデンバーグの代表的な作品で、リップスティックの鮮やかな赤色がみずみずしく、永遠の若さを主張しているように見えます。

4-4. 【日本東京】東京ビッグサイト前

SAW,SAWING ”切っている鋸”(1996年)
地面を切り裂く巨大な鋸は、橋の上からでも見上げられるほどの高さ。オルデンバーグの作品はビビッドなカラーを使うことも多く、こちらも”スプーンとさくらんぼ”や”リップスティック”のように赤色が目を惹きます。大地を切っているようなこちらの作品は「問題解決のプロセス」を表現しています。

まとめ

ポップアート界を牽引した彫刻家、クレス・オルデンバーグ。日用品を芸術のテーマとするユーモアのセンスや、『ソフトスカルプチャー』という新たな技術を生み出す挑戦的な姿勢を持ちます。それらが、今もなおアート界に影響を与え続ける理由ではないでしょうか。アートは芸術家だけのものではない…彼の作品からはそんなメッセージが伝わってくるのです。

※本記事はコロナウイルス感染拡大より以前に執筆・掲載された記事です。

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